医療業界にとって、2011年4月までにすべての医療機関に適用される「レセプトのオンライン請求義務化」は重要なテーマだ。しかし、そこには幾つかの課題がある。その現状を東京都医師会の大橋理事に聞いた。
2011年4月から、病院、診療所、調剤薬局などのすべての保険医療機関に対して、レセプト(診療・調剤報酬明細書)のオンライン請求が原則義務化される(2006年4月10日施行「厚生労働省令111号」)。現在、医療機関の病床数やIT環境の整備状況に応じて、段階的な適用が開始されている。医療機関は、支払審査機関に診療報酬を請求する際に、専用ネットワーク回線を介した電子データによるレセプトの提出が求められる。
これにより、従来レセプトを手書きで作成・提出していた医療機関でも、その規模や提出枚数に関係なく、レセプトコンピュータ(以下、レセコン)および専用回線用のネットワーク機器といったITシステムの導入が必須となる。
日本政府の高度情報通信ネットワーク社会推進本部(IT戦略本部)が2006年1月に発表した、ITを活用して構造改革を支援する国家戦略「IT新改革戦略」では、“医療分野における情報化インフラの整備”が重点項目として掲げられた。現在、医療情報システム間の情報連携の標準化、公開鍵およびデータベース基盤の整備などの施策が進められている。
その中でも、すべての医療機関や被保険者がかかわるレセプトのオンライン請求義務化は、非常に重要なテーマだ。
しかし、この義務化には幾つかの課題がある。被保険者ごとに1カ月単位で作成されるレセプトには、被保険者の氏名や傷病名などの個人情報、医療機関名や処置状況といった診療情報が記載されている。そのため、そうした機密情報の漏えい事故を不安視する声がある。
また、医療機関にIT機器の導入・運用コストを自己負担させる点も問題視されている。実際、「医療機関の営業の自由や被保険者のプライバシーなどが侵害され、憲法違反に当たる」として、全国各地の医療従事者から日本政府を相手にした訴訟が起きている。
さらに、日本医師会から日本政府(厚生労働省)に対して、猶予期限の延長や導入支援策を提言する中間答申(※)が提出されるなど、医療現場からの反発は強い。
※ 日本医師会のIT調査委員会が2009年1月に発表した「平成20・21年度医療IT委員会 中間答申『レセプトオンライン請求義務化について』」。
果たして、レセプトのオンライン請求義務化は計画通りに遂行されるのだろうか。
本連載では医療関係者へのインタビューを通して、その現状や課題を探る。今回は、東京都医師会の医療情報部署の主任理事である大橋克洋氏(大橋産科・婦人科医院長)に話を聞いた。
大橋氏は、20年以上前に自ら電子カルテシステムの開発に取り組み、“医療のIT化”を実践してきた医師である。また、日本医師会のIT化推進検討委員会委員長や地域医療連携システム「HOT project」の責任者を務めるなど、医療分野におけるIT化を推進する活動にも携わっている。
IT化推進派である同氏だが、今回のレセプトのオンライン請求義務化については「時期尚早だ」と指摘する。さらに「今回の制度変更の一番の目的は、受け取り側の効率化を図ること。そのために現場に余計な負担を強いている。本来、強制適用すること自体がナンセンスだ」と語る。
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