BIのモバイル対応は単なるトレンドか?【後編】
オラクルとSAPのモバイルBIが実現する「真のリアルタイム」、それぞれの意味
BIのスマートデバイス対応は単なるトレンドなのか? 日本オラクル、SAPジャパンが言う「真のリアルタイム」をひも解くと、それがもたらすユーザーメリットが見えてくる。
ビジネスインテリジェンス(BI)ベンダー各社の記者説明会やカンファレンスを基にBIのスマートデバイス対応がもたらすユーザーメリットを探る本稿。前編「BIのiPad/Android対応がユーザーに与えるメリット」ではBI専業ベンダー2社(マイクロストラテジー・ジャパン、クリックテック・ジャパン)のモバイル対応を解説した。後編では日本オラクル、SAPジャパンの発表を基に、巨大ベンダーが言う「真のリアルタイムの実現」とは何かをひも解きたい。
モバイル対応は一要素、ユーザーが選択できる環境を
日本オラクルは2011年6月28日、BI製品の最新バージョン「Oracle Business Intelligence R11.1.1.5」(以下、Oracle BI)を発表した(関連記事:Oracle BIが実現する「3つのリアルタイム」と「BI標準化」とは)。最新版の機能強化点としてスマートデバイス対応を発表しており、iOSに対応した専用のOracle BIアプリケーションを提供し、iPhone/iPadでOracle BIを場所を問わずに利用できる。
オラクルは「Oracle Database」や高速データベースマシン「Oracle Exadata」といったデータソース基盤だけでなく、フロントエンドの分析アプリケーションはOracle BIの他にもEPM(Enterprise Performance Management)製品群「Hyperion」などを持つ。また、最新版のOracle BIはインメモリデータベース「Oracle Times Ten」やSAPのオンライン分析処理システム「SAP Business Information Warehouse」(SAP BW)などのデータソースにも対応している。これらを背景にしたOracle BIのスマートデバイス対応がもたらすユーザーメリットは、単純に「Oracle BIをiPadで使える」だけではない。それをひも解くためにはOracle BIについてある程度知る必要がある。
複数データソースを仮想統合してシミュレーションを実行
Oracle BIの大きな特徴として挙げられるのが、散在した情報を収集するBIサーバ「Common Enterprise Information Model」により、複数データソースのデータを仮想的に統合し、リアルタイム分析が可能なことだ。
また、Oracle BIは以下のライセンスに含まれており、
- Oracle BI Suite Enterprise Edition Plus
- Oracle BI Standard Edition One
- Oracle BI Foundation Suite
3つ目のOracle BI Foundation Suiteは、旧Hyperionの「Oracle Hyperion Essbase」(Essbase)を統合している。Essbaseは為替をはじめとする「どう変動するか分からない」数字を動的に変えながら将来予測を可能にする多次元データベースだ。
つまり、Common Enterprise Information Modelで仮想統合した複数データソースを基に、Essbaseで変動要因を調整しながらシミュレーションを行うことができる。もちろんデータソースはオラクル製品だけに限らず、例えばSAP ERPのSCM(Supply Chain Management)データとOracle E-Business Suiteの販売データを仮想統合して1画面に表示し、販売データの予測値を変更しながらサプライチェーンへの影響を導き出すといったことが可能になる。日本オラクル ソフトウェアライセンス事業 製品事業統括 EPM/BI事業統括本部 ビジネス推進本部 ビジネス推進部 枇榔貴子氏は、オラクルがEssbaseを統合したOracle BI Foundation Suiteを提供する理由を以下のように語る。
「過去・現在・未来という時間軸の中で、従来のBIは過去の情報を分析するという話だった。やはり未来という要素を考慮しなければ、現在行うべき一手を無理・無駄なく実行することはできない。スイート製品として提供することで、BIツールから簡単にシミュレーションが可能。『真のリアルタイム』を実現するために非常に大切な機能といえる」(枇榔氏)
モバイルで基幹システムの業務指示を実行
そしてOracle BIのもう1つの重要な機能が、BIと基幹システムのシームレスな連携を可能にする「Actionable BI」だ。異常値が発信された場合に基幹システムの具体的な画面にBIが誘導し、即座にオペレーションを行うことができる。つまり、モバイル端末から直接基幹システムの業務指示を実行できるわけだ。
「良いシナリオ、悪いシナリオを見ることで、今どういうオペレーションをすれば無理や無駄がないのかを予測をしながら、良い着地点を見いだしてほしい。そして、スマートデバイスを活用して現場でそのまま実行につなげてほしい」(枇榔氏)
オラクルの言うBIのスマートデバイス対応は、重要ではあるが真のリアルタイムを実現するための1つの要素にすぎないようだ。データソースが何であれ、ユーザーの利用するデバイスが何であれ、そしてどのような分析、それに基づく意思決定を行いたいのか、それら全てを実現できる環境をオラクルは用意する。「ユーザー企業が選択できる環境がそろっていることが重要」と枇榔氏が語るように、膨大なデータソース製品、基幹システム製品、フロントエンドアプリケーションを網羅するからこそ提供できるユーザーメリットを訴求している。
「ビジネスの発生源処理」「消費点処理」こそが真のリアルタイム
2011年6月1日、SAPジャパンは同5月16日~18日にかけて開催されたSAP最大の年次カスタマーイベント「SAPPHIRE NOW 2011」で発表されたSAPの最新動向と日本での展開を説明するプレスセミナーを開催した。同プレスセミナーでは、買収したSybaseのモバイル環境に特化したアプリケーション開発基盤の新バージョン「Sybase Unwired Platform 2.0」とソフトウェア開発キット(SDK)の拡張版を発表している。
モバイルBIの課題となるアプリ開発を解決
Sybase Unwired Platform 2.0は、iOSやBlackBerry OS、Windows Mobileに対応したアプリケーション開発プラットフォームだ。HTML5、JavaScript、CSSなどのWebベースアプリケーション開発環境をサポートしており、デバイスに依存しないアプリケーション開発を可能にしている。新規開発するモバイルアプリケーションは、もちろんバックエンドのSAPアプリケーションとの連携が可能だ。
SAPジャパン リアルタイムコンピューティング推進本部 部長 馬場 渉氏は、「Sybase Unwired Platformにより、SAPは『エンタープライズアプリケーション界のApp Store』のように進化する可能性を秘めている」と語る。SAPが開発したアプリケーション、パートナー企業やデベロッパーが開発したアプリケーションを利用できるだけでなく、ユーザー企業の技術者は自由に自社システムに蓄積したデータを活用する分析アプリケーションの開発が可能になる。
既にSAPはSAP CRMにスマートデバイスでアクセスできる「Sybase Mobile Sales for SAP CRM」やSAP Business Suiteにスマートデバイスでアクセスしてワークフロープロセスを実行できる「Sybase Mobile Workflow for SAP Business Suite」を提供しており、SDKの拡張版の提供開始(2011年秋を予定)に合わせて、約50種のモバイルアプリケーションをリリースする予定だという。
インメモリとモバイルが実現する真のリアルタイム
一方で、昨今のSAPがインメモリ型高速データベースアプライアンス「SAP HANA」に注力していることはご存じの通りだ(関連記事:ERPユーザー注目、SAPがデータベースベンダーになる意味)。また、BIのスマートデバイス対応に関しては、既に「SAP BusinessObjects Mobile BI」などを提供している(関連記事:インメモリ型DBやiPhone対応で「誰でも使えるBI」を目指した「SAP BusinessObjects BI 4.0」)。そして当然のことながらERP製品とBI製品の連携も柔軟に行える。これらとモバイルアプリケーション開発基盤を相互利用することで、ユーザー企業は自社のアイデアをスマートデバイス上で形にすることが容易になるのだ。
「エンドユーザーからして見ればデータの量は関係なく、結果が今すぐに欲しい。膨大なデータを保有するデータベースやモバイルユーザーのアクセス数増などの課題はSAPが解決する。インメモリ技術とモバイルで、『ビジネスの発生源処理』『消費点処理』という真のリアルタイム性を実現する」(馬場氏)
BIのモバイル対応は単なるトレンドではない
以上、前編ではBI専業ベンダーのモバイル対応を、後編では日本オラクル、SAPジャパンという巨大ベンダーのBI戦略を見てきた。それぞれ訴求の仕方は異なるが、口をそろえるのは「リアルタイムの実現」だ。場所や時間を選ばない意思決定のために、BIのモバイル対応は今後「当たり前の一要素」として浸透していくことだろう。
また、意思決定をするためのデータを取り寄せて分析する時間を最小限に短縮するために、各ベンダーは高速データ処理技術を取り込みながら日々製品進化を続けている。競合分析や販売戦略立案のためにIT部門にデータを依頼し、受け取ったデータを手元のExcelで集計、分析しながら資料を作成、一週間後の経営会議で意思決定する。こうしたプロセスを踏なまければならない時代は終わりを遂げようとしているのかもしれない。その期間を早ければ1日に短縮するような環境を、BIベンダーは既に提供し始めている。枇榔氏、馬場氏、両氏の言葉を借りれば、「未来を踏まえた分析による無理無駄のないオペレーション」を「ビジネスの発生源や消費点」で実行できるのだ。
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