顧客の要望は「Siri」や「Watson」が知っているという未来がやってくる?「コグニティブ」で究極の先取り

企業の最高情報責任者(CIO)たちは、自社をデジタルエンタープライズに変革する取り組みの真っ最中だが、ITの専門家たちは新たな分野に目を向け始めた。次の変革の波が既に始まったという。

2016年04月07日 12時00分 公開
[Nicole LaskowskiTechTarget]
画像 IBMとHilton Worldwideが共同開発したロボットコンシェルジュ「コニー」(出典:IBM)《クリックで拡大》

 ビジネスとITの連携を専門とするコンサルティング会社Cimphoniの創業者で最高経営責任者(CEO)のリック・デビッドソン氏も、そうした専門家の1人だ。同氏は次の波を「コグニティブ(認知)エンタープライズ」と呼ぶ。これは、理解、学習および推論の能力を備えたテクノロジーシステムが顧客の要望を先取りし、顧客が意識する前に要望に応えることができる企業である。同氏によると、例えばAppleの「Siri」やMicrosoftの「Cortana」、Amazonの「Echo」などの技術が仮想コンシェルジュの第1世代だという。

 デビッドソン氏は、2016年3月に米ウィスコンシン州マディソンで開催されたシンポジウム「Fusion CEO-CIO Symposium」においてコグニティブエンタープライズに関するプレゼンテーションを行い、その中で「デジタルエンタープライズの時代は素早く過ぎ去るだろう」と述べた。同氏はこの変化のスピードについて、2〜3年後には「デジタル時代への対応」というスローガンが過去の話になると予測する。

 企業のCIOはコグニティブエンタープライズに向けてどのような準備をすればいいのか、デビッドソン氏に話を聞いた。同氏によると、CIOが現在克服しようとしているデジタル技術のハードルは、企業が将来コグニティブエンタープライズとして成功する上で有益な役割を果たすという。

――あなたはCIOがコグニティブエンタープライズに向けて準備する上で重視すべき“ベクトル”について述べていました。これらのベクトルについて説明してください。

デビッドソン氏 顧客の本質を理解するということです。われわれ習慣の生き物なのです。つまり、予測可能な行動パターンを持っており、これらは時間をかけて学ぶことができます。第1のベクトルは、誰が顧客であるかを正確にかつ深く理解し、彼らの行動パターンを理解することです。

 2番目のベクトルは、こうした洞察を発展させるために利用可能な技術を理解することです。そういった技術としては、ビッグデータや人工知能、機械学習など既に利用可能なツールもあれば、「IBM Watson」や「AlchemyAPI」のような開発中の技術もあります。AlchemyAPIは、Watsonに接続することによってWatsonの機能を利用できるようにする技術です。

 3番目は企業風土に関するものです。ここで重要なポイントは、データの分析や理解、データ処理技術、数学、科学などは従来、技術オタクの世界の話だと考えられてきたことです。企業はこうしたレベルの知識や洗練度、理解を受け入れる必要があります。言い換えれば、技術オタクであっても問題はなく、CIOはこうした技術スキルを持っている人々を認めるべきなのです。10年前に誰かが「あなたの会社にはデータサイエンティストが必要だ」と言ったら、「そんなものいらない」というのが大方の反応だったでしょう。しかし今日、データサイエンティストには大きな需要があります。つまり技術オタクの時代がやってきたのであり、企業はこの現実を受け入れる必要があります。

 4番目は倫理に関することです。手に入れた顧客情報をどう使うかについて考えるときに、倫理的な問題を考慮に入れなければなりません。つまり、顧客情報の利用においては善悪の判断が必要だということです。

 ITの役割についていえば、5番目のベクトルも存在するといえそうです。従来、ITは企業内の組織、具体的には一元化された均質的なグループだと見なされていました。しかしITは機能でもあるのです。ITを機能と見なし、それを社内で業務を処理する場所の近くに配布するものとして位置付ければ、ITはビジネスのニーズにより適切に対応できるようになり、俊敏性と柔軟性も高まります。これこそが、ITをどのように提供するかという部分でCIOが果たせる役割なのです。すなわち、ITを組織として考えるのではなく、社内に提供すべき機能だと考えるということです。

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