患者の「予約キャンセル」を3割削減 AIを使った“無駄を減らす病院運営”とはAIで通院しやすさを改善

英国の医療機関で、AIツールを使って診療予約のキャンセルを減らす施策が進んでいる。AIツールの開発や活用は、患者が予約をキャンセルする根本的な原因の特定と解消につながっている。その取り組みを紹介する。

2024年06月20日 08時00分 公開
[Lis EvenstadTechTarget]

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 英国エセックス中南部を管轄する病院運営組織Mid and South Essex NHS Foundation Trustが、人工知能(AI)技術を活用したツールを試験的に導入した。6カ月間の試験運用で、患者による外来診療予約のキャンセル数を30%削減した。同組織はAIツールを活用した予約キャンセル削減の取り組みを継続できれば、病院側の損失を減少させるだけでなく、患者側にもメリットをもたらすと見込んでいる。

AIを使って「予約キャンセル」を減らす取り組みとは

 Mid and South Essex NHS Foundation Trustは、英国の国民保健サービス(NHS:National Health Service)に所属する組織の一つだ。同組織が導入したAIツールは、臨床医の協力を受け、医療AIソフトウェアベンダーDeep Medicalが開発した。天候や交通状況、仕事など患者が予約時間に受診できない要因を匿名化データとして収集し、予約キャンセルの傾向やパターンを学習したAIモデルを使って、キャンセルの発生確率を予測する。日中に休暇を取れない患者に予約を取りやすい夕方や週末のスケジュールを提案することも可能だ。

 試験運用中、Mid and South Essex NHS Foundation Trustは377件の予約欠席の発生を防ぐことに成功。予約通りに受診する患者が1910人増加した。利用者数約120万人の同組織がAIツールを使い続ければ、年間2750万ポンドのコストを削減できる見通しだ。

 NHSでイングランド地域を管轄するNHS Englandが2024年3月に公開したニュース記事「NHS AI expansion to help tackle missed appointments and improve waiting times」によると、2023年の外来診療予約124.5百万件のうち800万件(6.4%)が予約キャンセルだった。この規模の予約キャンセルが発生することで生じるコストは年間12億ポンドだという。

 NHS Englandで「デジタルトランスフォーメーション」(DX)部門のディレクターを務めるビン・ディワカール氏は、予約キャンセル数の削減を目的としたAIツールを次のように評価する。「予約キャンセルを減らすことで治療できる患者数を増やせるだけでなく、患者の待ち時間を減らすこともできる。今後は予約キャンセルの削減に割いてきた予算を、治療に投入できるようにもなる」

 予約キャンセルを減らすAIツールの試験運用は、NHSが運営する英国内10カ所のNHSトラスト(医療機関)で進められている。試験運用に取り組む中でディワカール氏は「短期間で結果を出せることが分かった」と話す。「患者が自身の治療内容を理解し管理できるようになるだけでなく、患者間での医療へのアクセス格差を是正することにもつながる」

 シェフィールド市にある小児科病院運営組織のSheffield Children’s NHS Foundation Trustは、独自のAIツールを試験運用している。このツールは予約をキャンセルする可能性が高い小児患者の保護者を、さまざまな指標を用いて予測したり特定したりする。AIツールを開発したのは小児科病院運営組織のAlder Hey Children’s NHS Foundation Trust傘下で、医療分野のイノベーションの創出を目指すAlder Hey Innovationだ。

 子どもが予約をキャンセルする理由は主に2つある。1つ目は、保護者が予約リマインドのメッセージを受け取れなかったために予約を忘れてしまうこと。2つ目は、通院するための交通費を捻出できないことだ。

 この解決策としてAIツールは、予約をキャンセルする可能性が50%を超える患者の保護者に対してテキストのリマインドメッセージを送ったり、NHSが資金提供している交通サービスの利用を提案したりする。

 「外来診療の予約を入れたにもかかわらず受診しないことと、貧困には相関関係がある」NHSトラストのネットワークであるThe Children's Hospital Allianceの共同議長で、NHS Sheffield Children’s NHS Foundation TrustのCEOを務めるルース・ブラウン氏はこう指摘する。

 「シェフィールド市があるサウスヨークシャー州の医療機関および統合ケアシステム(ICS:Integrated Care System。注1)の管轄地域は、英国の他の地域と比較して貧困度が高く、シェフィールド市には子どもの半数が貧困状態で暮らしている複数の地区がある」(ブラウン氏)

※注1:地域住民への医療と福祉サービスを提供する組織(NHS傘下の医療機関、地方自治体、ベンダーなど)が、サービス提供体制の改善を目指して締結している、パートナーシップおよび包括的なサービス提供体制のこと。

 NHS Sheffield Children’s NHS Foundation TrustはITを積極的に取り入れる方針のため、AIツールの有効性を試せる機会は歓迎していると、ブラウン氏は説明する。「AIツールを使ったテキストリマインダーの送信や、交通手段、駐車場の提供を通じて患者家族をサポートすることで、小児患者が病院にたどり着けない事例を大幅に減らせることが分かった」(ブラウン氏)

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