「AI会話」の進歩を見る【後編】
IBMやGoogleのAI会話は「Siri」とは一味違う訳(1/2 ページ)
Appleの「Siri」やMicrosoftの「Cortana」は、複雑な文脈を理解するまでには至ってない。一方でGoogleやIBMの会話プラットフォームは、単なる音声応答システム以上の水準まできている。
IBMとGoogleによるAI会話の進歩
前編「今後5年で営業メールの相手はAIのチャットボットになる」では、「人工知能」(AI)のチャットボットが企業のあらゆる業務アプリケーションに浸透する未来について予測した。
現在、市場に出回っているAIの水準はさまざまだ。Appleの「Siri」とMicrosoftの「Cortana」は、実質的にはしゃべる検索エンジンにすぎず、複雑な質問に答えたり、文脈を理解したりすることはできない。だが、GoogleとIBMの新しい会話プラットフォームは違う。
IBMは開発者向けに「Watson Conversation API」の提供を開始しており、Googleは2016年夏に「Cloud Natural Language API」と「Cloud Speech API」という2つの「Cloud Machine Learning」製品のβ版を発表した。企業はこれらのAPIを使ってビジネスアプリに自然言語処理インタフェースを追加することができ、Webで商品やサービスに関する顧客の書き込みからその趣旨や感情を抽出できる。また、バーチャルエージェントやAIチャットボットでエンドユーザーとの対話を自動化することも可能だ。
IDCのシャブメル氏は、音声認識と会話アプリの進歩により、これからは音声が主要インタフェースになると考えている。同氏によると、現在利用可能な会話APIシステムを使えば、「そこそこの会話」が可能なAIチャットボットを開発できるという。
この新水準の会話テクノロジーは、単なる音声応答システム以上のものであり、企業は顧客の問い合わせにこれまでより柔軟に回答できる上、対応可能な問い合わせの割合を増やせるとシャブメル氏は説明した。
IBMで「Watson」のディレクターを務めるスティーブ・エイブラムス氏は、現在の技術は何十年も積み重ねてきた会話システム研究の成果であり、これまでに開発されたアルゴリズムの改良のたまものだと話す。
「一夜にして達成されるものだと思わないでほしいが、今は転換点を迎えており、新しいアプリケーションが急速に登場しつつある」(エイブラムス氏)
IBMのパートナー企業Welltokは、Watson Conversation APIをまだ活用していないものの、利用者に必要なヘルスケア情報を提供する「CafeWell Concierge」プラットフォームの運営にWatsonの機械学習と認知コンピューティング技術を使っている。
Welltokの共同創業者で機能アーキテクチャ担当バイスプレジデントのジェフ・コーエン氏によると、例えば、医療保険利用者が免責に関する情報を確認したいときや、難解な言葉で書かれた保険プランの内容を知りたいとき、WelltokのConciergeに質問することができる。WelltokのConciergeは質問の趣旨を理解し、分かりやすい回答を提供するという。
Conciergeは、利用者の質問を理解できなかった場合、どうすれば不明瞭な部分を明確にして質問の意図を理解できるか自動的に判断する。
「そこが難しいところだ。あらかじめ設定されたチャットボットではなく、あたかも人間と会話しているかのように見せかけるため、さまざまな技術を駆使している。パーソナライズした応答によって顧客の信頼を獲得しなければならず、そうしたインテリジェントな対話には、質問者の保険プランや年齢、扶養家族、補償内容、過去の質問履歴といったコンテキスト情報を学習して活用できるシステムが必要だ」(コーエン氏)
AIはプラグアンドプレイではない
新しいWatson Conversation APIの登場で、これまでより簡単にアプリケーションにAIを組み込むことができるようになったと言っても、こうした認知システムはプラグアンドプレイで実装できるわけではない。コーエン氏によると、必要な信頼度に到達するには多くの時間を投じなければならないという。
「注意深く進めることが必要だ。ヘルスケアは慎重な対応が求められる分野であり、医療給付について間違った答えを返すわけにはいかない。私たちは絞り込んだ項目に3~6カ月を費やし、十分な確信を得て初めてパイロットユーザーに提供した」(コーエン氏)
IDCのシャブメル氏によると、AIチャットボットは知識データベースの範囲内の情報しか提供できないため、そこに入力した情報が間違っていれば、間違った情報を顧客に提供することになってしまうという。情報を集めてもそこで終わりではない。従業員の教育と同様、常に最新の情報を維持するためには継続的な学習が必要だ。
Welltokは95%の信頼度を設定しており、回答の確実性がその水準に達しない場合は、自動的に別のリソースや人間の担当者を顧客に勧める。
「間違った回答は提供しない。間違った回答をするよりは回答せず、代わりの手段を提示する」(コーエン氏)
コラム:人工知能の転換点
絵空事と失望の続いた65年の歳月の末、AIがようやく実用化にたどり着いた背景には、ここ5年間の飛躍的進歩がある。
ImageNet Large Scale Visual Recognition Challengeという機械学習と画像認識のコンペの結果によると、2010年と2011年に最高得点を獲得した画像認識のエラー率は25~30%だった。このエラー率は大きく改善した。
2015年には、Microsoftがベイズ式プログラム学習を使った画像認識で人間のエラー率5.1%より低いエラー率を達成し、Googleはエラー率4.8%という結果を報告した。
進歩したのは画像認識だけではない。Gartner バイスプレジデントのトム・オースティン氏はAIの現状に関する最近のウェビナーで、深層ニューラルネットワークは過去最高のテキスト音声変換を実現したと話した。
新しい深層ニューラルネットワークモデルは、高性能GPUで動作し、膨大なデータを活用する。2014年までに全ベンダーがこのモデルを採用している。
オースティン氏によれば、「2012年のビッグバン」も、近年大きく向上したGPUと、より大きくなった深層ニューラルネットワークモデル、そして膨大なデータの処理能力によるものだという。
さらに、会話ユーザーインタフェース(UI)も飛躍的に進歩した。新しいインタフェースはダイアログを使ってボットを制御でき、過去の言語処理システムでは必要だった“マジックワード”が分からなくても情報を取得できる。GoogleとIBMの最新の会話プラットフォームは長年の会話システム研究のたまものだ。
AIの将来的な用途として、複雑な質問を読み取り、検索し、記憶し、回答する作業が考えられる。また、人間の担当者が答えを探してデータセットを利用するために、TB単位のデータを高速に処理する用途にも利用できるだろう。
IBMでWatsonの責任者を務めるスティーブ・エイブラムス氏は次のように述べた。「こうしたシナリオのためのキラーアプリケーションの構築が待ち望まれている。今はまだほんの始まりの段階だ」
高い信頼度を達成するために企業が投入する時間と労力は、コールセンターで対応すべき問い合わせ電話が減り、人間の担当者が複雑なカスタマーサービス案件に専念できるようになれば報われる。だが、それだけが目標ではない。
コーエン氏は次のように話す。「私たちが実現しようとしているより大きな計画は、パーソナライズしたインテリジェントな応答と適切なガイダンスの提供だ。ただ質問に答えるだけではなく、顧客の知らないリソースを紹介する。私たちはこれを“先制ネクストベストアクション”と呼んでいる。これによって顧客に新しいリソースを勧め、総合的な体験を高める」
コーエン氏は認知システムのROIに目を向け始めている。だが、AIの生み出す価値は金銭的なものだけではない。コールセンター担当者の仕事を軽減し、顧客に支援を提供できることを考えると、その価値は計り知れない、と同氏は語った。
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