企業向けシステムを構築するパブリッククラウド【第15回】
「プライベートVLAN」が素晴らしい、IBM「SoftLayer」の知られざる魅力
「自由度」と「透明性」を備えたIBMの「SoftLayer」。最大の魅力は何と言ってもネットワークにある。拠点間データ転送量は無料。IT管理者は単一のプライベートVLANを経由し1つの画面で複数拠点を一元管理できる。
本連載ではパブリッククラウドをはじめとするさまざまな「新しいタイプのITインフラ」を、エンタープライズの業務システムで利用する観点から解説を行っている。先日、エキサイティングなニュースが飛び込んできたので、久しぶりにパブリッククラウドを正面から取り上げてみたい。2014年12月22日、エンタープライズ向けITインフラで100年の歴史を持つ米IBMが、クラウドサービス「SoftLayer」を日本に陸揚げした。先行する他社クラウドサービスとはどう違うのか、インタビューや公開情報などで得た情報をベースに紹介してみたい。
なお、IBMのクラウドについては、本欄で以前にも紹介したが、全く違うサービスに生まれ変わっていることをご留意いただきたい(参考:豊富な仮想マシンイメージと低価格が魅力のIBMのパブリッククラウド)
これまでの連載
- 第14回:オープン性と品質が強み、国産クラウド老舗のIDCフロンティア
- 第13回:企業システムの発想を刺激する、Googleクラウドの構成要素
- 第12回:インスタンス型ではなく“リソース型”を提唱する「GMOクラウド Public」
連載インデックス:企業向けシステムを構築するパブリッククラウド
SoftLayerの生い立ち
同サービスの母体となる米SoftLayer Technologiesは2005年に創業された米国のベンチャー企業である。2013年の冬にIBMに買収されたが、それまではWeb系のホスティング業者として名をはせていた。いわゆるレンタルサーバ事業に近い業態だったと言えそうだ。事業の発展とともに、多数のサーバを自動でマネジメントする仕組みやユーザーサポートの体制、グローバル展開などのサービスの強化を図り、着実にユーザーを増やしてきた。IBMの一員となってからはその投資を急速に加速させ、特にエンタープライズ向けの機能を充実させている。
実際、SoftLayerはグローバル展開を掲げているが、2013年(約1年前)までは、米国(5カ所)と欧州(アムステルダム)、アジア(シンガポール)各1カ所(計7カ所)しかサービス拠点がなかった。買収後は急速に拠点を増大させ、現在は豪州や香港を含む13拠点に達している。この勢いは今後も加速するようだ。
日本上陸もその一環だ。これはSoftLayerにとって日本が魅力的な市場だという点も大きいが、逆に海外のSoftLayerの既存ユーザーが、ユーザー自身のサービス拡大のために、日本での利用を強く希望していたという背景もあるとのことだ。
では、サービスの特徴を見ていこう。
IaaSとしての特徴を概観する
基本的にはIaaSであり、情報インフラを構成するコンポーネントをネットワーク経由でサービス提供している。主なコンポーネントはサーバやストレージ、ロードバランサーやファイアウォールなどである。料金体系は基本的に1カ月単位だが、サービスによっては1時間単位での利用も可能となっている。
「Amazon Web Services」(AWS)や「Microsoft Azure」(Azure)などに見られるデータベースサーバのサービス提供(マネージド型の提供)は行われていないが、さまざまなデータベースのサーバイメージが用意されているので、これを活用することになる。詳細なコンフィギュレーションをいじり倒したい場合には有益な選択肢だろう。
ストレージとしてSANやNASが単品で購入できるのも特徴的だ。オンプレで慣れたシステム構成が平易に組めるようになる。
サーバは物理サーバのメニューが充実している点は特筆に値する。また、サーバがレイアウトされる仮想ネットワークのうち、ユーザーごとに与えられる「プライベートVLAN」にも他のクラウドにはない利便性がある。この辺りは後述したい。
オブジェクトストレージやCDN、閉域網接続なども用意されており、IaaSの先行者とは互角の機能を備えている。
意外なサービスとしてCoD(Customer Owned Device)がある。これはSoftLayerのデータセンターにユーザー保有の機器類の持ち込みを可能とするものだ。1U当たり月額100ドルで利用でき(最大4Uまで)、ここに持ち込んだ機器は自動的に前述のプライベートVLANに接続される。利用には幾つか条件があるが、クラウド活用の幅を大きく広げるものとして期待されよう。
ホスティング事業者としてのこだわり
実は意外にも「出自がホスティング事業者」という点は他の主要クラウドプレーヤーにはない特徴だ。米Amazon Web Services(出自はオンライン書店、以下同じ)、米Google(検索サービス)、米Microsoft(ソフトウェアベンダー)と比べても特筆すべきである。SoftLayerにはホスティング事業者として純度の高い哲学と思想が随所に垣間見える。以降ではその辺りを意識しながら解説していきたい。筆者の主観で選ぶ「際立った特徴」は下記の通りだ。
- 物理サーバの充実
- インフラ屋の腕が鳴る? 自由度と透明性
- プライベートVLANの利便性
- さまざまな「リアリティ」
物理サーバが充実
ユーザーが利用できるサーバには大きく分けて、物理サーバ/仮想サーバの2種類がある。前者は「ベアメタル」と呼ばれる。基本的には月間利用(1カ月単位での利用)だが、時間貸し(1時間単位での利用)が可能なものもある。
まず、CPUの型番が選べるという点に驚く。筆者はCPUによる性能差にあまり詳しくないが、Xeon 1230~5670まで10種類以上あるようだ。プロセッサ数も1、2、4から選択となる。最大40coreという記載があった。
メモリは2Gバイト~512Gバイトまで。プロセッサ数によっておおむね2Gバイト~32Gバイト単位で指定する。ローカルストレージは500Gバイト~96Tバイトの間(SSDを指定すると最大20Tバイト)で500Gバイト単位(SSDは800Gバイト)で組み合わせることができる。これらの物理サーバはSoftLayerのWebのサイト上でコンフィギュレーションをしながら価格を計算することが可能だ(参照:SoftLayer Bare Metal Servers)。
試みに最小のスペックと最大のスペックで月額費用を算出してみたので、参考にしていただきたい。OSはいずれもCentOSである。
| 構成 | CPU | クロック | プロセッサ数 | コア数 | メモリ | HDD | 月額コスト |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 最小 | Xeon 3460 Quad-Core | 2.80GHz | 1 | 4 | 2Gバイト | 500Gバイト | 149ドル |
| 最大 | Xeon 4650 10 Core | 2.00GHz | 4 | 40 | 512Gバイト | 5Tバイト | 3591ドル |
物理サーバはWeb画面から注文(order)して2~4時間で提供される。時間がかかるのは実際に注文に応じたマシンを指定したデータセンター内でスタッフが組み上げているからである(!)。最初は耳を疑ったが、その様子(?)が動画で公開されているので紹介したい。YouTubeに複数あるが、最新のものは「SoftLayer + Supermicro Server Challenge II - World Record」である。
イベント会場でのパフォーマンスなので、実際のオペレーションとは異なると思うが、物理的なモノが用意されるダイナミズムは伝わってくる。古株のSE(失礼。筆者もその1人だ)にはグッとくる映像なのではないか。
物理サーバには1時間単位で利用可能なものもある。ただし、スペックは4種類に限定されている(あらかじめ組み上げてあるのだろう)。プロセッサ数は1ないし2。メモリは8Gバイト~64Gバイト、ストレージは800Gバイト~4Tバイト。価格は1時間当たり0.465ドル~1.299ドルとなっている。注文してから20分~30分で利用可能になるとのことだ。
仮想サーバにも言及しておこう。スペックも価格もWebサイト「SoftLayer Virtual Servers」で一目瞭然である。
サイトに入ると分かるが、スペックが3つのゲージ(コア数、メモリ、HDD)で示されており、これを動かすことで価格(1時間単位の金額ないし月額利用料)が動的に表示される。表2に最小スペックと最大スペック、それぞれの価格を示す。なお、仮想サーバは注文から5~15分で利用可能になるそうだ。
| 構成 | コア数 | メモリ | HDD | 時間コスト | 月額コスト |
|---|---|---|---|---|---|
| 最小 | 1 | 1Gバイト | 25Gバイト | 0.040ドル | 27.60ドル |
| 最大 | 16 | 64Gバイト | 100Gバイト | $1.033ドル | 703.89ドル |
インフラ屋の腕が鳴る? 自由度と透明性
仮想化されていない物理サーバは、パフォーマンスが安定しており、何よりも「分かりやすい」点が優れている。壊れたら壊れたで、どの部分がいつ壊れたのか、いつ部品交換されたのかがクリアだ。全体がブラックボックス化しているサービスでは味わえない明快さが安心感につながる点はありそうだ。
ファイアウォールも物理的に提供される。共有型(月額49ドル)や、HA構成の占有型(月額999ドル)、米Fortinetの「FortiGate」(アプライアンス)や米Vyattaの「Vyatta」(ベアメタルサーバ+ソフトウェア)といったサードパーティーの製品もある。これらの製品に精通していれば、設定の自由度は高く、ログの取得なども自由自在だ。VPNルータもVyattaの他に米Citrix Systemsの「NetScaler」を月単位で利用できる(月額299)。
残念ながら自由度や安心感と引き換えに、最大限活用するためのスキルセットは多大なものが必要と察せられる。この種の機能が抽象化されているAWSやAzureでは、製品プロプライエタリな知識はほとんど不要だが、SoftLayerでは十分な知識を備えていないと危険とすらいえる。極論すれば、SoftLayerは「インフラのプロ」向けのサービスと言ってもいいだろう。インフラ知識に乏しいスタートアップ企業や中堅以下の企業が自力で使いこなすには難易度が高いと言わざるを得ない。
一方、大手企業の情報システム部門や大手SIerなどで、情報インフラの知識を十分に備え、長年オンプレの構築や運用を行ってきたユーザーは、しばしばブラックボックス型のクラウドサービスに漠然とした不安を抱くことがあった。彼らにとって、SoftLayerは、まさに霧(雲?)が晴れるようなサービスだと感じられるに違いない。クラウド(曇り空)らしからぬ視界の良さである。これもホスティング事業を原点とする同社の哲学の現れであろう。
プライベートVLANが素晴らしい
注文して利用可能になったサーバ類は、パブリックネットワークとプライベートVLANに接続される。このプライベートVLANの構成がプロ心をくすぐる点なので紹介したい。図1はユーザーがサーバを管理するWeb画面である。
「Device Type」に仮想サーバやネットワーク機器が同列に並んでいる。その右に「Location」があり、これらの機器が世界中のデータセンターに分散していることが分かる。それでいて実は、この機器類は全てユーザーごとに与えられた単一のプライベートVLANの配下にある。プライベートIPアドレスも表示されているが、この状態でこれらの機器はお互いの地理的なロケーションとは無関係にIP reachableな状態になる。
この特性を図示すると図2のようになる。単一のプライベートVLAN(図中では「プライベートWAN」と表記)で、全ての拠点が接続されていることが分かる。
ユーザーにはSSL VPNのポータルが用意され(図2の右上)管理者はここから入れば全てのサーバに直接ログインすることが可能になる。拠点間のトラフィックはインターネットには出ない。また、流量によって課金されることもない。この特性(機能)はデフォルトで提供され、エンジニアリングは一切必要ない。これまでのクラウドサービスにはない圧倒的な利便性であり、システム管理者のツボを的確についたサービスのデザインである。
SoftLayerの拠点間は10Gバイト~40Gバイトの専用線で接続されている。ユーザー間でシェアされるため帯域保証はされない(ベストエフォート)が、データのレプリケーションやバックアップなどではほとんど問題にならないようだ。実際、ある拠点のサーバのイメージ(バックアップ、3Gバイト程度)を、国境を超えた別の拠点に保管するデモを見たが、オペレーションは数クリック、時間も5~6分といったところだった。ネットワーク経由での大容量データ転送にはさまざまな困難が伴い、エラーリカバリなどの工夫が欠かせないが、SoftLayerのプライベートVLANを使えばその心配がほとんど要らないことが分かる。
プライベートIPアドレスが自動割り振りになっているなど多少制約はあるが、「国際展開済み。拠点間データ転送無料。サーバアクセスの一元化が可能」という特性は秀逸だ。グローバル展開する企業がガバナンスを強化しつつシステム投資を大規模に効率化していこうというニーズなどには大いにフィットすると考えられる。
さまざまな「リアリティ」
SoftLayerのサイトを見て回っていると、すぐに「チャットしませんか」というオファーがポップアップしてくる。何だか人懐っこいが、しかしサービスに関する知識はしっかりしており、これだけのスタッフを24時間365日待機させているのかと思うと、感心せざるを得ない。
サポート(トラブル対応や質問)には「チケット」という制度も使える。Webの掲示板方式でサポートスタッフとやりとりするものだ。カジュアルな(IBMらしからぬ)雰囲気で、気軽に会話が可能らしい。筆者が経験したわけではないが、「サーバが止まっているようだけど、何とかしてくれないか?」「メモリが壊れていたようだね、交換しておいたよ」のようなノリだそうだ(ただし、この経験談の時点では英語のみ。図3も同様)。ユーザー側がチケットを発行することもあるが、SoftLayer側が(障害を発見するなどして)能動的にチケットを起票するケースもあるようだ。このサポート自体は無料である。日本上陸と同時に日本語も利用できるようになった。
人系という意味では、ユーザーによるデータセンター見学も一定の条件下で受け付けているそうである。YouTube上にデータセンターの内部ツアーが動画公開されている点も興味深い。さまざまな面でリアリティ(物理的な肌感覚)のある安心感と透明性を希求していることがうかがえる(参照:SoftLayer DAL05 Data Center Tour ≡ 'Cribs' Style)。
カジュアルでオープンだからといって妙な心配をする必要はない。セキュリティ面では、SSAE16 SOC-1 Type IIやPCI-DSSを取得している。前者のリポートを使えば監査対応も問題がなさそうだ。
今後が楽しみ
IBMはPC事業を売却し(17.5億ドル)、PCサーバ事業も売却した(23億ドル)。後者について言えば、汎用サーバの需要はクラウド(IaaS)利用が主体となるという読みだろう。SoftLayerを20億ドルで買収し、さらにサービス拡充のために12億ドルを追加投資するそうだ。IBMがSoftLayerに社運を掛けていることが推察される。
さらに付加価値の高いサービスとしてIBMは、PaaSの「IBM Bluemix」や、人工知能「IBM Watson」のクラウド型提供(SaaS?)を推進している。これらはSoftLayerの上に構築されるが、SoftLayerブランドではなくIBMブランドで提供されるようだ。まさに、両者は一蓮托生である。
厳しい見方をすればIBMはIaaS業界では後発参入である。ガートナーなど調査会社の評価によれば、AWSやAzureに水をあけられている点は否定できない。日本国内でサービス拠点が1カ所しかなく、データセンターレベルでの冗長性が見劣りするのも惜しいところだ。しかしIBMには、エンタープライズのITインフラ市場において圧倒的な歴史の厚みがある。膨大な知見と投資力を背景に、これからどんなクラウドサービスを繰り出してくるのか、使う側のわれわれとしては楽しみな限りだ。今後の展開に大いに期待したい。
記述には細心の注意を払っているが、誤記などがあればそれは一義的に筆者の責によるものであり、日本IBMや筆者の所属する組織は無関係であるので、念のため付言しておく。
加藤 章(かとう あきら)
株式会社電通国際情報サービス クラウドストラテジスト
システム開発のPMやビジネスコンサルティング、戦略ITコンサルティングなどを経て、現在はクラウド関連の事業開発に従事。パブリッククラウド活用に軸足を置き、各種調査、ビジネス開発、情報発信なども積極的に行っている。TechTargetジャパンでは2010年6月から連載「企業向けシステムを構築するパブリッククラウド」を執筆中。
著書『Amazon Web Services入門~企業システムへの導入障壁を徹底解消』(2014年8月)、好評発売中。
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