震災を踏まえて考える中小企業のBCP
Outlook/Exchange Serverユーザーのための場所を問わないメール環境構築
災害時の業務継続や在宅勤務を考える上では、場所を問わないメール環境構築が第一歩になる。主にマイクロソフト製品でメール業務を行っている中小企業が今すぐにできる対策を、日本マイクロソフトに聞いた。
事業継続に不可欠な電子メール
未曾有の被害をもたらした東日本大震災。被災地の甚大な被害状況に関しては、各報道機関が伝える通りだが、一方で停電や交通機関の混乱、携帯電話網のふくそうなどで、被災地以外の地域でもさまざまな混乱が生じた。その影響で、首都圏にオフィスを構える企業では震災後しばらくの間、自宅待機や在宅勤務の体制を敷いたところが多かったようだ。
その際、ビジネスを継続させる上で大きな役割を担ったのが、電子メールだ。オフィスに出勤できなくとも、携帯電話が通じなくても、メールさえ使えれば業務のかなりの部分が回せることを、多くの方が今回の震災で実感したのではないだろうか。
今後もしばらくは計画停電などの影響で、平時通りの業務遂行が困難なケースが少なからず出てくることだろう。その際に頼みの綱となるのは、やはりメールだ。特に、独自の災害対策まで手が回っていない企業においては、メールによるコミュニケーションをいかにスムーズに運ぶかが、震災後の混乱を乗り切ってビジネスを継続させるための鍵を握ることになるだろう。
では、そのためには具体的にどのような対策を取ればいいのだろうか? 主に中小企業が時間もコストも掛けずに、今すぐできるメール環境の整備には、どのようなものがあるのだろうか? 本稿では、「Microsoft Outlook」(以下、Outlook)や「Microsoft Exchange Server」(以下、Exchange Server)など、中堅・中小企業で広く使われるメール関連製品を扱う日本マイクロソフトに、メール周りで今すぐ始められる対策について聞いた。
メールサーバへのリモートアクセスで在宅勤務に備える
日本マイクロソフト インフォメーションワーカービジネス本部 IWサーバ製品マーケティンググループ エグゼクティブプロダクトマネージャの内田 修氏は、在宅勤務や計画停電への対策として、まずはExchange Serverのリモートアクセス機能を有効化し、社外から社内メールサーバにアクセスできる環境を整えることを提案する。
「Exchange Serverは、PC上のOutlookアプリケーションだけではなく、Webブラウザやモバイル端末からも簡単にアクセスできる機能がある。自宅や一時退避先など、社外のリモートサイトからメールを使えるようにするために、こうした機能を活用することをお勧めしたい。これらの機能は標準で提供されており、既存の環境の設定を変えるだけで簡単に実現できる」(内田氏)
内田氏は、リモートアクセスによるメール利用を促進するために、今すぐできる対策を幾つか挙げてくれたので、それらを1つずつ紹介していこう。
Webやモバイル端末によるリモートアクセスを有効化する
セキュリティポリシーを厳しく設定している企業では、社内ネットワークへの外部からのアクセスに制限を課していることがほとんどだろう。その場合、Exchange ServerへのWebアクセス機能である「Outlook Web App」や、ActiveSync経由によるモバイル端末からのアクセス機能を制限している企業は多いはずだ。これらの機能をExchange Server上の設定で有効化することで、社外からWebブラウザやモバイル端末経由でメールシステムにアクセスできるようになる。
「多くの場合、別途ファイアウォールの設定なども変更する必要があるだろうが、Exchange Serverの設定自体は機能をオンにするだけで済む。また、ユーザーごとにアクセス権を制御することもできる。平時はセキュリティ強化のためにこうした機能をオフにしているユーザーでも、現在のような緊急事態下では機能を有効化して、活用することをお勧めする」(内田氏)
OutlookからのSSL認証アクセスを有効化する
Webブラウザやモバイル端末経由だけではなく、普段使っているOutlookからももちろんセキュアなリモートアクセスが可能だ。それが、「Outlook Anyware」と呼ばれる機能だ。これは、HTTPSでOutlookからExchange Serverへアクセスするための機能で、VPNなどのセキュアネットワークのインフラがなくても、インターネットがつながる環境であれば今すぐセキュアなリモートアクセスが可能になる。Outlook Anywareも基本的にはExchange Server側の設定を有効化すればすぐ利用できるようになる。
「今回の震災のような緊急時には、さまざまな場所からメールシステムにアクセスすることが想定されるので、まずはWebブラウザによるリモートアクセスの検討を推奨するが、Outlook環境を社外から使える場合には、こうした機能の活用もぜひ検討してほしい」(内田氏)
OutlookからのリモートアクセスTips
計画停電などでExchange Serverが一時的にダウンしてしまうことが想定される場合には、Outlookを「キャッシュモード」で動作させるのが有効だ。メールをクライアント端末上にキャッシュデータとして保持できるので、Exchange Serverがダウンしている間も過去に受信したメールはOutlook上で参照することができる。
また、Outlookからのリモートアクセスを利用する場合、ネットワークの帯域が狭い環境ではメールのダウンロードに時間がかかり、ストレスがたまることもあるかもしれない。そうした環境下では、[ヘッダーのみダウンロードする]のオプションを有効化するのがお勧めだ。Exchange Serverからはメールのヘッダ情報のみがダウンロードされるため、ダウンロード時間を大幅に短縮できる。その後、本文を読みたい場合は、別途本文をあらためてダウンロードできる。
クラウドを活用したメールのバックアップシステム
以上で挙げた対策は、主に既存のオンプレミスのメール環境で今すぐできるものだが、今後も当面の間続くことが予想される計画停電を視野に入れた場合、中期的な対策としてクラウドコンピューティング環境を活用することも有効だ。日本マイクロソフト インフォメーションワーカービジネス本部 ビジネスオンラインサービスグループ エグゼクティブプロダクトマネージャの米田真一氏は、次のように提案する。
「平時はオンプレミスのExchange Server環境を利用しつつ、計画停電などでそれが使えなくなったときに、クラウド上のExchange Online環境に自動的に切り替えられるような仕組みを、比較的簡単に構築できる」(米田氏)
具体的には、まずオンプレミスのExchange ServerとクラウドのExchange Online、それぞれで同じアカウント情報を設定する。その上で、DNSサーバ上に両者のホストに対応するMXレコードを登録しておく。その際に、オンプレミスのホストの優先順位を上位に設定しておくことで、通常はオンプレミスのExchange Serverにメールのトラフィックが流れ、万が一それがダウンした場合には自動的にExchange Onlineにトラフィックが切り替わるようになるというわけだ。
理想を言えば、遠隔地のデータセンターやクラウド環境にExchange Serverデータのリモートバックアップを取るような運用がベストだろう。しかし、こうした本格的なバックアップ体制を構築するには時間もコストも掛かるため、中小企業が緊急に取るべき対策としては現実的ではないかもしれない。その点、上述のようにExchange Onlineのクラウド環境を緊急時のバックアップシステムとして活用するような方法であれば、比較的手軽に実現できそうだ。また、マイクロソフトのクラウド用の月額課金ライセンスには、オンプレミス利用のライセンスも含まれるため、ライセンスの二重投資でコストが大きくかさむこともない。
こうした対策は、特に計画停電への対策としても有効だ。現時点では計画停電の範囲外となっている地域でも、夏に電力需要が増えた場合にはどうなるか分からない。現状ではITシステムに大きな影響が出ていない都内の企業ユーザーも、夏に向けて計画停電実施の有無が明らかになった場合には、検討してもよいだろう。
また、前項で紹介したリモートアクセスに関しても、早くから運用を開始してユーザーに慣れてもらうことが重要だと内田氏は述べる。
「平時から生産性向上のためにリモートアクセスを活用し、ユーザーに慣れてもらっておけば、今回のような緊急時にもスムーズに対応できる。事実、日本マイクロソフトでも、震災直後は、顧客先や自宅などで仕事を行ったが、普段からリモートアクセスを活用したワークスタイルに慣れていたおかげで、ほとんど滞りなく業務を継続することができた」(内田氏)
他社製品も含めたWebメールへの移行検討する場合
本稿で解説したような対策の他にも、中長期的な視点で他社製品も含めてWebメール製品・サービスを検討する場合は、関連記事「あなたの会社にマッチするWebメールのタイプは?」を参考にしてほしい。
担当編集より
今回の災害では担当編集も身を持って電子メールの継続利用の重要性を再考させられた。そこで本稿では、電子メール製品などのシェア情報を参考に、比較的ユーザー数が多いと考えられるマイクロソフト製品でメール業務を行っている企業の一助になればと考え、日本マイクロソフトに話を聞いた。このような時期にもかかわらず、取材に対応いただいた日本マイクロソフトに、この場を借りてお礼を申し上げたい。これまで場所を選ばないメール環境構築は、ITベンダーにしてもわれわれメディアにしても「従業員の生産性向上」という攻めのIT投資の側面を訴えることが多かった。しかし今後は「災害対策」という守りの視点からも、継続して検討することは意義のあることではないだろうか。
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