業務効率改善への期待から、医療現場でのAIツールの導入が広がりつつある。AIツールを導入したある医師は、業務効率化だけでなく、患者との関係にも変革があったと話す。その内容は。
診療以外の業務も自らで実施する診療所の医師が、業務に人工知能(AI)ツールを導入するとどのような効果があるのか。米国でプライマリーケア(初期診療)のクリニックを運営する医師、ジョエル・キーナン氏は、AI技術を組み込んだ電子カルテ(EHR:電子健康記録)をはじめとしたAIツールが業務に変化をもたらしたと説明する。
キーナン氏は内科のクリニックを運営しており、請求業務から患者の受付、臨床業務まで大半の業務を1人で管理している。
「1人の患者を診察するごとに、十数個の診察以外の業務が発生する」とキーナン氏は説明する。具体的には次回の診療予約、検査結果の確認、紹介状の送付、処方箋の発行、患者からの質問への回答などだ。
キーナン氏は、電子カルテベンダーeClinicalWorksのサービスを利用している。同社がAI機能を搭載するEHRを提案してきた当初は、ツールに懐疑的だったと同氏は明かす。しかし、使用し始めるとその考えは変わった。
「根本的に、時間の余裕ができた。患者のために本当に重要なこと――つまり、臨床情報を読んだり、患者の支援に必要な知識を習得したりする時間を増やすことができた」(キーナン氏)
キーナン氏が導入したAIツールの一つに、受信したFAXの自動仕分け機能がある。これはAI技術がFAXをスキャンして内容を分析し、検査結果、X線などの医療診断画像、診察情報、紹介状など、該当する患者の情報とひも付けるものだ。同氏によると、その精度は75~85%だ。情報をカルテに追加する前に医師が承認する必要はあるものの、この機能のおかげで同氏は受信したFAXの仕分けに費やす時間を1月当たり約30時間削減できた。
「私がすべきことは、FAXの内容を確認してワンクリックでカルテに保存するだけだ。この機能を使って毎日1時間ほど節約できるようになった」とキーナン氏は説明する。
テキストや画像、音声などのデータを生成するAI技術「生成AI」を活用した臨床記録の作成も役立っている。患者と医師の会話に基づいて、治療計画を含む文書をAIツールが作成する。
特に、患者の家族や他の医療従事者が会話に関わる複雑な症例の場合、PCの画面を見たり入力したりせずに、会話するだけでAIツールが記録を生成する。キーナン氏は、その内容を承認するだけだ。
キーナン氏によると、AIツールは業務の効率化だけではなく、医師と患者の関係性の改善にも寄与している。
キーナン氏は、患者が診察室に入ってきたとき、PCを見ないようにしている。「ただ座って『どうされましたか?』と尋ね、患者が話し終わるまで黙って聞く。このようなコミュニケーションは珍しくなりつつある」と同氏は説明する。続けて「患者は、医師が自分の声に真剣に耳を傾けたことを喜ぶが、ほとんどの医師にはそうする時間がない」と指摘する。
キーナン氏は、19世紀の医師、ウィリアム・オスラー氏の「患者の話を聞きなさい。患者が診断内容を教えてくれている」という言葉を引用しながら、「AIツールという先進的な技術が、傾聴を基本とする伝統的な診療モデルに医師を立ち返らせている」と述べる。AIツールを導入することで、患者中心のケアが再び可能になりつつあるというのがキーナン氏の考えだ。
「AIツールは、私たちが本来望んでいたやり方で働く自由を与えてくれている」と、キーナン氏は強調する。
キーナン氏の経験は、テクノロジーが医療における人とのつながりを置き去りにするのではなく、つながりを維持する助けとなる有望な道筋を示唆している。
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