助成金制度によって導入促進が図られた診療所向け電子カルテ。実際の導入状況はどうなっているのだろうか? シード・プランニングの市場調査を基に、今後の動向を予測する。
シード・プランニングは2010年10月、市場調査リポート『2010年版 電子カルテの市場動向調査』を発表した。このリポートは、電子カルテ(病院向け・診療所向け・歯科向け)と医用画像システム(PACS)の市場動向を調査し、2014年までの市場規模を予測したものである。本稿では、病院向けの市場調査結果リポート記事に続き、診療所向けの市場規模や導入シェア、主要ベンダーの最新動向などを紹介する。
2009年の診療所向けの電子カルテ市場規模は「約121億円」、年間納入数は「約3300件」と推定される。今後は順調に推移し、2015年の市場規模は「約133億円」、年間納入数は「約3900件」と予測している。
診療所向け電子カルテの普及率は「約16.5%」と推測される(2009年12月時点)。その推移はやや緩やかに進んでいる。その中でも、新規開業の70〜80%が電子カルテを採用している。また、30〜40歳代の新規開業医はITリテラシーも高く、勤務医時代に病院で電子カルテを利用している場合には、電子カルテ導入が自然な流れとなっている。特に、賃料の高い都心で開業する場合、紙カルテを保管するカルテ庫スペースを確保するよりもコストパフォーマンスが良いため、その導入は必須になっているといえる。
今後さらに診療所向け電子カルテの普及を進めるには、電子カルテ導入がなかなか進まない「既存開業医への対策」が課題である。これまでは診療を続けながら電子カルテを導入する煩雑さやコストが普及を阻害していると考えられていたが、「平成21年度医療施設等設備整備費助成金」が実施され、2009年下期から2010年上期にかけて納入件数が増え、特に既存診療所の電子カルテ導入に弾みがついた。この助成金制度によって、既存診療所における電子カルテの潜在ニーズが顕著となった。ただし、助成金制度が終了したことを受け、2010年は既存診療所への納入数の減少が見込まれる。
診療科別では、診療所数が多い「内科」「整形外科」「外科」「小児科」「皮膚科」「耳鼻咽喉科」などでの導入が多い。PACSと連携し、カルテ画面上に医用画像を表示する機能を搭載している電子カルテもあり、医用画像を扱う診療科目の医師の評価も高い。また、これまでの電子カルテでは、使いづらく普及しづらい診療科もあると考えられていたが、製品が使いやすくなったこともその普及促進の要因の1つになった。より使いやすいように操作性などが改良されたことで、例えば、患者数や処置数が多く、移動しながら診療することが多い耳鼻咽喉科でも問題なく稼働している。
診療所向け電子カルテが目指すのは「情報化による医療の質の向上と経営改善」である。今後地域医療連携のIT化が進めば、診療所のIT化は経営上避けられず、電子カルテは地域医療を行う上で診療所に必須のシステムとなる。
病院向け電子カルテでは、近隣の病院が電子カルテを導入すると、周辺病院も刺激を受け、電子カルテ導入に積極的になる例も発生している。今後は、地域の中核病院や近隣の診療所のIT化に影響されての診療所向け電子カルテ需要も発生すると見込まれる。
1000件以上の納入実績を持つ診療所向け電子カルテベンダーは「三洋電機」「ダイナミクス」「BML」「ラボテック」「富士通」「ユヤマ」などである。これら上位6社で全体の約80%のシェアを占めている。その中で、病院向けの電子カルテもラインアップに持つのは富士通のみで、トップシェアの三洋電機は病院向け電子カルテ分野ではNECやCSIと連携している。
三洋電機は診療所向けレセプトコンピュータ(レセコン)での高いシェアを持ち、買い替え需要を中心に全国でその納入実績を伸ばしている。ダイナミクスは内科医が開発し、他社製品と比べると安価に導入できる利点があるが、インストール作業から自分で実施しなくてはならないため、ある程度のPCスキルが求められる。臨床検査事業と一体となった営業活動で電子カルテの展開を進めるBMLは年間300施設の納入実績がある。関東地区を中心に納入実績を伸ばしているラボテックは、使いやすさを全面に出して販売を進めている。富士通は、診療所から大規模病院までの電子カルテ製品をラインアップしている。調剤機器トップシェアのユヤマは得意分野の医薬品データベースとキーパッド入力などでその特徴を出している。
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