GPT-4で「視覚障害者の自炊」をサポート ユニリーバはどう実現した?鍵はQRコードではなくAQRコード

Unileverが開発した視覚障害者向けの調理支援アプリには、OpenAIのAIチャットbot「ChatGPT」が使われている。食品ブランドの一部で運用が開始したそのサービスは、どのような仕組みなのか。

2024年03月21日 08時00分 公開
[Cliff SaranTechTarget]

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 大手消費財メーカーのUnilever(ユニリーバ)は、視覚障害者向けモバイルアプリケーションを手掛けるAccessibly(Be My Eyesの名称で事業展開)と提携し、視覚障害のある消費者向けの調理支援ツールを開発した。

 視覚障害者は、食品パッケージに記載されている原材料や調理方法を読むことが困難だ。視覚障害者のこうした悩みに解決策を提供するUnileverのモバイルアプリケーションは、どのような仕組みを採用したのか。

視覚障害者の自炊に「GPT-4」活用 ユニリーバが実現した仕組みとは?

 Unileverはまず実験的に、英国で展開する食品ブランド「Colman's」の「Singapore Noodles」でAccessiblyの技術を採用し、製品のパッケージ前面に、拡張現実(AR)技術ベンダーZapparが開発した特殊な「アクセシブルQR(AQR)コード」を印刷する。買い物客はこのAQRコードをスキャンすると、Accessiblyの視覚障害者支援モバイルアプリケーションにアクセスできる仕組みだ。

 視覚障害者はこのアプリケーションを通じて、ボランティアに調理手順を読み上げてもらったり、レシピや調理に関する質問に答えてもらったりできる。レシピや調理に関する質問に答える機能は、人工知能(AI)技術ベンダーOpenAIのAIチャットbot「ChatGPT」(有料版の「GPT-4」採用モデル)と連携したものだ。

 Unileverは2023年から、洗剤ブランド「Persil」をはじめとする一部製品のパッケージにAQRコードを印刷している。Unileverの説明によるとZapparのAQRコードは、コードの一角に点と長点のパターンを入れており、離れた位置から読み取りやすく、1.1メートル離れた場所からでもスキャンできる。これは一般的なQRコードが読み取れる距離の7倍だという。

 こうした技術を活用して、Unileverは視覚障害のある消費者が店内や自宅で探したい製品を見つけるための支援をしようとしている。具体的にはAQRコードを用いて製品の使用方法、リサイクル識別表示、原材料、栄養価といった製品情報を提供している。これらの製品情報は、スマートフォンに標準搭載のアクセシビリティー機能(音声ガイドや文字拡大など)を使って、Accessiblyのアプリケーション経由で視覚障害者に共有できるという仕組みだ。

 UnileverはAccessiblyと提携し、以下の支援施策にも取り組む。Accessiblyによると、同社の技術が食品パッケージに採用され、チャットbotを通じた調理支援に活用されるのは今回が初の事例だ。

  • ボランティアを育成
  • Colman'sの製品情報とデータをChatGPT向けに提供
  • Accessiblyのアプリケーション経由でUnileverの製品問い合わせ窓口(Colman'sの電話相談サービス)に連絡できるカスタマーサポートの構築

 Unileverで栄養・アイスクリーム担当上級デジタルエンゲージメント・戦略責任者を務めるラチャナ・ドングレ氏によると、同社はブランドに親しんでもらい、買い物を楽しんでもらうために、製品パッケージのデジタル化を加速している。「ZapparのAQRコードを活用すれば、視覚障害のある顧客を補助して平等に情報を提供できる。AQRコードとAccessiblyの技術の組み合わせは、陳列棚から自宅のキッチンまで、当社製品をフルに体験してもらう新しい手段だ」(ドングレ氏)

 AccessiblyのCEOマイク・バックリー氏は「視覚障害のある消費者は製品パッケージに記載されている原材料や調理方法を読むことが難しく、調理を楽しむことは困難だった」と説明。Unileverの取り組みは、製品のアクセシビリティーと利便性を高め、障害者に新時代を開くものだと評価する。Zapparの共同創業者でCEOのキャスパー・ティキエ氏は、この技術を「サービスとしての製品」(product as a service)という新しい分野だと形容する。

 Unileverは2024年中に、AQRコードとAccessiblyの技術の組み合わせを採用するブランドを増やす構えだ。UnileverはAccessiblyやZapparと連携してエンドユーザーのフィードバックを募り、この技術を最適化して、他製品にも採用することを目指す。アクセシビリティーの専門家やアプリケーションベンダーとの協業体制も継続し、製品分野や国をまたいで技術の普及を支援するとともに、この技術を使っている企業とベストプラクティスを共有する意向を示す。

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