迅速かつ効率的な診療を提供するために策定される「クリニカルパス」。しかし、実際の現場で適用できないケースもあり、その効果的な策定と実施に悩む医療機関も多い。
近年、医療機関は各患者の診療開始時にその治療計画を詳細に記載した計画表を利用するケースが増えている。この計画表は「クリニカルパス」「クリティカルパス」と呼ばれる。治療の質的向上、医療従事者間の情報共有による効率化と提供医療の標準化、治療計画の概要を患者に説明する際の資料として利用できるなど、多くのメリットがある。
しかし、クリニカルパスにも課題がある。患者の状態変化に応じて治療計画を変更したり、合併症が併発した場合などに柔軟に対処することが難く、パスからの離脱率(バリアンス)が高いことが問題となっている(関連記事:医療のIT化が遅れている原因は何か?)。
こうした課題を解決するべく、東京大学 工学系研究科 化学システム工学専攻 医療システム工学寄付講座 特任教授の飯塚悦功氏が2004年に提唱したのが「PCAPS(Patient Condition Adaptive Path System:患者状態適応型パスシステム)」である。PCAPSは品質工学の手法を医療に応用し、患者の状態に沿った多様な診療を可能にする手法だ。
PCAPSを提唱した経緯について、飯塚氏は「本来の医療とは患者の病状に対応し、その改善が主目的であるべきだ。それにもかかわらず、病状が変化すると適応外になってしまう従来のクリニカルパスに矛盾を感じた」と語る。そこで「患者の状態がどう変化するかという全貌を理解した上で、その変化に適応できる新しい治療体制を整える必要があると考えた」という(関連記事:スマートフォンの利用で患者治療の効率はどう改善されるか)。
その後、PCAPSの構想に賛同した東京大学 工学系研究科 化学システム工学専攻 医療社会システム工学寄付講座 医学博士 特任教授の水流聡子氏が2004年に同プロジェクトに参加し、本格的にPCAPSの開発がスタートした。
水流氏は「医師は患者の状態に応じて、どのような治療を施せばよいのかを頭の中や感覚で分かっている。PCAPSではこの知識を“見える化”することで、患者の状態が変化しても適切な医療介入を行える仕組みを目指した」と話す。また、「単なるクリニカルパスとは一線を画するものであり、医療従事者が保有する臨床知識を可視化・構造化し、最適な医療を支援する」と説明。PCAPSを活用することで「医療の質を保証できるだけでなく、医療経営の改善にも役立つと期待している」と力を込める。
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