【連載コラム】医療ITの現場から
コミュニケーションツールとしての電子カルテ活用
「患者の顔が見られなくなる」「過去の診療歴をさかのぼっても記憶がよみがえりにくい」など、電子カルテには否定的な意見がある。紙カルテと電子カルテ、それぞれの良さを考えてみよう。
「電子カルテを導入すると、患者の顔を見られなくなる」という話を聞きます。これは、医師が電子カルテの入力に必死になるあまり、画面ばかりを見てしまって患者を顧みなくなることを意味しています。しかし、こうした現象は電子カルテの普及初期に多く見られたことです。電子カルテの普及が進み、診察現場の様相は変化しています。
現在は、電子カルテの画面を通して医師と患者が診療情報を共有しています。また、医師が電子カルテの機能を利用して、投薬、検査や画像診断の結果などを患者に対して提供したり、分かりやすく説明したりするシーンも見られるようになりました(関連記事:電子カルテ導入で診療の質が向上した「まつばらクリニック」)。
現在の電子カルテは「診療業務の効率化」と「患者とのコミュニケーション促進」という2つの側面を併せ持ったツールとなっています。電子カルテがもともとレセプトコンピュータの追加機能として開発された経緯から、その開発当初は業務効率化の側面における評価が中心でした。その後、さまざまな機能が追加され、現在ではコミュニケーションツールとしての活用成果が多く報告されています。
例えば、カルテや検査画像を印刷して患者に提供するのはもちろん、薬剤情報や身体の解剖図、検査結果グラフや投薬グラフなどもすぐに表示できるなど紙カルテでは実現できなかったさまざまな情報を提供可能になりました。それに伴い、患者自身が治療に積極的に参加するようになった事例もあるほどです。電子カルテがコミュニケーションツールとして積極的に有効利用されていることがうかがえます。
それでも、電子カルテの導入にやや否定的な意見が出ることもあります。例えば、「電子カルテは患者とのやりとりの記憶が薄くなる」と話す医師もいます。「紙カルテでは、過去のカルテをペラペラとめくっていくうちに診療の内容をどんどん思い出せるのに、電子カルテでは過去の診療歴をさかのぼっても、記憶がよみがえりにくい」というのです(関連記事:医療のIT化が遅れている原因は何か?)。
紙カルテと電子カルテの大きな違いは「文字を紙に書くか」「文字をPCに入力するか」にあります。この違いをささいなものに感じるかもしれませんが、文字を書く行為は記憶の定着に有効であるといわれ、文字をあまり書かなくなることは患者とのやりとりの印象を薄くしてしまうのかもしれません(関連記事:国際モダンホスピタルショウで見た、ITが変える医療の未来像)。
また、コミュニケーションは「意味と感情のやりとりである」ともいわれます。IT機器は「情報の格納」と「意味の伝達」は得意ですが、感情のやりとりに適しているツールではないかもしれません。一般に「心を込めて文字を書く」とは言いますが、「心を込めてPCに入力する」という表現がないことからも、この点を紙カルテの方が優れていると考える医師もいると考えられます。
こうした医師の記憶や感情を補う工夫として、問診票を紙で残して必要事項を書き込んだり、手書きのメモを併用したりする医師もいます。これらは電子カルテを補完する作業といえるでしょう。電子メール全盛の昨今、手書きでしたためられた手紙の良さを見直すという傾向もあるようです。同様に電子カルテが普及すればするほど、紙の良さが生かせるものについては紙のままで残ると考えます。
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