宇宙産業が拡大する中で、衛星通信サービス関連市場の成長に勢いがある。衛星通信でどこからでもモバイル通信ができるようにするには、ある物が必要だ。
人工衛星を介した衛星通信の技術は、近年著しい進化を遂げている。従来の宇宙産業では科学研究が主役だった。今では民間企業の進出が相次ぎ、「ニュースペース」と呼ばれている。調査会社ABI Researchによれば、ニュースペースによって、2023年に衛星通信の利用が過去最高に達し、市場はウクライナの戦場、東南アジアの群島、北極圏まで広がった。衛星通信端末の市場規模は2030年までに2380億ドルに到達する見込みだ。
こうして衛星通信の市場が拡大する中で、衛星通信のベンダーはまるで地球上のどこでもブロードバンド接続が可能になったかのように宣伝している。そのためにはある物が必要になる。
衛星通信を利用するためには通常、地上に衛星からの電波を受信するためのアンテナを搭載したVSAT(Very Small Aperture Terminal:超小型地上局)のような専用の端末が必要となる。近年では「5G」(第5世代移動通信システム)に準拠した端末であれば一部の衛星通信と直接通信できるようになった。ただし、技術的には地球上のほとんどの場所で通信が可能だとしても、実際の利用はベンダーがサービスを提供している国に限られている。
ABI Researchは宇宙産業全体で衛星のコストが低下傾向にあり、地上に設置する専用の端末も今後はより利用しやすくなると説明する。同社の衛星通信シニアアナリストであるアンドリュー・カバリエ氏によれば、以下のような民間企業が世界各国に衛星通信によるブロードバンド接続サービスを提供し始めた。
こうした民間企業の市場参入によって技術革新が継続し、衛星や地上設備の価格は今後も下がるとABI Researchは予測する。特にAmazon.comによる衛星通信サービス「Project Kuiper」やSpaceXの衛星通信プロジェクトおよび同名サービスの「Starlink」が市場の先駆者になるという。
「Amazon.comとStarlinkの端末は初期費用が低いため、新規顧客と既存顧客は衛星インターネットに魅力を感じるだろう」とカバリエ氏は述べる。「両ネットワークの運用が2030年まで継続される場合、フラットパネルVSAT端末(注)の年間出荷台数は最大200万台に達し、2022年から2030年の年平均成長率(CAGR)は18.6%になる」(カバリエ氏)
※注 従来のパラボラアンテナの代わりに平たんなアンテナ(フラットアンテナ)を利用してコンパクトにした地上局。
ABI Researchの衛星通信リサーチアナリストであるビクター・シュー氏は次のように述べる。「この技術はまだ初期段階だが、カバレッジ(通信可能エリア)のギャップを埋め、農村地域や旅行、緊急通報のモバイル通信を革新的に変える可能性がある」
スマートフォンのベンダーは今後、衛星通信を利用できる端末の販売に注力するとABI Researchは予測する。衛星通信に接続できれば、モバイルネットワークを利用できるエリアが広がるからだ。
衛星通信の普及に向けては、インフラ整備や規制、標準化、バッテリーの消耗といった課題は残っているものの、シュー氏は衛星通信機能を搭載したモバイル端末の未来は明るいと強調する。「ポケットから宇宙につながることで、わくわくできる時代が待っている」
米国TechTargetが運営する英国Computer Weeklyの豊富な記事の中から、海外企業のIT製品導入事例や業種別のIT活用トレンドを厳選してお届けします。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
企業だけではなく自治体でもクラウド活用が進んでいる昨今。中でも業務利用が多いMicrosoft 365には、Microsoft Teamsなど高速かつ安定した回線を必要とするサービスがある。それらを快適に利用するにはどうすればよいのか。
分散環境におけるアプリケーションのパフォーマンスを高めることは多くの企業で課題となっているが、従来のSD-WANによるアプリケーションの識別/回線振り分けは、運用負荷の高さが課題だった。これを解決する、次世代のアプローチとは?
多店舗/多拠点企業のネットワーク担当者216人を対象とした調査により、「SaaSへのアクセスなどネットワーク利用に不便なことや制限が多い」などの課題が浮き彫りになった。これらの課題を解消し、再構築を成功に導く方法を探る。
複数の店舗や拠点を擁する企業にとって、電子決済の通信エラー、本部と拠点の間でのWeb会議品質の低下といったネットワーク課題は、事業運営に深刻な問題をもたらしかねない。よくある8つの問題と、その解決策を探る。
代表的なセキュリティツールとして活用されてきたファイアウォールとVPNだが、今では、サイバー攻撃の被害を拡大させる要因となってしまった。その4つの理由を解説するとともに、現状のセキュリティ課題を一掃する方法を解説する。
お知らせ
米国TechTarget Inc.とInforma Techデジタル事業が業務提携したことが発表されました。TechTargetジャパンは従来どおり、アイティメディア(株)が運営を継続します。これからも日本企業のIT選定に役立つ情報を提供してまいります。
「パーソナライゼーション」&「A/Bテスト」ツール売れ筋TOP5(2025年4月)
今週は、パーソナライゼーション製品と「A/Bテスト」ツールの国内売れ筋各TOP5を紹介し...
Cookieを超える「マルチリターゲティング」 広告効果に及ぼす影響は?
Cookieレスの課題解決の鍵となる「マルチリターゲティング」を題材に、AI技術によるROI向...
「マーケティングオートメーション」 国内売れ筋TOP10(2025年4月)
今週は、マーケティングオートメーション(MA)ツールの売れ筋TOP10を紹介します。