デバイス重視のApple、ソフト重視のMicrosoft
「iWork」「OS X」無償化でMicrosoftを揺さぶるAppleの打算
米Appleが踏み切った「OS X Mavericks」「iWork」「iLife」の無償化は、米Microsoftの組織体制や注力製品の現状をにらんだ戦略との見方がある。両社の思惑はいかに?
米Appleは2013年10月22日(米国時間)、新OSとなる「OS X Mavericks」の他、オフィススイート「iWork」とクリエイティビティスイート「iLife」を無償で提供すると発表し、米Microsoftに攻勢を仕掛けた。
Appleのデバイスの大半は、依然としてMicrosoftの「Surface 2」より価格が高いものの、「iPad」の最新機種にはSurface 2より若干高いだけのモデルも含まれている。
OS X Mavericksは、2007年以降に発売されたMacを対象に無料アップデートとして提供され、iWorkとiLifeはMacやiOS搭載端末の新規購入者に無償で提供される。Appleはさらに、「iPad Air」と「iPad mini Retinaディスプレイモデル」の他、デスクトップ型Mac「Mac Pro」の最新機種と、米IntelのHaswellアーキテクチャのプロセッサを搭載する最新のノート型Mac「MacBook Pro Retinaディスプレイモデル」を発表した。
「Microsoftは目下、変革の只中にある。“死に体化”した経営陣の下、社内は混乱状態にあるように見受けられる。Appleはその機に乗じて、Microsoftの核心となる部分を徹底攻撃している」。こう話すのは、米ITモバイルコンサルティング会社Sepharim GroupのCEO兼チーフアナリスト、ボブ・イーガン氏だ。
主要ベンダーの間では近年、企業ユーザーにリーチを広げ、プライベートと仕事の両方で同じユーザーエクスペリエンスを提供できるよう、ソフトウェアとハードウェア、サービスをまとめた提供を目指した動きが広がっている。ソフトウェアを無償化するというAppleの戦略も、こうした傾向を反映したものだ。
「一般ユーザーが家庭でのユーザーエクスペリエンスを職場でも再現できるよう支援するのが、ITコンシューマライゼーションに付随する流れの1つであることには疑問の余地がない」と、イーガン氏は語る。
業界観測筋によれば、Appleのソフトウェア無償化は、Microsoftにより大きなプレッシャーを与え、より多くのユーザーをAppleのエコシステムに呼び寄せることになるという。
米ITコンサルティング会社High Rock Strategyの創業者で主任アナリストのクリス・シルバ氏は、次のように指摘する。「Mavericks無償化の発表は、大きな波紋を呼んでいる。Microsoftにとってデバイスは第2の焦点であり、一番の関心はあくまでソフトウェア販売にある。Microsoftは、引き続きマルチデバイスエコシステムの売り込みに苦労することになりそうだ」
一方、Appleが継続的に取り組んでいるのは、デバイスの機能強化およびデバイス同士を相互接続させるサービスの強化だ。
「より多くのサービスを拡充し、こうしたサービスをより多くのデバイスに開放すればするほど、ユーザーがAppleのエコシステムにより深く関与する可能性も高まる」と、シルバ氏は続ける。
実際、Microsoftの「Windows 8.1」は既にWindows 8を使用しているユーザーには無償で提供されるが、新規に購入する場合の価格は、Windows 8.1が119ドル99セント(日本での価格は1万4490円)、Windows 8.1 Proが199ドル99セント(同2万7090円)となっている。
「iWork」対「Office 365」
さらにAppleは、新規購入の全てのMacとiOS搭載端末でiWorkを無償提供し、Microsoftのサブスクリプション型オンラインオフィススイート「Office 365」に真っ向から勝負を挑む。現在、iPhone版Office「Office Mobile for Office 365 subscribers」を利用するには、Office 365への加入が必要だ(参考:ついに登場したiOS版Office、Microsoftの真意は)。
Office 365の価格は、個人向けエディションの「Home Premium」が年額99ドルから(日本では未提供)。企業向けには、1ユーザー当たり月額5ドル(執筆時点の日本での価格は490円)のプラン「Small Business」から、1ユーザー当たり月額20ドル(同1800円)のプラン「Enterprise E3」まで、複数のプランを用意している。
Microsoft Officeは市場に深く根付いており、Appleが近い将来、それに取って代われることはなさそうだ。ただし、「iWorkは十分に優れたスイートであり、たとえ業界標準であるMicrosoftのOfficeに完全に取って代わることはないとしても、iWorkが提供するモバイルエクスペリエンスはいずれiOS版Officeの存在を無意味なものにするかもしれない」と、前出のシルバ氏は指摘する。
Microsoft OfficeとOffice 365は企業向けオフィススイートの代表格とみられているが、市場には、代替となるスイート製品がデスクトップ向けにもモバイル向けにも数多く投入されている。一方、Appleが「Microsoft Officeに取って代わる」という目標を達成するのは、とりわけエンタープライズ市場においては難しそうだ。何しろ、Office 365は年間の予測売上高が15億ドルとみられており、利用する企業は増加の一途をたどっている。
iWorkの無償提供を受けてMicrosoftが発表したコメントからは、相当ないら立ちが感じられる。
「低迷している軽量プロダクティビティスイートをAppleが無料にしたのは、当社に対する威嚇射撃ではなく、巻き返しを図るための動きだ」と、Microsoftのコミュニケーション担当副社長、フランク・ショウ氏はブログ投稿でコメントしている。
前出Sepharim Groupのイーガン氏は、「iWorkを利用するようユーザーを納得させるのは、Appleにとって極めて難題となりそうだ」と指摘する。
「実際、Microsoft Officeは全機能の70%がさまざまなユースケースで支持されている。iWorkは、これまで機能セットが不十分だったこともまた事実だ。Appleは確かに機能強化を図っている。だがユーザーに新しいツールの使い方を覚えてもらう必要があるという側面を見くびるべきではない。Appleにとってはその点が依然として難題だ」と、イーガン氏は続ける。
「iPad」対「Microsoft Surface」
Appleはソフトウェアを無償化する一方で、ハードウェアについては依然として割高な価格設定を維持している。ただし、AppleのデバイスのうちMicrosoftのデバイスよりも高いのは一部だけで、「Surface Pro 2」と比べれば、安価なモデルもある。
Appleは長らく待たれてきたiPad AirとiPad mini Retinaディスプレイモデルを2013年10月22日に発表したが、同じ週には、他にもタブレット新製品が各種発表された。Microsoftは新しい「Surface 2」と「Surface Pro 2」の出荷を開始し、フィンランドのNokiaは同社としては初めてのタブレットとなる、Windows RTを搭載する端末を発表している(参考:「Surface競合タブレット」をNokiaが発表、買収するMicrosoftの胸中は)。
iPad Airは薄くて軽い改良版であり、重さはわずか469グラムで、従来機種よりも高速な64ビット対応のプロセッサ「A7」とモーションコプロセッサ「M7」、9.7インチの「Retinaディスプレイ」を搭載し、バッテリー駆動時間は10時間、Wi-Fiのパフォーマンスも大幅に向上している。価格は、Wi-Fi版の16Gバイトモデルが499ドル(日本での定価は5万1800円)、32Gバイトモデルが599ドル(6万1800円)、64Gバイトモデルが699ドル(同7万1800円)。LTEとWi-Fiの両方に対応する128Gバイトのハイエンドモデルは929ドル(同8万1800円)だ。
一方、Surface 2はWi-Fiのみ対応の32Gバイトモデルが449ドル(執筆時点の日本での定価は4万4800円)とiPad Airよりも安く、Surface Pro 2は64Gバイトモデルが899ドル(日本未発売)、128Gバイトモデルが999ドル(同9万9800円)、256Gバイトモデルが1299ドル(同12万9800円)だ。Surface Pro 2もネットワークはWi-Fiにのみ対応となる。
長らく待ち望まれていたiPad miniのRetinaディスプレイモデルは、従来機種よりも若干重いが、64ビットのA7とM7へアップグレードされ、3倍ビデオズームを搭載し、Wi-Fi接続も改善されている。価格は、最も安いWi-Fi版の16Gバイトモデルが399ドル(同4万1900円)、最も高いLTE対応版の128Gバイトモデルが829ドル(同8万5800円)となっている。
従来モデルの「iPad 2」と「iPad mini」の販売を継続するというAppleの方針については、その真意をめぐり、アナリストの間でさまざまな臆測が飛び交っている。16GバイトモデルのiPad miniが299ドル(同3万1800円)、iPad 2が399ドル(同3万9800円)と、価格が依然高いためだ。
アナリストによれば、この価格設定が物語っているのは、「ハイエンドタブレット市場に特化した戦略をとりつつも、ローエンド市場向けの廉価版として従来機種を残しておく」というAppleの戦略だという。
「Appleが低価格のAndroidデバイスから市場シェアを取り戻そうとしているわけではないことは、明らかだ」と、前出High Rock Strategyのシルバ氏は語る。
さらにAppleは、新たに「MacBook Pro」の13インチと15インチのRetinaディスプレイ搭載モデルを発表した。いずれもIntelのHaswellアーキテクチャのプロセッサを搭載し、価格は128GバイトのSSDを搭載する13インチモデルの最低1299ドル(同13万4800円)から、15インチモデルの最高2599ドル(同26万4800円)までとなっている。
なお、Appleのデスクトップ型コンピュータ「Mac Pro」の新型は2013年12月に発売される。価格は2999ドル(同31万8800円)からだ。
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