IT部長さんのための技術トレンド【第6回】
1回で分かる:物理サーバを仮想サーバのように使えてしまう「ベアメタルクラウド」
OSの入っていない物理サーバ(ベアメタルサーバ)をクラウドと同様に利用できるベアメタルクラウド。物理サーバの性能にクラウドの利便性を取り入れた新しいサーバソリューションとして注目されはじめている。
最近、ITインフラ業界で「ベアメタルクラウド」という新しいサーバソリューションを耳にすることが増えてきました。しかし、まだ新しい概念のため、聞き慣れない人も多いと思われます。そこで今回は、このベアメタルクラウドを一から説明していきたいと思います。
ベアメタルクラウドとは
「ベアメタル」という言葉自体を聞いたことがないという人も多くいるのでないでしょうか。直訳すると「むき出しの金属」という意味で、航空業界で塗装前の機体を指す言葉として用いられています。塗装前の何も手が加えられていない状態という意味から転じて、IT業界では「OSがインストールされていない、空っぽの状態の物理サーバ」という意味で以前から使われていました。故に「ベアメタル」という概念は以前から存在しており、新しい技術というわけではありません。
では、ベアメタルクラウドとはどのようなサービスでしょうか? 簡単に言ってしまうと、物理サーバをクラウドのように利用することができるサービスのことです。仮想サーバを利用する感覚で物理サーバをGUIから手軽に追加・削除などができるのが特徴です。通常、ホスティング事業者に物理サーバを依頼した場合、数日から数週間かかってしまいますが、ベアメタルクラウドでは数十分ほどで物理サーバを利用することができます。
パブリッククラウドやプライベートクラウドに比べてのメリット/デメリットは?
ベアメタルクラウド以外のクラウドサービスの選択肢としては主に、パブリッククラウドとプライベートクラウドがあります。
パブリッククラウドは、1時間当たり約10円で借りられるサービスが存在するなど、ITインフラへの投資を最小限に抑えることができるため、収益が見込めるかどうか分からないサービスを始めるスタートアップ時には最適な選択肢といえるでしょう。また、サーバのデータをスナップショット機能を使ってテンプレート化して保存しておくことで、サーバの構成を簡単にコピーしたり、障害時にはそのバックアップデータから復旧をすることもできます。従来のホスティングサービスに比べ、コスト削減のみならず運用効率もアップしているといえます。
しかしパブリッククラウドは、他社ともリソース環境を共有することになるため、セキュリティ面で不安を抱えるユーザーが少なくありません。また、他社の影響を受けることに加え、ハードウェアと仮想サーバの間にハイパーバイザーという仮想化レイヤーが入るため、オーバーヘッドが生じるなど、カタログスペック通りの性能が得られないこともあり得ます。さらに、仮想サーバの単価は安いものの、転送量課金が発生するサービスがあります。そして、自社にインフラ担当者がいない場合には環境を一から構築することが困難なため、MSP(Management Services Provider)という構築から運用・保守までを請け負ってくれる事業者に依頼することになり、結果としてコスト増につながってしまうケースもあります。
一方、自社専有のクラウド環境を構築するプライベートクラウドは、他社からの影響を受けることはなく、セキュリティ面でも安心です。しかし、仮想化技術を使うことはパブリッククラウド同様です。その際に生じるオーバーヘッドを無くすことはできません。また、その環境の構築には、大きな手間とコストが掛かってしまいます。さらに、資産としてサーバを保有しなくてはいけないことに加え、その後の運用までを含めて考えると、多くの企業が手軽に利用できるものとはいえません。
では、ベアメタルクラウドはどうでしょうか。以下の表が示すように、パブリッククラウドやプライベートクラウドにおけるメリットを残したまま、デメリットを解消することができます。
| 仮想化オーバーヘッド | 他社ユーザーの影響 | スケールアウト | クラウド機能 | 初期費用 | 構成の柔軟性 | |
|---|---|---|---|---|---|---|
| パブリッククラウド | 有り | 有り | ○ | ○ | 無し | △ |
| プライベートクラウド | 有り | 無し | △ | ○ | 有り | ○ |
| 専有サーバ | 無し | 無し | △ | × | 有り | ○ |
| ベアメタルクラウド | 無し | 無し | ○ | ○ | 無し | △ |
まず、オーバーヘッドの問題では、ベアメタルクラウドはサーバを仮想化しないことから、オーバーヘッドを理由としたパフォーマンス低下が生じる心配はありません。次に、他ユーザーからの影響についても、サーバを丸ごと1台、自社専有環境として利用するため心配がありません。自社専有のセキュアな環境で、性能をそのマシンが持つスペックの限界まで使い切ることができるので、高負荷なサービスでの利用にも適しています。
また、GUIからサーバの追加・削除などができるため、スケールアウトといったクラウドならではの手軽さも享受できます。スナップショットやテンプレートからのサーバ作成など、いわゆる仮想化技術によって可能になった機能も、ベアメタルクラウドでは物理サーバで実現しています。さらに、クラウドサービスなので、初期費用が掛からず日単位で利用でき、使いたいときに使えて、いらなくなったらその場で削除するといった気軽な利用が可能です。
一方で、ベアメタルクラウドを使うことのデメリットにはどのようなことがあるでしょうか。まず、物理サーバを丸ごと1台利用するため、仮想サーバほど低価格ではありません。次に、まだ発展途上のサービスであるため、パブリッククラウドのような豊富な機能を利用することができないケースが多いです。後述しますが、提供事業者が少ないことも、利用者にとってはデメリットの1つといえるかもしれません。
大規模ユーザーだけがターゲットか?
ベアメタルクラウドがマッチするケースとしては、初めからある程度のアクセス数が想定されているWebサービスや、テレビCMなどのマスメディア広告と連動し、ある一定の期間だけ多くのトラフィックが発生するWebサイトでの運用が挙げられます。現状、仮想サーバで何十、何百インスタンスも稼働させなければ対応できず、運用管理が煩雑になっているようなユーザーにとっては、物理サーバに集約することで仮想サーバ数を劇的に削減することができるため、効率の良い運用が実現します。
また、開発会社やWeb制作会社の中には、ベアメタルサーバにハイパーバイザーをインストールし、仮想サーバのホストとして利用するケースもあります。ベアメタルサーバに仮想サーバを幾つも立てることで、リソースをあまり必要としないテスト環境には仮想サーバを使い、本番環境には物理サーバで運用するといったことが可能となります。全てのサーバを1つのGUIで操作できるため、運用がシンプルになります。
現在、クラウドサービスを利用し、クラウドの利便性は十分に理解しているものの、前述したようにそのコストパフォーマンスに不満を抱えているユーザーにとっても、ベアメタルクラウドはマッチすると考えられます。このようなユーザーは、サービスの規模が拡充するにつれて物理サーバで運用する方が適していると考えている場合が多いです。そのため、物理サーバと仮想サーバのメリットを兼ね備えたベアメタルクラウドは非常に有効といえます。
ベアメタルクラウドを提供しているサービス事業社は?
現在、ベアメタルクラウドというカテゴリでサービスを提供しているクラウド事業者は、2013年7月に米IBMが買収した「IBM SoftLayer」と、当社リンクが2014年5月に提供を開始した「ベアメタル型アプリプラットフォーム」のみです(当社調べによる)。
他にもベアメタルという名称でサービスを提供している事業者は存在しますが、デリバリーに数日から数週間が掛かる従来型の専用サーバであるケースが多いです。現状、SoftLayerは海外のデータセンターでの提供ですが、国内データセンターでも提供する予定があることから、さらに利用しやすいものになってくるでしょう。また、当社で提供しているベアメタル型アプリプラットフォームは、24時間365日、日本語でのサポートを電話やメールで対応しているため、サポート面での安心を望む企業には適しているかもしれません。
ベアメタルクラウドは今後、ITインフラの主流になるか?
ところで、「このソリューションがクラウドにとって代わるものになるか?」と聞かれたら、それは「否」です。極力、ITインフラにコストは割かず、スモールスタートで始めたい場合は、やはり従来のパブリッククラウドサービスが多くの面で適しています。
ただし、コスト削減になりそうだからといって安易にパブリッククラウドを選択するのではなく、自社のITインフラにおける現状をきちんと見極め、運用するサービスの規模、その成長性、セキュリティレベルなど、あらゆる面から考慮した上で最適なサービスを選択することが重要です。
原田信宏(はらだ のぶひろ)
リンク at+link事業部 マーケティング部
青山学院大学を卒業後、Web広告制作会社に入社。Webサイトのプロデューサー、ディレクターとしてナショナルクライアントの自社サイト、キャンペーンサイト制作に従事。その後、コピーライターとして大手電機メーカーのマス広告制作に携わり、2012年4月より現職。マーケティングディレクターとして同社の広報、宣伝、販促活動の企画、制作、運用を行う。
関連リンク:ベアメタル型アプリプラットフォーム
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