大原雄介の「最新ネットワークキーワード」【第3回】
「SDN」編──“ネットワーク管理に向いていない人類”を助けるはずだった(2/2 ページ)
オーケストラがやってきた
さきほど、SDNを構成するのはコントロールプレーンとデータプレーンの2層構造と説明したが、これを実際に組み込む場合には、SDNコントローラーの中に新しい制御用の階層が登場する。それが「オーケストレーター」だ。音楽では、声楽曲や器楽曲といった独奏曲や小編成楽曲を管弦楽団(オーケストラ)構成に編曲する人を指すことが多い。さまざまな楽器を組み合わせて全体として1つの音楽として成立するように楽譜を編成する人だが、SDNの場合には「多種多様なルーターを組み合わせて全体としてネットワークを構成する機能」をこの名称で呼んでいる。この機能がネットワーク全体を制御することで、初めて「包括した管理」が可能になった。
SDN コントローラーの中身をもう少し細かく見てみよう。一番上位にあるのがオーケストレーターで、これは通常ソフトウェアで動作する。物理的には、SDNコントローラーのハードウェアでそのまま動く場合が多いが、別のハードウェアの場合もある。オーケストレーターとSDNコントローラーのコアの間は、通常「Northbound API」と呼ぶインタフェースを用意している。これを経由してオーケストレーターはネットワーク全体を操作する。SDN コントローラーの中身は、利用回数が多い機能(ルーティングの制御、ネットワークの論理分割機能など)を提供する。これらの機能を利用してオーケストレーターからのリクエストにあわせて、SDN構成機器の制御命令を生成する。この制御命令は、場合によってはOpenFlowのAPIを利用して機器に渡す。
冒頭で述べた「複数の拠点の統合」も、OpenFlowベースで解決できる。現在は「オーバーレイ」型(複数の拠点に置いたOpenFlowスイッチ同士で仮想的なL2ネットワークを構築する。一種のトンネルを構築する方法)と「ホップバイホップ」(拠点間のスイッチを全てOpenFlowで制御して1つのネットワークのように扱う)といった技術が利用できる。実際の機器やネットワークの構成に合わせてどちらを導入するか決めることになる。
もうなんでもかんでもNFVで使い分ければいいじゃない
SDNをさらに1歩進めたアイデアがNFV(Network Function Virtualization)だ。
SDN Controllerは汎用(はんよう)のサーバをそのまま流用できる。SDNの導入によってルーターは複雑なネットワーク経路計算や特殊な機能などが不要になるため、パケット処理機能だけを持ったシンプルで安価なルーターを並べれば(理論上は)済む。
となると「パケット処理機能だけあればいいのならば、ルーター専用ハードウェアではなく、こちらも汎用サーバで代替できるのでは」と考える技術者が出てきた。汎用のサーバがルーターの代わりになれば、割高で単機能(そして場所をとる)専用ハードウェアを用意しなくてもいい。
これが「NFV」の基本的な考えだ。SDNルーターと安価な汎用サーバは、ハードウェアの構成に大きな違いはない。そこで、SDNドメインで行っている処理を各サーバで仮想的に実行してしまえば、システムはもっとシンプルになる。抽象化や仮想化をどこまで進めるかがSDNとNFVの違いだ。
ただ、2016年の初めにおいても、SDNは本格的な普及が始まったばかりで、NFVの適用もまだまだこれからといった状況にある。この理由は、SDNやNFVを扱うベンダーの足並みがそろっていないからだ。2015年7月にTechTargetジャパンで掲載した「Googleがネットワークベンダーになる? SDNで激変する業界地図」で紹介しているように、多くのベンダーがこのSDN市場に参入している。それぞれが提供する製品がカバーする範囲は微妙に異なっている。
相互接続性さえ保障していれば、多種多様な製品を選べるので、ユーザー企業にとってもメリットがあるはずだが、実際はそう甘くない。TechTargetジャパンの記事「SDNを取り巻く複雑怪奇なベンダー動向の全体像をつかもう」にもあるが、Cisco Systemsは、SDNやOpenFlowに対応する姿勢を出しつつも、実際には“独自”のSDNによる囲い込みを現在も続けている。一方で、完全にSDNに準拠した製品ではそもそも差別化が難しい(価格競争になってしまう)から、独自の差別化で付加価値を高めようと試みるベンダーも多い。しかし、こうした差別化部分は独自規格になってしまう。
このような状況を考慮すると、同じベンダーの製品でSDN関連システムを全部そろえるならまだしも、複数ベンダーの製品が混在するケースでは、事前に検証を十分に行わないと、正しく動作しなかったり、まとめて管理できなかったりという面倒なことがまだよくある状況だ。何のことはない、連載の第1回(「SDN」編──全てはVLANの混沌から)で説明した状況が形を変えただけで現状もまだ続いている、というのがSDNの現状といえるだろう。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
この記事の著者
関連記事
こんなメディアも見られています
TechTargetジャパンに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
ベンダーコンテンツ PR
From Informa TechTarget
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
「Excel至上主義」の終わらせ方 丸2日の手作業地獄から情シスと現場を救うには
-
2
急増する「AIはこう言ってる」マン 判断を狂わせる「AI忖度」を防ぐには?
-
3
取手市がVDIと決別した理由 更改費用「4倍超」を約1.7倍に圧縮
-
4
221人調査で分かった「情シス最大のストレス」は?
-
5
「データストレージの活用方法」に関するアンケート
-
6
「AI時代の統合基盤・エンタープライズAI管理」に関するアンケート
-
7
自宅のWi-Fiが「遅い」「途切れる」本当の原因は? Dellが推奨する鉄則
-
8
100億円の「Linux更新」を回避 みずほ銀行が選んだ“おきて破り”のRHEL延命策
-
9
本当に安いPCで十分か? “すぐ重くなる”を防ぐノートPC選びの絶対条件
-
10
Claudeの不可視透かしに批判殺到 著作権消失や誤判定に潜む企業リスク
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
年収2000万「クラウドセキュリティのプロ」になれる資格とは
-
2
セキュリティソフトをすり抜ける標的型攻撃メール、不審メールの見破り方とは?
-
3
Windows Updateの通信集中で回線が逼迫、ネットワーク刷新事例に学ぶ解決策
-
4
財務を戦略的組織へ進化させるAI活用術、4つの主要な障壁と解消方法
-
5
「NAS」「SAN」「DAS」は何が違う? いまさら聞けないストレージの基礎
-
6
“あのファイル転送”で暗躍するノーウェアランサム
-
7
標的型攻撃メールを見破るには? サンプル文面を例に傾向を解説
-
8
商用利用の安全性を確保し大量のコンテンツを高速で生成する、AI活用の秘訣
-
9
マンガで解説、1日で生成AI環境を構築できるワークショップの中身とは?
-
10
Dark AIが台頭する時代の新発想、「より高度なAIで対抗する」具体的方法とは?
TechTargetジャパン SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechTargetジャパンをフォロー