ガートナー 飯島氏が見据えるPaaSの現在【前編】
PaaS注目の裏側には何が? 変わりつつある“アプリケーション”の意味
アプリケーションという企業活動を支える重要なパーツは今、大きな変革のときにある。その変化をドライブする役割を果たすPaaSの現状についてガートナーの飯島氏に聞いた。
クラウドコンピューティングの普及はビジネスの在り方を大きく変えた。今や新規のITプロジェクトでクラウドを選択肢に全く入れないケースはほとんど考えられないだろう。そしてクラウドの中でもここ最近、急激に注目度が高まっているのがPaaS(Platform as a Service)の存在だ。アプリケーションという企業活動を支える重要なパーツは今、大きな変革のときにある。その変化をドライブする役割を果たすPaaSの現状について、ガートナー ジャパン リサーチ部門 アプリケーションズ アプリケーション・アーキテクチャ&インフラストラクチャ リサーチディレクター 飯島公彦氏に聞いた。
――国内においてもここ1年ほどでPaaSに対するフォーカスが随分強くなった気がします。PaaSに注目が集まるようになった原因について、飯島さんはどのように分析していますか。
飯島氏 その質問に答える前に前提条件について確認をしておきましょう。まず国内企業のクラウド利用は現在大きく3つのカテゴリに分けることができます。システム基盤のサービスを提供するIaaS(Infrastructure as a Service)、CRMなどのアプリケーションサービスを提供するSaaS(Software as a Service)、そしてミドルウェアのアプリケーション開発環境を提供するPaaSです。そして2014年5月現在、2000人以上の従業員を抱える国内企業のうち、IaaSを利用している企業は30%程度、SaaSは20%強、そしてPaaSに至っては5%未満です。
――PaaSの割合は少ないのですね。
飯島氏 クラウドは浸透しているというよりも、これからのインフラだと思った方がいいでしょう。特にPaaSに関しては本当にこれからの技術です。ですが、クラウドの普及のスピードは確かに急速です。企業は現在、急速にクラウド利用にシフトしつつあります。そのスピードの理由はアプリケーションにあります。
企業が本来、ITに求めるものはインフラではなくアプリケーションだからです。事業部門単位で素早く導入できる米Salesforce.comなどSaaSの人気が高いのもその表れです。そして、アプリケーションへの注目度が高まるに従って、PaaSにフォーカスが当たって行く流れが作り出されているのが現状だといえます。
――PaaSよりもIaaSの割合が多いのはどういう背景でしょうか。
飯島氏 「アプリケーションを今すぐ使いたい」という事業部門のニーズに迅速に応えるのがSaaSなら、IaaSは「既存のアプリケーションを使い続けたいけれど運用はもうしたくない」という企業(IT部門)側のニーズがベースになっています。特に日本ではプライベートクラウドの比率が高いのですが、これは現状のオンプレミス環境をなるべく変えずに運用の負荷を軽減したいという声が強いためです。いわば、オンプレミスから仮想環境へと移行するうちに、徐々にプライベートクラウドとしての特性を得つつあるという感じでしょうか。いわゆる“リホスト(rehost)”です。業務アプリケーションとして載せているものをできるだけ変えずに、その下の(ハードウェア)インフラを変えていきたいという発想に基づいているのがIaaSへのシフトの実情です。
――動かしているアプリケーションはなるべく変えたくないけど、インフラは古くなるから変えたいと。
飯島氏 アプリケーションは企業活動を支える大切な存在です。それ故に企業はこれまで安心、安全を前提にオンプレミスでアプリケーションを作ってきました。つまりアプリケーションの設計とはオンプレミスで動くことが前提になっているのです。しかしハードウェアは必ず老朽化します。そこでシステムの老化やハードウェアリソースの確保を気にすることなく、既存のアプリケーションをそのまま実行できる「クラウドベース」へのニーズがIaaSへの導入を拡げました。最近の国内事例だとミサワホームの「Amazon Web Services」(AWS)移行などはリホストの代表例ですね。アプリケーションを全国規模、全グループ規模で標準化し、段階的に移行したことで、従来のオンプレミスではできなかった柔軟なシステムリソースの確保を実現しました。コスト削減にも大きく貢献していると聞いています。
――しかし、そうは言ってもオンプレミスとクラウドはもともとの思想が大きく異なります。既存のアプリケーションを載せ替えるだけのリホストではクラウド本来のメリットが生かせないような気がするのですが。
飯島氏 そこで登場してきたのが「クラウドネイティブ」という考え方です。これはクラウドだけではなく、モバイルの台頭も大きく関係しています。モバイルがエンタープライズの世界にも影響を及ぼすようになったことで、アプリケーションの概念は大きく変わらざるを得なくなりました。なぜならモバイルは最初からクラウドが前提、つまりクラウドネイティブでアプリケーションを設計する必要があるからです。
――モバイルによりアプリケーションの作り方に変化が訪れたということでしょうか。
飯島氏 モバイルに端を発したクラドネイティブの世界では、アプリケーションの大きさと粒度がぐっと小さくなります。つまりデプロイメントの規模が小さくなり、その代わりに頻度が高まります。
エンタープライズのモノリシックなアプリケーションで一般的なメンテナンスやパッチ当てをするといった作業はなくなり、代わりに「プラグイン&アウト」や「マイクロサービス」という考え方に代表されるように、次々に新しい機能をモジュールとして継ぎ足していくようになります。アプリケーションを作る単位がとにかく小さいのです。
この傾向はDockerの登場でより拍車が掛かるようになりました。Dockerに関しては2014年、多くのクラウドベンダーが対応を表明しましたが、中でもパブリッククラウドでトップを行くAWSのサポート開始は大きかったですね。Dockerによるコンテナ化の普及は、これからのアプリケーション開発を大きく変えていくでしょう。
――モバイル、そしてDockerの登場によって、クラウドベースだけではなくクラウドネイティブのアプリケーション開発が注目されるようになったわけですね。
飯島氏 そこでようやくPaaSの出番になります。リホスト中心のクラウドベースを前提としたアプリケーション開発だけならIaaSだけで事足りる企業がほとんどでしょう。ところがクラウドネイティブの世界ではどうしてもIaaSの開発環境だけでは不十分です。
モバイルアプリケーションをネイティブに動かそうとすると、トランザクションの管理などを含め、ミドルウェアから見直さないといけない。もっと言えば、モバイルとDockerの登場によって本格的な“Software Defined Architecture”の時代が到来しつつあるともいえます。アプリケーションの概念が変わろうとしているなら、当然、開発環境にも変化が求められます。PaaSにフォーカスが当たっている背景にはそうしたニーズがあることを見落としてはいけません。
――なるほど。単に「PaaSがブームになっている」という一言では語れない、アプリケーションの概念そのものの変化が今後は重要になってくると。
飯島氏 言われているようなブームに関しては多分にベンダー主導の側面が強いと思います。例えば米Pivotal主導の「Cloud Foundry」や米IBMの「IBM Bluemix」などはまだそれほど大きな利益を出してはいません。むしろ現在は将来を見越して、PaaS市場での主導権を得るためにあえて彼らがブームを演出している側面もあります。
PaaSで明らかに利益を出しているベンダーは今のところSalesforce.comだけではないでしょうか。SalesforceはSaaS市場において、エンタープライズに耐え得るクラウドネイティブアプリケーションを提供できている最大のベンダーでもあります。SaaS、PaaSを含め、パートナーとのエコシステム構築も着々と進んでいますね。
後編では、企業がPaaSを選択する上での注意点、どのようなアプリケーション開発を目指すべきかについてお伝えする。
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