医療へのIoTとAIの導入はどのくらい進んでいるのか【後編】
「学習し続けるAI」が医療現場では“使えない”理由
デジタルヘルスケアの分野では、機械学習技術を活用して開発後に進化し続けるといった、従来とは異なる形の医療機器が開発されている。日米規制当局の動向と、最新技術の医療利用への課題について説明する。
前編「IoTとAI技術は医療の現場でどのように役立つのか」では、医療分野でのIoT(モノのインターネット)活用について紹介。医療分野でのIoT(モノのインターネット)や人工知能(AI)技術の活用について紹介。医療分野で利用されるAIシステムの性能向上に、インターネットに接続するIoTデバイスで収集したデータを活用できる可能性を示した。後編では公益財団法人の医療機器センターの付属機関である、医療機器産業研究所で調査研究室長を務める鈴木孝司氏の話を基に、医療へのAI技術の応用事例と、AIシステムに対する日米の規制当局の動向について説明する。
医療へのAI活用の大前提とは
AIシステムを診断と治療に利用するときに重要な点の一つは、医師の最終判断が必要かどうかだ。日本では厚生労働省が2018年12月に各都道府県向けに出した事務連絡(医政医発1219第1号)で、AIシステムは支援ツールにすぎず、診断と治療をする主体は医師だと明記している。診断を「支援」する場合のみ医療現場でAIシステムが利用できる、ということだ。
診断を支援するシステムとは、どのようなものなのか。鈴木氏は例としてCAD(コンピュータ支援診断)システムを挙げる。例えばAIエンジンを使って、乳がんの病巣の特徴と共通したパターンを検出できるCADシステムの場合、医師はそのデータを「チェック漏れを防止するための参考」にすることができる。診断支援に該当するからだ。ただし病気を早期発見する「スクリーニング」や、病気の診断を確定する「確定診断」といった、診断そのものに使用することはできない。
医療現場で診断や治療などを支援するソフトウェア(医療機器プログラム)を利用するには、医薬品医療機器等法(注)に基づく承認が必要だ。内視鏡分野では、2018年12月にサイバネットシステムの「EndoBRAIN」が承認された。この製品は、大腸の内視鏡画像をAIエンジンで分析、大腸ポリープが切除の必要な腫瘍性なのか、切除の必要がない非腫瘍性なのかを判断。腫瘍性ポリープである可能性を数値で出力するシステムだ。
※注:「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」の略称。「薬機法」とも。
鈴木氏が挙げた診断支援システムの例とEndoBRAIN。この両システムに共通する特徴は、市販後に学習でAIエンジンを更新することがなく、分析精度が変化しないことだ。
市販後に学習するAIは承認を取得できるのか
医療機器プログラムの承認には、医療機器としての明確な効果・効能と安全性、それを客観的に証明できるデータが必要になる。承認のためには、治験で効果を証明するデータを集めることが不可欠だ。
現在の医療機器の承認制度は「承認後に性能に変化があった場合、再評価をどうするかという課題を抱えている」と、鈴木氏は説明する。従来の承認制度は、頻繁な変更や更新がなされる医療機器プログラムを想定していないからだ。
市販後に機械学習で性能を向上させられるシステムは、利用状況で状態が変化するため、性能を客観的に評価することが難しい。現行の制度では、性能評価を経て承認されたシステムでも、臨床で使用する中で性能に変化が生じるごとに、性能評価と承認申請をやり直す必要がある。現実的にそれはほぼ不可能だ。
EndoBRAINのように承認後に機械学習をしないシステムの場合、承認を取得した後に性能の変更がない。そのため現状の認証制度でも、客観的な性能の評価と医療機器プログラムとしての承認を受けることが可能だ。とはいえ機械学習の特徴である、継続的な性能向上のメリットを捨て去ることになる。
承認後の性能変更が難しい現状の認証制度下では、少なくとも鈴木氏の知る限り、日米ともに継続的な性能変更を伴う医療機器プログラムの承認事例は、まだないという。こうした状況を打破するために、米国は2017年から、ITを医療に生かすデジタルヘルスケアのための審査・承認プロセスを刷新する試験的なプログラム「Pre-Cert」を実施している。
Pre-Certの対象は、事前に認可されたベンダーが開発する、一定の条件を満たした医療機器プログラムだ。ソフトウェアを審査する前に、ベンダーのソフトウェア設計やメンテナンス、リスク管理体制を評価することで、個別のソフトウェアの申請内容を縮小する。「場合によっては、性能が変化するソフトウェアでも、新しい承認申請が必要なくなるかもしれない」と説明する。現在Pre-Certには、AppleやFitbit、Samsung Electronicsなどの企業が参加している。2019年2月の時点では、同プログラムを利用したFDA(アメリカ食品医薬品局)の承認事例は出てきていない。
厚生労働省と経済産業省の主催する検討会「平成29年度次世代医療機器・再生医療等製品評価指標作成事業」の人工知能分野審査WG(ワーキンググループ)の報告書によると、承認後も学習を続けるAIについて、2017年の時点で評価の指標が検討されている。しかし鈴木氏は「日本ではまだこれからの分野」と話す。ただし「米国の動向が日本に影響する可能性は高い」とも同氏は指摘する。正確に現状を把握するには、医療機器が法規制をどのようにクリアしているのか、法規制がどのように変化しているのかを観察することが必要だ。
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医療へのIoTとAIの導入はどのくらい進んでいるのか
IoTや人工知能(AI)技術といった、比較的新しい技術を活用した医療機器の開発・提供が進んでいる。こうした中 、従来では想定できなかった新しい課題や、実用化へのハードルも明らかになりつつある。本編では、IoTとAI技術を活用した医療機器と、これらの新しい技術を取り巻く状況について詳しく説明する。
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