事例で学ぶBI活用のアイデア【第7回】
BIで顧客のシステム稼働状況をリアルタイム可視化したIT企業事例
昨今データ活用のリアルタイム性を重視する企業が増えてきているようだ。顧客企業に提供するシステム管理ポータル画面をBIツールで構築したあるIT企業の事例を紹介する。
高まるリアルタイム可視化ニーズ
ビジネスインテリジェンス(BI)のデータ活用範囲は、会計や販売といった業務システムのデータだけでなく、POSシステムのジャーナルやECサイトなどのWebシステムのログデータなど、システムが発生する大量のデータ活用に範囲が広がってきている。従来、業務システムやPOSシステム、Webシステムのデータ活用は、バッチでデータをBIツールに取り込んで、数日前までの状態や一定時間ごとで分析するのが一般的だった。
しかし昨今では、データ活用のリアルタイム性を重要視する企業が増えてきている。リアルタイムに「今何が起こっているのか」を可視化することで迅速に対処し、顧客満足度の向上や他社との差別化を図る企業が増えていると考えられる。
そこで今回は、リアルタイムでデータや情報を可視化したあるIT企業のBI導入事例を紹介したい。この事例の興味深い特徴は、自社内のデータではなく、自社の提供するIT運用サービスにBIツールを採用することで、顧客企業のデータをリアルタイムに可視化していることだ。自社で独自システムを構築しているIT企業が、なぜBIツールを利用することにしたのだろうか。
顧客企業への報告リポート作成工数が増大
事例企業プロファイル
業種
- ITサービス業
企業規模・業種内容の参考データ:
- 日本全国約100カ所のサービス拠点から、24時間365日体制で顧客企業のシステム保守、運用、監視サービスを提供
- 従業員数約1500人
今回紹介するBI導入企業は、IT総合企業のグループ企業だ。システムサポートサービス、教育サービス、システム構築サービスの大きく3つの事業を展開している。事業の一角を占めるシステムサポートサービスでは、日本全国約100カ所のカスタマーサービス拠点を構え、24時間、365日体制で顧客企業のシステム保守、運用、監視サービスを提供している。
この取り組みの一環として2011年1月に、顧客のITシステムを遠隔運用するサービスを刷新。顧客満足度の向上を目的に、顧客企業の管理者が自社システムの稼働状況や障害状況、エンジニアの作業状況などをリアルタイムに把握できる「管理用ポータル」を開発している。この開発基盤としてBIツールを採用した。
管理用ポータルを提供する以前は、監視を含めたシステムの稼働状況を月次や週次でリポートにまとめ、顧客企業のシステム管理者に紙ベースで報告をしていた。報告用のリポートは、蓄積された監視ログからエンジニアが必要なデータを抽出し、Microsoft Excelなどで加工して作成していた。顧客企業のリクエストごとにリポートの見せ方を変えることも必要で、作成作業に多くの時間を費やすこととなり、本業である運用サービスの負担にもなっていたという。
管理用ポータル構築でリアルタイムの情報可視化へ
この管理用ポータルのリニューアルに当たり、監視している機器の情報やログイン履歴、障害情報、エンジニアの対応状況などが一目で分かるポータルサイトを開発することが決定された。開発のコンセプトは、「顧客企業にリアルタイムな情報の見える化を提供する」こと。
システム監視をアウトソースする場合、顧客企業は常にシステムの状況を気にする。リアルタイムに情報が見えないことは大きな不安材料だったという。また、定形化したリポート内容以外の状況は把握できないため、運用ノウハウも蓄積できなかった。こうした課題を解決することも重要な目的となった。
2010年10月からBIツールを利用したシステム開発がスタートし、3カ月の開発期間を経て、2011年1月に顧客向け管理用ポータルの提供を開始した。構築された新システムでは、監視している顧客企業のシステムで障害を検知した場合に、障害の復旧やログの取得が自動化され、瞬時に対応できる機能を新たに開発。それと同時に、担当エンジニアにエスカレーションされて障害の切り分けや保守の手配を行い、それらのインシデントやリソースの情報は、全て統合データベースに蓄積される。そして、蓄積された統合データベースから顧客向けに提供されるデータがBIサーバに登録され、管理用ポータルを介して顧客企業のシステム管理者が状況をリアルタイムに把握できる仕組みになっている。1カ月のデータ処理数は、インシデント情報が30万件、リソース情報はサーバ1台当り平均17万件になり、システム全体では数千万件処理することになる。
顧客企業が利用する管理用ポータルは、導入のしやすさや使いやすさはもちろん、見た目も重要だ。また、監視する機器や項目によってグラフ表示する数を動的に変化する必要があり、このあたりはBIツールの機能や特徴を最大限に活用している。そうして開発された管理用ポータルは見た目のインパクトも大きく、運用状況をグラフにより一目で把握できるようになり、導入した顧客企業にも好評のようだ。
もちろん、BIツールを利用したことで開発工数も大幅に削減したという。この管理用ポータルを利用することにより、これまで自社のエンジニアが作成していたリポートを廃止することもでき、リポート作成の時間を本来のサポート業務に費やすことができるようになっている。
今後はモバイルでのサービス提供も
同社は今後、スマートフォンから同じ管理用ポータルを利用できるようにすることで、顧客満足度をより一層向上することを考えているとのことだ。今後ますますスマートフォンなどのモバイルデバイスが普及されていく中、個別でのシステム対応をすることなく、BIツール側の対応だけでさまざまなモバイルデバイスでの利用が可能になるだろう。こうした点も、BIツールを利用することの1つのメリットといえるのではないだろうか。
今回の事例は冒頭でも紹介した通り、自社の提供するIT運用サービスにBIツールを採用することで、システムの稼働状況や障害状況、エンジニアの作業のために必要な各種情報をリアルタイムで可視化し、顧客の利便性や満足度を向上させたものだ。例えば、工場のライン状況や在庫状況など、リアルタイムで可視化することでビジネス改善や顧客満足度の向上を実現できるデータや情報はさまざま存在する。BIツールを使ってチャレンジしてみてはいかがだろうか。
小島 薫
ウイングアーク テクノロジーズ株式会社 BIサポート本部 本部長
1stホールディングス株式会社 BI事業部 事業部長
石川県出身 1959年生まれ。製造業でのシステム構築、経営企画などに従事した後に、独立系パッケージベンダーに入社。汎用機からオープンシステムまでの基幹系データベースを中心に、データウェアハウス(DWH)、XML関連のサポート、プリセールス、コンサルティング、マーケティングを経験。2005年にウイングアーク テクノロジーズに入社し、技術部門、マーケティング部門、製品戦略部門の部門長を経て、国内外を含めた製品戦略に携り、現職に至る。
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