クラウドベースアプリケーションのデザインパターン5選【後編】
「キューベースの負荷平準化」「スロットリング」が役立つクラウドアプリは?
クラウドベースアプリケーションの停止を避けるには、どのデザインパターンを選ぶのかが重要になる。有力な候補は「キューベースの負荷平準化」「スロットリング」だ。これらを採用したアプリケーションの特徴とは。
クラウドサービスで稼働するアプリケーション(以下、クラウドベースアプリケーション)には、通信量の増加に対処するためのさまざまなデザインパターンが存在する。前編「『バルクヘッド』とは? 障害に強いクラウドアプリのデザインパターン」、中編「『リトライ』『サーキットプレーカー』を採用すべきクラウドアプリとは?」に引き続き、後編は「キューベースの負荷平準化」「スロットリング」を解説する。
4.キューベースの負荷平準化
併せて読みたいお薦め記事
さまざまなクラウドベースアプリケーション開発手法
アプリケーション開発に役立つツール
キューベースの負荷平準化(QBLL:Queue-Based Load Leveling)は、クラウドベースアプリケーションの規模拡大で生じる問題の緩和に適したデザインパターンだ。「キュー」は実行待ちの処理を保持しておくデータ構造を指す。データの受信時に複雑な処理を実行すると、アプリケーションの応答が遅延する恐れがある。QBLLは、アプリケーションがキュー内のリクエスト(処理要求)を自らのペースで受け取り、実行できるようにすることで、こうした遅延を回避する。メールの送信や集計値の計算など、すぐに結果を表示する必要がない処理が中心のアプリケーションで特に有効だ。
API(アプリケーションプログラミングインタフェース)を利用して、データセットに不可逆的な変更を加えるアプリケーションを考える。このアプリケーションにAPIとの通信量の上限がある場合、リクエスト数やエンドユーザー数が急増すると、アプリケーションが遅延する可能性がある。QBLLを採用したアプリケーションであれば、一度に一定数のリクエストを実行することで、通信量が増加してもアプリケーションの動作に与える影響を抑えることが可能だ。
5.スロットリング
QBLLの代替となるデザインパターンの一つがスロットリングだ。スロットリングは、「うるさい隣人」(ノイジーネイバー)問題への対処に効果を発揮する。うるさい隣人問題は、あるアプリケーションがサーバのリソースを過剰に消費することで、同サーバ内の他アプリケーションの動作に悪影響を及ぼすことだ。
スロットリングは1つのクライアントがアプリケーションを利用できる頻度に制限を設ける。これにより、あるアプリケーションが他のアプリケーションに悪影響を及ぼすことを防ぐ。QBLLを補完して過剰な負荷を処理しつつ、キューがあふれないようにする役割も果たす。
QBLLの説明で挙げたアプリケーションの例で考えよう。このアプリケーションは毎分約100件のリクエストを実行でき、上限を超えると高負荷のプロセスをキューにオフロードしてエンドユーザーに悪影響を与えないようにする。アプリケーションが呼び出すAPIは毎分約1万件のリクエストに応答可能とする。この場合、アプリケーションが実行できるリクエストは毎分約100件にとどまる。1000件のAPIリクエストを全て処理するのに約10分、1万件だと2時間近くかかる計算だ。
このアプリケーションがリクエストを均等に実行するのであれば、全エンドユーザーのリクエストの実行速度が等しく遅くなる。つまり1人のエンドユーザーが1万件のリクエストを送信すると、他のエンドユーザーが送信したリクエストの実行開始が2時間遅れることになる。スロットリングによって、例えばエンドユーザー1人当たりのリクエスト数を毎秒1000件までに制限すれば、1人のエンドユーザーが送った1万件のリクエストを実行するためにアプリケーションが全リソースを独占する事態を防ぐことができる。
TechTarget発 先取りITトレンド
米国TechTargetの豊富な記事の中から、最新技術解説や注目分野の製品比較、海外企業のIT製品導入事例などを厳選してお届けします。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
TechTarget発 世界のインサイト&ベストプラクティス
米国TechTargetの豊富な記事の中から、さまざまな業種や職種に関する動向やビジネスノウハウなどを厳選してお届けします。
この記事の著者
関連記事
新着ホワイトペーパー PR
-
製品資料
[株式会社キーエンス] なぜRPA導入は頓挫する? シナリオ作成の壁を乗り越える解決策とは -
製品資料
[株式会社セールスフォース・ジャパン] 「CRMは設計と無関係」は本当か? PLMとの融合で実現する高速開発 -
事例
[日本ヒューレット・パッカード合同会社] AIエージェントの時代にどう備える? 「新たな働き手」を支える3要素とは -
製品資料
[日本ヒューレット・パッカード合同会社] “横並びの自動化”から脱却、AI活用で生産性と競争力を高める秘訣 -
製品資料
[サイボウズ株式会社] AIが「わざわざ使うツール」になっていない? 業務で自然に使う導線にする秘訣
こんなメディアも見られています
TechTargetジャパンに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
ベンダーコンテンツ PR
From Informa TechTarget
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
なぜ「全社配布Copilot」は使われないのか? 失敗に学ぶAI定着
-
2
法務と開発者で「言葉が通じない」問題 トヨタやソニーが語るOSS管理の真実
-
3
ChatGPTは“検索しまくり”でGeminiは“淡泊”? データが明かすAIの裏側
-
4
なぜ「Gemini 4 Argon」は出遅れたのか? Googleが狙う“逆転のシナリオ”
-
5
「中堅・中小企業のネットワーク・セキュリティ運用実態」に関するアンケート
-
6
損保ジャパンはなぜ「COBOL」を捨てなかったのか? 脱メインフレームの真相
-
7
「Wi-Fi 7」経由でWindowsが乗っ取られる? 最高権限奪取の恐怖
-
8
情報漏えいはなぜ繰り返されるのか 今すぐ見直すべき「境界」
-
9
情シスの約8割が転職や退職を意識 調査で分かった“辞めたくなる最大の理由”
-
10
【漫画付き】ひとり情シス協会が明かす、RAG導入でしくじる企業「2つの共通点」
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
不審メールの経路や見せ方に変化? 2026年夏の3事例から見えた動向と対処方法
-
2
家庭用Wi-Fiルーターの業務利用は危険? 避けるべき理由と具体的な対策
-
3
Microsoft 365を安全に運用 うっかりミスやサイバー攻撃に備えるデータ保護術
-
4
財務部門がAIを最大限に活用する方法 無駄のない戦略的リーダーシップへの道
-
5
LLMが兵器化? 元FBI高官が鳴らす警鐘とセキュリティツール統合のポイント
-
6
「オンプレミス回帰」せざるを得ない“合理的な理由”
-
7
なぜRPA導入は頓挫する? シナリオ作成の壁を乗り越える解決策とは
-
8
生成AIを開発に導入しても効果が見えない? 実証実験で分かった成果と課題
-
9
経産省DX指針から読み解く、受発注業務デジタル化ロードマップ
-
10
HDDを使わない「SSDオンリー」が無謀なのはなぜ?
TechTargetジャパン SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechTargetジャパンをフォロー