アナリティクスで価格競争以外の道を切り開く
ポイントカードはもう古い? ソーシャル時代の小売業“サバイバル術”
消費者はかつてないほど多くの情報を手にしている。口コミ情報などが飛び交うソーシャルメディアも存在感を増している。流通・小売業は今、こうした流れにどう向き合えばいいのだろうか。
インターネットから手に入る豊富な情報のおかげで、消費者がこれほどまで情報武装できる時代はない。オンラインレビューや最安値のショップが見つかるWebサイトだけでなく、ソーシャルメディアサイト、ニュースグループ、ブログなどのソースから、商品についてありとあらゆる情報が手に入る。
小売業者は、ロイヤルティーカードプログラム(会員制のポイントカードプログラム)や高度なCRMシステムを通じて、顧客についての理解を深めようと膨大な時間を費やしてきた。しかし、現在、ロイヤルティーカードやCRMは、ソーシャルメディアからの圧力にさらされている。
World Wide Webの生みの親であるティム・バーナーズ・リー氏はかつて、Webにとって最大の脅威の1つとして米Facebookの名を挙げた。同社は、小売業者の従来のロイヤルティーカードプログラムを脅かす存在にもなり得る。Facebookの登場で、小売業者は、位置情報に基づいたプロモーションを顧客に提供できるようになった。
英調査会社Quocircaの主席アナリスト、ロブ・バムフォース氏は、「(Facebookなどのソーシャルネットワークが)物理的なロイヤルティーカードシステムに与える影響は、オンラインコマースがハイストリート(※)コマースに与えた影響に似ている」と述べる。
(※ハイストリート:特に英国で、大手小売チェーンの店舗が多数並ぶ都市部の目抜き通り)
ソーシャルネットワークはロイヤルティーカードシステムの敵?
しかし、ソーシャルネットワークとモバイルを通じたプロモーションは、既存のロイヤルティーカードシステムを変容させ、小売業者が顧客情報を集める方法を変えるのだろうか?
ファストフードチェーンなら米Chipotleや米McDonald's、小売店なら米Macy'sや米Gapなどの米大企業は、いずれもFacebookを利用してプロモーションを展開していることを踏まえると、Facebookは一部のロイヤルティーカードプログラムをオンラインの世界に引き込む可能性がある。米調査会社Gartnerのリサーチ担当副社長、ハン・ルホン氏は、「この種のサービスは、(情報の)パーソナライズと配信の在り方を次のレベルに引き上げた。取引(客の購買)を促す“呼び水”になるだけでなく、状況に応じた情報も加味できる」と語る。
ルホン氏は、位置情報に基づくプロモーション情報は友人に伝わる可能性があり、小売業者の商機が広がると見ている。「消費者の居場所に関連したプロモーションを提供できるだけでなく、ソーシャルネットワークの機能を生かしてプロモーション情報を友人にも“口コミ”で伝えられる。結果として、新たな領域に従来のCRMプロモーションを届けられる」
では、小売業者には、ハイストリートショップやeコマースショップに消費者を引き付けるための新しいアプローチが必要になるのか?
英国小売業協会の広報、リチャード・ドッド氏は、その考えには懐疑的だ。同氏は、従来のロイヤルティーカードシステムは小売業界において不動の地位を確立しているため、ソーシャルネットワークに新しいアプリケーションが登場しても、影響を受けないだろうとみている。
「ロイヤルティーカードは、小売業界内に強く根付いている。Facebookに依存する戦略が、従来のロイヤルティーポイントシステムに取って代わるとは思えないが、小売業の顧客基盤の新たな領域を開拓する有用な追加ツールになる可能性はある」と、ドット氏は語る。
データストレージ
新しいオンラインチャネルを採用することは、小売業者の顧客情報データウェアハウスにとっても有益だ。
小売業のコンサルティング企業、英Martec Internationalのマネージングディレクター、ブライアン・ヒューム氏によると、英ショッピングチェーンのTescoがロイヤルティープログラム「Clubcard」を導入した当時、経費を掛けてデータを収集しなければならなかった。ヒューム氏は、「eコマースでは、顧客は自発的に氏名や住所などの個人情報を提供してくれる。
同氏はまた、「企業は今や、顧客についての詳細なデータを無償で手に入れられる」とした上で、次のように続けた。「現時点では、ソーシャルネットワークとロイヤルティーカード間の連携についてはあまり耳にしていない」
ヒューム氏は、ロイヤルティーカードのデータを会社のプライベートWebサイトに使っている企業の例として、米国のアパレルブランドTory Burchを挙げた。ヒューム氏によると、「Tory Burchは、得意客に同社のWebサイトのセキュアなエリアへのオンラインアクセスを提供している。顧客はそこで商品化候補のデザインを見ることができる」という。
会社やブランド、商品のプロモーション目的でFacebookのページを開設している小売業者は増えている。「今のところ、ポイントカードとの連携にまで踏み込んでいる企業を私は知らないが、程なくそうなるのは避けられない」とヒューム氏は話す。
価格以外の競争の道を開く
オンラインショッピングの隆盛にもかかわらず、ロイヤルティープログラムの原則を変えるような影響はほとんど見られないと語るのは、小売業専門のアナリスト、ロン・マーグリス氏だ。オンラインショッピングで最も重視されるのは、依然として、価格上のメリット、利用者に優越感を与えるサービス、ユーザーの好みに合う品ぞろえだとマーグリス氏は指摘する。
しかし、マーグリス氏は、商用のロイヤルティープログラムの性質は変わってきていると見ている。クレジットカードの米Diners Clubが登場した当時は、顧客に会員限定の特典を提供することが重要だった。今は値引きが重要だ。「しかし、値引きは顧客を引き付け、維持するよい方法ではない」とマーグリス氏は言う。
米Walmart、米Target、米Toys"R"Usのような米大型小売店が(価格設定を主導する)プライスリーダーになって以来、各種プログラムは、少なくとも部分的にはプライスリーダーに歩調を合わせた価格を提供するように考えられていると、マーグリス氏は説明する。また、「サービス業や金融業にも、同様のシナリオが見られる」という。「プライスリーダーではない企業が気付いたのは、アナリティクスを活用して、価格以外の領域、つまり、サービスや品ぞろえなどで競争する道を切り開けるということだった」(同氏)
また、マーグリス氏は、年会費79ドルで配送料が無料になる米Amazonのプライム会員プログラムを引き合いに出し、「ロイヤルティープログラムに関していえば、このAmazonのプログラムは非常に強力だ」と語る。
「Amazonにはレコメンデーション機能、記念日のお知らせやプレゼントのヒントを提示する機能、ワンクリックでの購入機能もあり、ユーザーの利便性にとことんこだわっている」
さらに何か工夫ができるだろうか? マーグリス氏はかつて、世界的なホテルチェーン英InterContinental Hotels Groupの責任者に、ロイヤルティープログラムに望むことは何かを尋ねたことがある。「全ユーザーのWebブラウザに“Intercontinental”タブが表示されるようにして欲しい」という答えが返ってきた。
いずれそうしたことも一般的になるだろう。「買い物客の携帯電話に自社専用のタブを表示するなど、モバイル端末での固定表示は非常に重要になるが、本格化するのはまだ先で、今のところはノートPCでの課題だ」とマーグリス氏は語る。
英国のロイヤルティーカードプログラム「Nectar」カードを運営している英Aimiaのオペレーションデジタルディレクター、ロジャー・スニーゼク氏は、モバイルは重要だとする。
「今重要なのは、モバイルだ。弊社ではNectarとSainsbury's(英スーパーマーケットチェーン)用のiPhoneアプリケーションをリリースした」とスニーゼク氏は語る。「モバイルは常にユーザーのそばにある。メールで届いたお得情報はすぐに忘れてしまうが、モバイルはいつも手元にあるので、モバイルでお得情報を受け取れるようにした。顧客の反応は上々で、アプリのダウンロード数も多い。このアプリのおかげで、業績も徐々に向上しているし、メーカーにも少しずつ良い影響が出始めている」(スニーゼク氏)
磁気ストライプカード、オンラインショッピングポータル、NectarのネットショップモールとiPhoneアプリをそろえたAimiaでは、現在、NFC(近距離無線通信)など、新しいテクノロジーの利用を検討しているとスニーゼク氏は明かす。
ただし、磁気ストライプのロイヤルティーカードが、ソーシャルネットワークやeコマースなどのチャネルに取って代わられることは、当面はないだろう。小売業者のロイヤルティープログラムの原則は変わらないが、新しいテクノロジーを導入するということは、同時に、豊富な顧客データをサポートして顧客にお得な情報を提供し、オンライン、店頭、モバイルフォンでの顧客の購買情報をビジネス情報に変えるためのインフラが必要になるということだ。
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