“すし職人”の手際よさが欲しかった
野村證券がタブレットにほれ込んだシンプルな理由
営業部門向けに8000台のタブレットを導入した野村證券。その選定には、過去に導入したノートPCが定着しなかった経験が生きている。同社担当者の話をまとめた。
野村證券は、全国177店の本支店などに勤務する営業部門向けにタブレット8000台を導入。併せて、インフォテリアのモバイルコンテンツ管理(MCM)サービス「Handbook」を活用している。ガートナー ジャパンが2013年7月に開催したセキュリティイベント「ガートナー セキュリティ&リスク・マネジメント サミット 2013」で、野村證券 国内IT戦略部長の藤井公房氏が講演。同社がタブレットやHandbookを導入した経緯や具体的なメリットについて語った。その概要を紹介する。
タブレット導入の経緯:22台からスモールスタート
野村證券がタブレット導入プロジェクトを開始したのは2010年4月のことだ。いきなり8000台を導入したのではなく、まずは2010年6月に22台を試験的に導入。検証や効果確認を重ねながら、徐々に導入台数を増やしていった。
野村證券が導入したモバイル端末はタブレットが初めてではなく、営業部門向けにノートPCを導入した実績がある。だが起動に時間がかかる、バッテリー駆動時間が短いといった理由から定着しなかったという。「証券会社の営業部門には、すし職人のような手際のよさが求められる。当時のノートPCは、この点で相性がよくなかった」
素早く起動し、バッテリー駆動時間も比較的長いタブレットは、「営業業務に役立つ」と藤井氏は判断。「検討課題はあるが、まずは何ができるのかを試してみるのが先決だ」と考え、タブレット22台の試験導入を決めたという。
野村證券のタブレット活用で中心的な役割を果たしているのが、Handbookだ。タブレット版のHandbookが発表される前から、スマートフォン版のHandbookを評価利用するなどで使い勝手を評価していた藤井氏。タブレット試験導入と同時の2010年6月に、タブレット版Handbookの試験導入を開始した。
おわびと訂正(2013年7月5日)
掲載当初、タブレット版Handbookの試験導入開始時期を「タブレット試験導入から2カ月後」としていましたが、正しくは「タブレット試験導入と同時」です。併せて、タブレット22台の試験導入時期を「2010年6月」と明記しました。おわびして訂正いたします。
タブレットやHandbookの試験導入後、営業店舗にタブレット導入の有用性についてヒアリングをした。その結果、重視すべき3つのポイントが浮かび上がったという。
藤井氏がこの中で「最大のポイント」だと指摘するのが、顧客とのコミュニケーションだ。例えば、米Googleのオンライン地図「Googleマップ」のストリートビューを見ながら顧客と話をしていると、顧客が保有する土地や不動産について詳細に話してくれるようなこともあったという。「普通に話していてはできないような深い話ができるようになった」
タブレットの有効性を評価した野村證券は、2011年7月に営業店舗へのタブレット試験導入を1000台規模へ拡大。翌年の2012年7月の本格運用開始とともに、8000台の導入を完了した。
タブレットの導入効果:会議資料の印刷時間短縮を重視
2010年9月からは、役員会議などでもタブレットとHandbookを利用している。以前は会議の前日までにプレゼンテーション資料を作成する必要があったが、直前まで資料を作成できるようになるなど、既に成果を上げている。
精細な画面表示が可能なタブレットの導入は、資料の見やすさの向上にもつながった。「コスト削減のために白黒印刷や両面印刷をすると、画像がつぶれて見えにくくなる場合がある。タブレットで表示すれば、非常にきれいな状態で表示できる」。また、資料の拡大縮小が自由にできることも好評だという。
タブレット導入の一般的な目的に、資料電子化によるペーパーレス化の推進がある。野村證券の場合、確かに会議のペーパーレス化は進んだが、ペーパーレス化自体が目的ではなかったという。むしろ重要視したのは、「資料を印刷する時間の削減だった」と藤井氏は明かす。
役員会議の資料は、社内でも限られた人しか閲覧できない機密資料である場合も多い。役員会議出席者は、機密資料の印刷を他の従業員に任せることができない。だが印刷に慣れていないと、「印刷に1時間ぐらいかかってしまう場合もある」。こうしたことから、タブレットとHandbookによる印刷時間の削減効果は「極めて大きい」と藤井氏は語る。
セキュリティ対策:MDMやリモートアクセスで安全性向上
管理性や安全性を高める取り組みも進めている。野村證券は、モバイルデバイス管理(MDM)やリモートアクセス基盤を整備し、タブレットの一元管理やセキュリティ対策を可能にした(図1)。MDMにはソフトバンクテレコムの「ビジネス・コンシェル デバイスマネジメント」を採用し、タブレットをリモート管理している。
タブレットには、キッティング時に証明書をインストールしており、有効な証明書を持つタブレットのみ、VPN経由でLANへ接続できる。インターネットへの接続は社内のプロキシサーバを介する仕組みにしており、「アクセスログの取得など、社内のクライアントPCと同様のセキュリティ対策ができる」。
その他、社内メールやスケジュールの利用は、コネクトワンの認証ゲートウェイ「ConnectONE」を利用して安全性を高めた(ConnectONEについては「Jailbreakも検知、無料で使える業務用ブラウザ『MDM Browser』」も参照)。またセールスフォース・ドットコムの「Chatter」をはじめとするパブリッククラウドサービスは、野村證券のIPアドレスからのアクセスでないと利用できないようにしている。
タブレット導入に込めた思い:「いつでもどこでも」で従業員を前向きに
タブレットは「個」の力を引き出す道具――。藤井氏は、タブレットの導入で得た副次的な効果をこう評価する。「使う人に『何かをやってみよう』という前向きの発想をもたらしてくれるのも、タブレットを導入したメリットだ。従業員がその気になれば、いつでもどこでも仕事ができる」
タブレット活用の効果を引き出す条件とは何か。「『モバイルファースト』の発想を踏まえ、モバイル向けのものをモバイル向けとして作る姿勢が不可欠だ」と藤井氏は強調する。
タブレットは動き回りながら使うのが自然であり、ずっと机の上に置いて使うのであれば、あえてタブレットを使う必要性はない。そのことを意識しないで利用方法を検討したり、アプリケーションを開発したりすると、タブレット本来のメリットが引き出せなくなる。「タブレットは、今あるクライアントPCを置き換えるものではないことを意識すべきだ」
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