日本政府が2009年12月に発表した「新成長戦略(基本方針)」。その重点分野に「医療・介護・健康関連産業」が掲げられた。政府とともに、その産業育成と雇用創出を促進する役を担うキープレーヤーとは?
日本政府は2009年12月30日、名目国内総生産(GDP)を2020年度までに現在の約1.4倍となる650兆円程度に拡大させるという「新成長戦略(基本方針) 〜輝きのある日本へ〜」を閣議決定した。そのために必要な平均成長率の目標を名目GDPで3%、実質GDPで2%以上と設定し、400万人以上の雇用創出を目指すとしている。特に「医療・介護・健康関連産業」を重要分野として位置付け、同分野の産業育成と雇用創出の施策に取り組むことで「2020年までに新規市場約45兆円、新規雇用者数約280万人を達成する」という目標を掲げた。
また、基本方針によると「民間事業者等の新たなサービス主体の参入も促進し、安全の確保や質の向上を図りながら、利用者本位の多様なサービスが提供できる体制を構築する。誰もが必要なサービスにアクセスできる体制を維持しながら、そのために必要な制度・ルールの変更等を進める」という。
ここで掲げられている、多様なサービスを提供する体制の構築や必要なサービスにアクセスできる体制の維持のためには、ITによる情報基盤の構築が不可欠だ。政府や関連団体と一緒になりその実現を支えるのが、IT機器やソリューションを提供するベンダー各社だ。今回は、その中の1社である富士通の担当者にレセプト請求オンライン化対応を含めた「医療分野のIT化への取り組み」について話を聞いた。
富士通は、1999年4月に通知された厚生省(当時)のガイドラインを満たした初の電子カルテシステムとして「HOPE/EGMAINシリーズ」を発表するなど、医療分野のIT化を推進するさまざまな機器やソリューションを提供するベンダーだ。
富士通のヘルスケアソリューション事業本部パートナービジネス統括部長の山口智久氏は「富士通では、さまざまな医療情報の標準化推進プロジェクトに参画し、マルチベンダーの医療システムの相互運用性の確保に積極的に取り組んでいる」と語る。
富士通では「医療連携のための情報統合化」を目的とした標準規格の適用ガイドラインを示す「IHE」(※)に準拠した製品を開発し、市場での普及を促進させる活動に取り組んでいる。また、厚生労働省が2006年にレセプトコンピュータ(以下、レセコン)電算処理システムを普及させる施策として開発した、レセプトデータ変換ソフトウェア「レセスタ(Recesta)」の開発プロジェクトにも参画している。
※ IHE(Integrating the Healthcare Enterprise):臨床情報システムや画像システムといった、さまざまな医療情報システムの情報を統合するための規格などを定めた標準化ガイドライン。
山口氏は「レセコン導入やその請求処理をオンライン化することで、医療事務の効率化が図れる」と導入メリットを説明する。これまでの紙出力レセプト作業と比べると、データの出力やレセプト用紙のソート処理、総括表への転記、審査支払機関への提出などの作業が簡略化でき、請求業務の効率化および平準化に役立つというメリットがあるという。
しかし、レセプトの電子データによる請求および請求オンライン化の普及率は、決して高くはない。社会保険診療報酬支払基金が公表している統計資料「平成21年10月診療分における請求内訳(医数・薬局数)」によると、2009年11月末現在の診療所における電子データによるレセプト請求率は「45.8%」と紙レセプトによる請求が占める割合には届かず、そのうちオンラインによる請求は「18.3%」だった。
この現状について、山口氏は「市場全体としてはレセコン電算化および請求オンライン化対応への盛り上がりを見せてはいるが、その導入をメリットと考える医療機関とそうでない医療機関に分かれている」とし、「これまでの紙出力をやめて、電子データによるレセプト請求への移行に懸念を示す医療機関があり、それが現在の普及率に表れている」と指摘する。
山口氏によると「導入することのメリットを頭では理解しているが、コストとの兼ね合いから実導入にいまだに踏み出せない医療機関が多くいる」という。また、導入に理解を示してもらえない点については「“従来型のレセコン”導入のアプローチを提案するベンダー側にも責任がある」と語る。
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