コンシューマライゼーションの衝撃(前編)
無数のiPhoneが変えたIT部門の職場風景
コンシューマー向け技術と企業向け技術の融合は不可避なようだ。この融合がITプロフェッショナルにもたらす構造的変化は、決して侮れるものではない。
過去半世紀にわたり、企業によるIT活用の動きを追ってきた人であれば誰であれ、ユーザーとIT部門との長年の難しい関係をよく理解していることだろう。IT部門の最も重要な使命は「会社のITインフラの頑強なセキュリティと制御を維持すること」だ。世間一般では、「IT部門がハードウェアとソフトウェアの両方を慎重に選別し、承認し、制御しなければ、大混乱に陥るのは必至」と考えられてきた。
だがこの10年間、とりわけ米Appleが一連の画期的なモバイル製品を投入して市場を一変させてからというもの、従業員は自分が仕事とプライベートで用いるツールに対して、声高に発言権を主張するようになってきている。見識のあるCIOであれば、この変化を先頭に立ってリードすべきは自分であり、さもなければ完全に従業員に無視されることになりかねないことを理解しているはずだ。
「これまでのところ、大半の企業のIT部門はいまだに、正式にはBlackBerryしかサポートしないと言い続けてきた。だが、変化は確実に起きていた。CEOやCFO(最高財務責任者)やCOO(最高執行責任者)といった肩書にCが付くクラスの幹部たちが、クリスマスに手に入れたiPhoneやiPadを職場に持ち込み、IT部門にサポートを求めるようになってきたのだ。IT部門がノーといえる相手ではない」と米Forrester Researchのアナリスト、クリスチャン・ケーン氏は語る。
実際、企業の最高幹部らはこうしたモバイル端末に強い関心を抱いており、こうした端末がもたらす可能性を理解し、自分の周りにも利用者が大勢いることを実感している。だからこそ、幹部らはIT部門に対し、こうした端末のサポートを促しているのだ。
数字もこうした変化を裏付けている。2011年には、世界で販売されたスマートフォンの台数は前年比で61%増加し、5億台近くに達した。AppleのiPhoneは2007年の発売以来、累計販売台数が1億台を優に上回っている。また、タブレット端末の販売台数は2011年に前年比で261%急増し、6300万台に達している。AppleはiPadをわずか2年間で5500万台以上販売し、ここ最近の四半期は、競合他社のどの売れ筋ノートPCよりも多くの台数のタブレット端末を販売している。今後もAppleの新型iPadや他社のAndroid端末の投入が続々と予定されており、この新しいコンシューマー端末市場の成長は当分衰えることがなさそうだ。
なぜそうなるのか? 結局のところ、従業員はコンシューマーだからだ。IT部門から支給されたのではなく、クリスマスに手に入れたiPhoneだとしても、その影響力に変わりはない。IT部門が承認した他のどの端末よりもiPhoneの方が仕事に役立つということであれば、会社から支給されたBlackBerryは机の引き出しにしまわれたままになるのが落ちだ。
IT部門にとってさらに混乱を増大させるのは、サポートしなければならない端末の多さだ。Forrester Researchの調査では、仕事に使う端末の台数について、回答者の74%が「2~3台」、52%が「3台以上」と答えている。
コンシューマライゼーションの新世界秩序
先見の明のある(あるいは倹約家の)経営者は、既にコンシューマライゼーションを受け入れている。何しろ、大半の従業員は自分の端末を自分で購入し、データ通信料を自分で支払うため、ITコストを大幅に削減できる。その上、従業員は職場との接続を常に確保できるため、生産性の向上も確実に見込める。時間や場所にかかわらず従業員が常に会社のシステムに接続できるということであれば、CEOも大喜びだろう。
「ただし、新たな秩序に適応する上で、IT部門には克服すべき政治的な障害が幾つかある」と経営ITコンサルティング会社、米ITR Mobilityのアナリスト、ネイサン・クレベンジャー氏は指摘する。同氏は、『iPad in the Enterprise: Developing and Deploying Business Applications(企業のiPad活用:ビジネスアプリの開発と導入)』の著者でもある。
「コンシューマライゼーションの皮をはぎ取れば、結局のところ、権力争いに行き着く。まだBYOD(私物端末の業務利用)が実施されていない段階から、コンシューマーの影響力は急速に高まりつつあり、IT部門もそれを感じている」と同氏。
コンシューマライゼーションと端末選択の自由は、今や激論を呼び起こす問題だ。従業員の中には、「より高い給料」よりも「自分の端末を自分で選択できる融通性」を高く評価する向きもいるほどだ。最近、米Cisco Systemsが資金を出し、大学生や若いエンドユーザー3000人を対象に実施された調査では、「『端末の選択、ソーシャルメディアの利用、モバイル環境については融通性が高いが、給与が低い仕事』と『そうした融通性は低いが、給与が高い仕事』のどちらを選ぶか」という質問に対し、回答者の5人に2人が「前者を選ぶ」と答えている。「若いビジネスパーソンは自分が使いたいテクノロジーを諦めるより、給料の減額を選ぶ」という調査結果は、驚くべき新しい現実をIT部門に提示している。
「若いビジネスパーソンはもはや、テクノロジーを『プライベート対仕事』という図式では捉えていない」と指摘するのは、BYODを専門としているクレベンジャー氏だ。若いビジネスパーソンは、仕事用と私用のテクノロジーを容易に融合できることを望んでいる。私用か仕事かで端末を使い分けたくないのだ。「テクノロジーは今ではライフスタイルの一部となっている。だからこそ、非常に重要だ」と同氏。
もう1つ、コンシューマライゼーションの動きを後押ししている要因としては、テクノロジーや端末が突如、よりパーソナルな存在となってきたことが挙げられる。多くのユーザーが、自分の端末を仕事とプライベートの両方に活用したいと考えている。
単にIT部門が従業員にノートPCを支給していただけの時代には、従業員がハードウェアやOSに対して愛着を持つことなどほとんどなかった。だが、そうした無機的なやり方は急速にすたれつつある。「事態は既に動き出している。ユーザーとIT部門の間には、はるかに大人の関係が生まれつつある」と語るのは、米モバイルコンピューティングコンサルティング会社、Mission Critical Wirelessの社長兼CEO、ダン・クロフト氏だ。「かつてIT部門のやり方は、『言う通りにしなければ、夕食は抜き』という一方的なものだった。もはや、そのような世界に戻ることはない」とさらに同氏は続けている。
後編はコンシューマライゼーションを進める上で欠かせないセキュリティについて解説する。
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コンシューマライゼーションの衝撃
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