インテルとの統合の真価はいまだ見えず
マカフィー新技術「DeepSAFE」は単なる“vPro対応技術”で終わるか
マカフィーが開発した新しいセキュリティ技術「DeepSAFE」を評価する声は多いものの、セキュリティ業界を変えるほどの影響力を持つのはまだ先だというのが専門家の共通認識だ。
McAfeeは2011年10月20日、メモリやCPUプロセスを監視・制御する新技術「DeepSAFE」を備えた初の製品を発表した(参考:Windows 8にも対応したハードウェアレベルのセキュリティ基盤「DeepSAFE」)。だが、この新製品に対する業界アナリストの見方は冷ややかだ。同社の思惑通りに新製品の企業導入が進むかどうかは疑問符が付く。
DeepSAFEは有望な技術であることは疑いのない事実だ。だが今回発表された製品は「少なくとも現状は、セキュリティ業界の様相を一変させるものには程遠い」と、米市場調査会社Current Analysisでエンタープライズネットワーク/セキュリティ担当調査ディレクターを務めるアンドルー・ブラウンバーグ氏は厳しい見方を示す。
DeepSAFEは、McAfeeを2011年3月に買収したIntelのチップセットの機能を活用し、OSより下のレベルで動作するハードウェアベースのセキュリティ技術だ。同社のセキュリティ管理製品「McAfee ePolicy Orchestrator(ePO)」から、IntelのクライアントPC向け運用管理支援技術である「vPro」の機能を使いやすくするといった効果を持つ。だが現状は「vPro搭載のクライアントPCを利用する企業は数える程度しかない」とブラウンバーグ氏は指摘し、ユーザー企業への訴求力に疑問を呈する。
「『最初にDeepSAFEを備えた製品』ということを除けば、新製品の実体は『vPro対応のMcAfee製品』というレベルのものだ」(ブラウンバーグ氏)
DeepSAFEを使った新製品は、McAfeeが米ラスベガスで開催したユーザーカンファレンス「McAfee Focus 11」で発表された。その1つが、ハードウェア機能を利用してカーネルレベルのセキュリティ対策を実現する製品「McAfee Deep Defender」である。Intelとの密接な連携で開発されたDeep Defenderは、メモリで動作しようとする不審なプロセスを検知して遮断や隔離をする。特にrootkitについては90%の確率で検出できると同社は説明している。Intel Core i3/i5/i7を搭載するクライアントPCで利用できる。
同時に発表されたエンドポイントセキュリティ管理製品「McAfee ePO Deep Command」は、vProの主要技術の1つである「Intel Active Management Technology(AMT)」を利用し、電源が入っていないクライアントPCでもリモート管理できる。
これらの製品は、ハードウェアレベルのセキュリティ技術を採用する最初の製品であることをMcAfeeは示唆している。同社はスマートフォンや組み込みデバイスといった小型の端末向けのセキュリティ製品の提供も視野に入れているという。
米調査会社Forrester Researchの副社長兼首席アナリストであるチェンシ・ワン氏は「DeepSAFEは有望な技術だが、これで業界の様相が一変するかどうかはまだ分からない」と見解を保留する。「rootkit検出は確かに注目すべき機能だが、rootkit自体は解決すべき最も差し迫った問題というわけではない。DeepSAFEはセキュリティ業界において一定の存在感を持つ可能性はあるが、顧客がこの技術をどう受け止めるかは様子を見ないと分からないというのが率直な印象だ」(ワン氏)
Intelのチップセット技術を使ったセキュリティ機能を提供しているベンダーはMcAfeeだけではない。米Absolute Softwareのセキュリティサービスは、Intelの盗難防止技術「Intel Anti-Theft Technology(AT)」を利用している。専用のプログラムをクライアントPCのファームウェアに組み込むことで、クライアントPCの電源がオフの場合でもリモートで端末のデータ消去やデータ復旧、OSの起動阻止、位置情報を使った所在地の追跡などが可能だ。
ePO Deep Commandについても、類似の機能を持つセキュリティ製品を他ベンダーが提供済みである。IBMのセキュリティ製品「IBM Tivoli Endpoint Manager for Security and Compliance」がその1つ。同社が2010年に買収したBigFixの技術を基にしたこの製品は、vProを利用した管理機能を提供。電源が入っているかどうかを問わず、リモートでクライアントPCのパッチ適用や設定管理などができる。
情報セキュリティ専門のコンサルティング会社である米Spire Securityで調査ディレクターを務めるピート・リンドストーム氏は、「McAfeeが目指す“ハードウェアベースのセキュリティ”という方向性は正しいが、企業がその必要性を理解するまでにはまだ時間がかかるかもしれない」との見方を示す。「vProはまだ企業に深く浸透しているという状況ではない。かといって多くの企業がノートPC環境の刷新に踏み切るとは思えない」(リンドストーム氏)
Forresterのワン氏によれば、McAfeeの社長を務めたデイブ・デウォルト氏が同社を去った後、同社の全般的な戦略が変化しているような兆候もかすかにあるという。McAfee Focus 11ではDeepSAFEがメインテーマとなる一方で、McAfeeのクラウドセキュリティ戦略や、Intelが2009年に8億8400万ドルで買収した組み込みOS大手のWind River Systemsとの統合戦略についてはほとんど語られなかった(参考:マカフィーとウインドリバー、組み込み機器向けセキュリティ分野で協業)。いずれも2010年のFocusでは中心的なテーマだったにもかかわらず、である。
「McAfeeは現在、主にエンドポイントやプラットフォームレベルのセキュリティに重点を置いているように見える。だが私が聞いた話では、他分野の拡大のためのコミットメントや投資は継続するということだった」とワン氏は話す。
IntelのMcAfee部門事業開発戦略担当副社長であるアンソニー・ジェニングズ氏はメール取材で、「製品ロードマップに対するコミットメントは継続している」と回答した。「McAfeeは引き続き、クラウドやWind Riverへの大規模な投資を続ける。半年から1年の間に何らかの発表ができるだろう」(ジェニング氏)。McAfee広報には取材できなかった。
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