パブリッククラウドとプライベートクラウドの違い【前編】
導入しても管理が難しい、プライベートクラウドの利点と制約
既存のIT資産を生かしてオンデマンドや自動化といったクラウドの利点を享受できるプライベートクラウド。前編では、プライベートクラウドの具体的な利点や制約を検証する。
本稿は、パブリックおよびプライベートクラウドに関する連載の前編だ。後編は「パブリッククラウドサービスの利点と欠点」について解説する。
プライベートクラウドは、プロバイダーが提供する専用あるいはリース方式のホステッドファシリティの場合もあるが、ほとんどのプライベートクラウドは既存のデータセンターをユーティリティベースのコンピューティングアーキテクチャに転換したものだ。それらは従来と同じように自社で所有し、保守、管理する。もちろん、クラウドへの移行を成功させることは容易でもなければシンプルでもない。だが、IT担当者が直面する最大のチャレンジは、クラウドアーキテクチャをプライベートにするか、あるいはパブリックかするかの選択だろう。決断を下す前に、本稿を参考にしてプライベートクラウドの具体的な利点や制約を検証してみよう。
プライベートクラウドの導入実態とその分析
クラウドがマーケティング業界の過剰な宣伝文句の犠牲者であることは、もはや秘密でも何でもない。しかし、このテクノロジーをどう定義するにせよ、プライベートやパブリッククラウドが先進的な多くの企業に受け入れられつつあることは明白だ。米TechTargetの最近の調べによると、調査した1000社のIT部門の15%以上が既に何からの形のクラウドを導入しており、およそ17%が今後12カ月以内に何らかの形でクラウドを導入する予定だ。
プライベートクラウドはオンデマンドの流れをシフトした。それに伴い、データセンターにおけるハードウェアの利用形態に変化が生まれ、コンピュータリソースに対する事業部門や株主のコスト意識もシフトしつつある。企業にとって、プライベートクラウドを選択する理由はさまざまだ。コストは常に重要な要素だが、必ずしも第一の動機になるとは限らない。プライベートクラウドへ移行する企業にとって最大の関心事は、既存インフラへの投資が無駄にならないことである。前述の調査でも、回答企業の35%以上が、プライベートクラウド選択の理由としてその点を挙げた。データセンターの建設に莫大な資金を投じた企業にとっては当然のことだろう。
その他、17%が災害復旧(DR)と事業継続性のメリットを選択の理由に挙げ、16%がITの所有権にこだわりを見せた。また回答企業の11%は、クラウドの真価であるセルフサービスと自動化機能に期待を寄せている。
プライベートクラウドとコンプライアンス
プライベートクラウドを地理的に分散する環境に導入した場合、データロケーションにコンプライアンスや法規制の問題が絡んでくる。クラウドは仮想データセンターと異なり、データの物理的なロケーションを追跡することが極めて難しい。そのため、法令順守については十分な注意を払わなければならない。
たとえプライベートクラウドの導入に成功したとしても、その成果を最大限に引き出すことは容易ではない。クラウドの管理には、標準運用手順の確立、高度な自動化、部門間や関係部局間でのコンピュータリソースの共有、単一のサービス品質保証(SLA)を基盤に統制された標準化が不可欠だ。
そうした一連の条件をクリアして初めてクラウドリソース全体の利用効率を極限まで高め、コスト効果を最大限に引き出すことが可能になる。だが、それらの条件は従来の典型的なデータセンターにおいては必ずしも常識的なものではない。コンピュータリソースの統制、自動化、さらには共有化がなければ、利用効率を一定レベルまで引き上げることはできない」と語るのは、米Forrester Researchの副社長で主席アナリストのジェームズ・スタテン氏だ。
クラウドとコンプライアンスに関する記事
オール・オア・ナッシングの意思決定ではない
プライベートクラウドへの移行は、オール・オア・ナッシングの意思決定ではない。専門家たちは、まず限定的なクラウドインフラストラクチャでスタートし、その環境内の「ミニクラウド」において優先度の低いアプリケーションから実行するなど、段階的な移行を推奨している。こうした慎重なアプローチを採用すれば、クラウドテクノロジーに徐々に慣れ、トレードオフの影響を検証するための十分な時間が得られるはずだ。成功すればプロジェクトを加速し、失敗すればスローダウンする。導入の初期段階で徹底的に検証すれば、ビジネスに悪影響を及ぼす不必要な混乱を最小化できるだろう。
プライベートクラウドにおけるデータ保護は、もう1つの重要な検討事項だ。従来型のバックアップメカニズムを採用する企業は、クラウド移行後もそのアプローチを継続できる。だが、Backup Execなどのバックアップツールは、クラウド互換バージョンにアップグレードする必要があるだろう。
より精密なリカバリニーズを持つ企業は、高可用性と高速レストレーションのデータ保護機能を組み合わせる手段として、レプリケーション/スナップショットとクラスタリングのコンビネーションを選択するかもしれない。だが恐らく最大の課題はDRだろう。クラウドの本質的なDRの概念は誤解されている。プライベートクラウド導入企業は、DR計画の実装に真剣に取り組まなければならない。
データ保護スキームの開発と検証は、プライベートクラウドの導入を段階的に進めるべきもう1つの理由だ。このアプローチでは、プライベートクラウドが十分に理解され、ある程度開発されるまで、厳重なデータ保護が要求されるミッションクリティカルなアプリケーションの移行を行わない。
パブリッククラウドにも、基本的にはプライベートクラウドの構築に用いられる技術と同じ技術が用いられている。だが、Windows Azure Platform(関連記事:オンプレミスとの連携を意識した「Windows Azure」)などのパブリッククラウドは、本来目指す方向が異なる。一般的にパブリッククラウドは、ハードウェアや各種機能、アプリケーションを全てホストするプロバイダーのサービスとして提供される。パブリッククラウドは、規模の経済によって、世界各地に分散する膨大な数のサーバやストレージリソースをサポートしている。
クラウド経済の効率性
「効率的なクラウドは本質的に、高度に自動化され、厳しく統制された環境であり、提供できるのは固定的なサービスや機能だけだ」とスタテン氏は語る。各組織が固有のニーズや関係部局の要求の全てを満たそうとすれば、クラウドの経済性は一気に失われる。
また、クラウドではサービスや機能が制約されるだけでなく、アプリケーションも大幅に削られ、コンピュータリソースは必要に応じて再利用される。こうしたコンセプトは、アプリケーションの終了後もコンピュータリソースを長く占有することが当たり前と考えられてきた企業環境では理解されにくい。「プライベートクラウドの普及が進まないのは、多くの企業がそうしたコンセプトを理解できないためだ」と、スタテン氏は指摘する。
多くの専門家が、クラウドに対するさまざまな懸念は今後数年以内に解消するだろうとみている。例えばクラウドベンダー各社は現在、データロケーションの懸念を解決するために全力を挙げて取り組んでいる。その結果、データロケーションと保護に関して、何らかの形式でプロバイダーを認証する仕組みも広がりつつある。
「将来、さまざまな特徴を持ったクラウドが数多く登場するだろう。それぞれのクラウドは独自のサービスを提供し、ユーザーの多様な要求に応えてくれるはずだ」とスタテン氏は予測する。しかし同時に、パブリックであろうとプライベートであろうと、全てのコンピューティングニーズに対応できるクラウドはないということも忘れてはならない。たとえクラウドが広がっていこうとも、従来型のデータセンターは今後も存在し続けるだろう。
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