ウイルス対策ソフトのマルウェア検出率を比較(後編)
検証結果が示す“ウイルス対策ソフト限界説”のウソ、ホント
巧妙な手口で企業資産を狙うマルウェア。ウイルス対策ソフトを容易にかわす攻撃の登場により、その限界説もささやかれている。マルウェア侵入テストで46のウイルス対策エンジンを検証してみた。
特定の標的を執拗に狙うAPT(Advanced Persistent Threat)攻撃が後を絶たない。前編の「比較して分かったウイルス対策製品の実力」に続き、主要なウイルス対策製品のマルウェア検出率を検証する。
侵入テストフレームワークを使ったパッケージング
今回は、人気の侵入テストフレームワーク「Metasploit Community Edition」を活用したテストの結果を紹介する。このツールはオープンな開発への貢献と柔軟性で定評がある。エクスプロイトやバックドアをファイルにパッケージングして侵入テストに使える機能は、数年前に追加された。このツールでは、PDFやMicrosoft Officeの全標準フォーマットなど、多くの人気ファイルフォーマットが作成できる。また、デフォルトのMicrosoft Windowsプログラムファイルをテンプレートとして、実行可能ファイルを生成することも可能だ。ユーザーは何の不審も抱かずにメモ帳(notepad.exe)を実行し、それが改ざんされていることにも気付かない公算が大きい。侵入テストではこの方法でウイルス対策エンジンをかわし、マルウェア作者が本物らしく見せかけた不正なコードを生成する手口をシミュレートできる。
私はウイルス対策ソフトによる検出率をテストするために、複数の標準的なMicrosoft Windows実行可能ファイルにあるコマンドを経由させた。
このコマンドで、4444番ポート上にある「192.168.1.75」のコマンド&コントロール(C&C)サーバに接続する標準的なリバースTCPバックドアが生成された。被害者が生成された実行ファイルを実行すれば、192.167.1.75のC&Cサーバへのバックドア接続が確立される。
次に実行ファイルをアップロードしてスキャンし、前回のテストに使ったのと同じウイルス対策エンジンの検出能力を試した。その結果、virustotal.comで利用できる46のウイルス対策エンジンは1つ残らず完敗だった。MicrosoftとSymantec、McAfeeも含め、このファイルにエンコードされたバックドアを検出できたものは1つもなかった。だがこれは驚くには当たらない。定義ファイルベースのウイルス対策エンジンの限界を示す、予想通りの結果だった。ウイルス対策エンジンは、過去に見たことのあるマルウェアでなければ、検出することはできない。
断っておくが、今回のテストは科学的なものではなく、最新のマルウェア攻撃に対する防御としてウイルス対策ソフトが役に立たないことを示しているわけではない。だが、ウイルス対策ソフトは会社のコンピューティング資産を守るために必要な縦深防御戦略の中の、一部にすぎないことを示している。これはSymantecが米New York Timesの記事を受けて指摘した通りだ。
ウイルス対策に重ねるレイヤー技術
今こそ最高情報セキュリティ責任者(CISO)が行動を起こし、マルウェア対策システム上に技術層の追加を検討するよう、経営陣に促すべき時だ。例えば、ホワイトリストと組み合わせ、許可されたプログラムしかクライアントマシン上で実行できなくすることも可能だ。次世代ファイアウォール、IPS/IDS、Webフィルタリングシステムはいずれも、大抵がマルウェア感染によって発生する異常なネットワークトラフィックの検出に利用できる。もちろん、人による解釈と介入なしに効果を発揮できるシステムは存在しない。従って、どのようなシステムを活用するにしても、熟練のセキュリティ専門家に責任を持って監視させることが重要だ。
メディアのウイルス対策ソフトに対する批判が高まる中、「ウイルス対策ソフトはもう終わったのか」という疑問が再浮上している。しかしウイルス対策ソフトは健在だ。ただしそれは全般的な防御戦略の一部としなければならない。先に実証した通り、最もベーシックな攻撃でさえも効率的な難読化は容易だ。効果的な情報セキュリティ対策とは1つの製品やセキュリティ層を中心とすべきものではなく、複数の層と技術を用いた包括的なリスク管理プログラムを通じて達成すべきものであることが、これで一層裏付けられた。Timesの事件、そして多数の同様な事件をきっかけとして、組織は現代の新しい種類の防御策でウイルス対策ソフトを補わなければならない。
※本稿筆者のジョセフ・グラネマン氏は、医療ITを中心に、技術・情報セキュリティ分野において20年以上の経歴を有する。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
この記事の著者
新着ホワイトペーパー PR
-
製品資料
[株式会社MatrixFlow] 「物流リソース最適化」ガイド:人員・配車・傭車を出庫依頼の確定前に決めきる -
製品資料
[株式会社キーエンス] なぜRPA導入は頓挫する? シナリオ作成の壁を乗り越える解決策とは -
製品資料
[株式会社セールスフォース・ジャパン] 「CRMは設計と無関係」は本当か? PLMとの融合で実現する高速開発 -
事例
[日本ヒューレット・パッカード合同会社] AIエージェントの時代にどう備える? 「新たな働き手」を支える3要素とは -
製品資料
[日本ヒューレット・パッカード合同会社] “横並びの自動化”から脱却、AI活用で生産性と競争力を高める秘訣
こんなメディアも見られています
TechTargetジャパンに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
ベンダーコンテンツ PR
From Informa TechTarget
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
なぜ「全社配布Copilot」は使われないのか? 失敗に学ぶAI定着
-
2
法務と開発者で「言葉が通じない」問題 トヨタやソニーが語るOSS管理の真実
-
3
なぜ「Gemini 4 Argon」は出遅れたのか? Googleが狙う“逆転のシナリオ”
-
4
損保ジャパンはなぜ「COBOL」を捨てなかったのか? 脱メインフレームの真相
-
5
情シスの約8割が転職や退職を意識 調査で分かった“辞めたくなる最大の理由”
-
6
ChatGPTは“検索しまくり”でGeminiは“淡泊”? データが明かすAIの裏側
-
7
情報漏えいはなぜ繰り返されるのか 今すぐ見直すべき「境界」
-
8
「Wi-Fi 7」経由でWindowsが乗っ取られる? 最高権限奪取の恐怖
-
9
「結局使わなくなる」Microsoft 365 Copilotを半年で定着 キリンの3施策
-
10
「中堅・中小企業のネットワーク・セキュリティ運用実態」に関するアンケート
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
不審メールの経路や見せ方に変化? 2026年夏の3事例から見えた動向と対処方法
-
2
家庭用Wi-Fiルーターの業務利用は危険? 避けるべき理由と具体的な対策
-
3
Microsoft 365を安全に運用 うっかりミスやサイバー攻撃に備えるデータ保護術
-
4
財務部門がAIを最大限に活用する方法 無駄のない戦略的リーダーシップへの道
-
5
LLMが兵器化? 元FBI高官が鳴らす警鐘とセキュリティツール統合のポイント
-
6
「オンプレミス回帰」せざるを得ない“合理的な理由”
-
7
なぜRPA導入は頓挫する? シナリオ作成の壁を乗り越える解決策とは
-
8
生成AIを開発に導入しても効果が見えない? 実証実験で分かった成果と課題
-
9
経産省DX指針から読み解く、受発注業務デジタル化ロードマップ
-
10
HDDを使わない「SSDオンリー」が無謀なのはなぜ?
TechTargetジャパン SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechTargetジャパンをフォロー