顧客体験の個別化が進む小売業界
eコマースの将来を握る技術要素とは
eコマースに関連する機能や技術は急速に進化している。モバイルや位置情報、ソーシャルネットワークなどをうまく活用することで、ターゲットを細かく絞った顧客体験を提供し、新たな商機を生み出すことができる。
Webは既に消費者の生活に深く入り込んでおり、今後も浸透が進んでいく――。ホリデーショッピングシーズンにおける消費者の購買行動からも明らかだ。
米国では、年末商戦期の初日とされるブラックフライデー(11月第4木曜日に当たる「感謝祭」の翌日)のモバイル端末による売り上げが急増している。繁華街に軒を連ねる小売店や量販店が追い込みを掛けている一方で、eコマースサイトではアクセス数も売り上げも急激に伸ばしているのだ。
われわれは現在、非常に変化の激しい時代に生きている。顧客の期待は変化し、eコマースに関連する機能やテクノロジーは急速に進化を続けている。
モバイルやアプリなど、マルチチャネルでの対応が優先事項
モバイルコマース、アプリストア、マルチチャネルでの受発注管理、Facebookへの通販機能の組み込みなどは、ほんの数年前まで、まだ遠い話だと思われていた。こうした取り組みは今や、eコマースの担当責任者にとって優先事項となっている。消費者や顧客の期待・ニーズは絶えず変化し、市場競争も激化していることから、適切なテクノロジーと運用方法を選定することが経営幹部の課題である。
昨今、インターネットへのアクセスがますます容易になり、利用できるテクノロジーも多岐にわたる。そんな中で、消費者は便利で、選択肢が多く、バラエティに富んだ購買体験を求めている。企業は、オンラインチャネルへの投資に注力しなければ、競合に後れを取ることにもなりかねない。一方で、(PCの)Webブラウザだけでなく、iPhoneやAndroid搭載端末など、スマートフォンのモバイルWebブラウザやアプリに対応したeコマースサイトが増えている。(PCの)Webブラウザは、ブランド企業、小売業者、製造企業、流通業者が、顧客との取引を最大化するための、数ある(顧客)接点の1つにすぎないのだ。
現在のインターネットは、事実上、「スプリンターネット」(分断されたインターネット)になっている。eコマースチームがWebサイトの構築のみに専念すればよい時代は終わった。消費者のタッチポイントがますます複雑になる中で、消費者との接点を効率的かつ広範囲で運用するために必要な基盤システムとプラットフォームを用意する必要がある。eコマース担当幹部は、実に負担の大きな仕事を背負わなければならない。
彼らがこれまで気を配っていたのは、各種Webブラウザ向けにWebサイトを最適化することだった。だが現在は、モバイルブラウザ、モバイルアプリケーション、位置情報ベースのマーケティング、価値の高いインターネット用アプリケーションの他、マーケットプレースやソーシャルネットワークとの連係を考慮する必要がある。こうした顧客接点の多くには、固有の開発言語、開発手法の他、各ユーザーに個別のアカウントを用意するなど、カスタム統合を影で支えるユーザーエクスペリエンス(体験)関連のベストプラクティスが盛り込まれている。
インターネットには、こういった独自のプラットフォームに分散している。eビジネス担当幹部は、この雑多な様相に屈することなく、これらの環境を駆使し、それぞれ状況に応じて顧客とつながる必要がある。
これはオンライン以外にも当てはまる。既にコールセンターアプリケーションや店頭のキオスク端末が、eコマースシステムと連動して運用されている。将来的には、店頭や顧客に対応するダイレクトセールスの担当者が、iPadなどのタブレットからeコマース対応アプリケーションを使うようになるだろう。eコマースシステムと連係したシンクライアントインタフェースが、POS(販売時点情報管理)システムに取って代わるようになるかもしれない。
新たな顧客体験が商機を生み出す
日本の「Suica」カードなどRFID(無線自動識別)を利用したプリペイド式ICカードや、NFC(近距離無線通信)機能搭載の携帯電話、QRコードや「Microsoft Tag」などのスマートタグといった技術も見逃せない。マーケティングとコマースの両面において、オフラインの世界(カタログや雑誌、広告や看板など)への応用が進むだろう。また、インターネットに接続されるモノが増えるにつれて、位置情報ベースのマーケティングを使った車内でのWebナビゲーションや、Webに接続する家電製品といった新たな顧客体験が商機を生み出すはずだ。
消費者は将来、店舗内に設置されたビーコンと連動するモバイルアプリケーションのダウンロードを勧められるようになるだろう。これらのアプリケーションは、店内での消費者の位置を感知し、クロスチャネルの購入履歴や閲覧履歴、ショッピングリスト、ソーシャルネットワーク、マーケティングへの反応に応じてターゲットマーケティングを仕掛ける手段になる。
ターゲットを細かく絞ってパーソナライズしたクーポンや特典、特別価格を提供可能になる他、前回の購買記録を基に、顧客を目的の商品の位置に案内し、素早いサービスを提供できるようになる。顧客のメリットだけでなく、小売店やブランド企業は、より効果的なターゲットマーケティングを実施することで利益を享受できる。
複雑さを増す物流とサプライチェーン
物流とサプライチェーンの複雑な構図は変わり続けている。顧客との接点を集約して需要を引き付け、自社の倉庫や店舗にある在庫をドロップシップ業者(仲介業者を通さずに商品を配送する業者)、サードパーティーの物流業者、受注生産を組み合わせたマルチノードの物流を採用する企業が増えているからだ。これには、在庫、受発注、取引データを効果的に管理するための強力なコアテクノロジーが必要になる。
顧客には低価格と豊富な商品の選択肢というメリット、小売店には在庫維持費の削減というメリットがもたらされるが、メーカー、ブランド企業、流通業者にますますコストの負担が移るという図式になっている。
ブライアン・K・ウォーカー氏は、米Forrester Researchのプリンシパルアナリスト
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