徹底入門:モノのインターネット(IoT)で変わるICTの世界観【第2回】
データの海に溺れない IoT時代に求められるビッグデータ活用の在り方
「モノのインターネット」(IoT)が浸透することで、ビッグデータの本格的な活用が始まる。IoT時代には、どういったデータ分析やアナリティクスが求められるのか。また、増大するリスクを考慮する必要がある。
これまでの連載
第1回(モノが自律する時代はすぐそこ? IoTの可能性を探る)では、「モノのインターネット」(Internet of Things:IoT)の概要について考察した。
第2回では、IoTの浸透で期待される、ビッグデータの本格的な活用について考察する。データ分析によるパターンの発見、あるいは将来予測、最適化などを行うアナリティクスとIoTが融合することによって、どういったことが実現可能なのか、また、それに伴って増大するリスクとその対応の方向性についても触れる。
1.本格的なビッグデータ時代の到来
IDC Japanによれば、日本のビジネスアナリティクス市場は、2017年には1兆1400億円に達するとされている《※1》。さらに、ビッグデータ市場がビジネスアナリティクス市場に占める割合は、2012年の2.3%から2017年には8.9%に拡大すると予測されている 。
これまでのビッグデータは、主として企業活動や一般生活で人が意識的に生み出すデータだった。近年注目されるのは、モバイル端末が生み出す利用履歴や、機械のセンサーから発生するデータなど、主として機械的に生成されるデータだ。これらのデータがインターネットでつながることによって、生成・拡散されるデータ量が爆発的に増大する。本格的なビッグデータ時代の到来といえる。その入り口に足を踏み入れた今、重要なのはいかにして、この「データの海」から有益な情報を抽出し、課題解決に活用するかである。
2.IoT時代のアナリティクス
アナリティクスは、データに基づいて事象を分析し、将来に何が起きるかを予測、意思決定を支援するために活用されることが多い。世界の有力企業に対するデロイトの調査「デロイト グローバル アナリティクス サーベイ」においても、アナリティクスが最も効果を発揮する局面として挙げられたのは、意思決定能力の向上(回答者の49%)だった(図1)《※2》。
現在、アナリティクスが活用される場面は多岐にわたる。例えば、小売店のPOSデータからキャンペーンに反応しやすい人の特徴や規則性を抽出して、ターゲティングを行うことで収益向上を図るといった顧客分析、過去の売り上げの時系列データから長期のトレンド、季節性、気温や販売促進施策の効果を分離して、近い将来の売り上げ予測を行う財務分析、また企業の仕入れや販売取引において架空売り上げなど不正と疑わしい取引を抽出し警告するリスク分析などで使われている。
IoT時代となり、モノから生成されるデータが分析対象に加わるからといって、アナリティクスの目的や方法が大きく変わるものではない。しかし、従来は取得できなかった多様なセンサーデータや、個人の生活に密着したモバイル端末からのデータを組み合わせて分析することによって、これまで把握できなかった事象を捉えたり、新たな洞察を生むことが期待できる。例えば、保険会社では、ブレーキの踏み具合など自動車の運転状況をセンサーで監視、事故確率を算出することで、保険料を設定している。今後のさらなる取り組みが期待されている。
個別企業の課題解決はもちろんのこと、多様な利害関係者が存在する社会的課題(エネルギー・環境・食料・医療・犯罪など)に対して、俯瞰的で全体最適の視点からデータ活用が行える可能性も高まるだろう。
ある自治体が構想する実証実験を例に見てみよう。この自治体では、モバイル端末、自動車のセンサー、病院の予約システム、ビルのエネルギー管理システムなどからのデータと、民間企業の情報などを収集・分析している。そのデータや情報を活用し、災害時の避難誘導、交通渋滞の抑制、医療費の削減、エネルギー・環境負荷の低減、民間企業との連係による経済効果と地域活性化を目指す。さらに、個別の状況に応じてパーソナライズされた情報を自治体から住民に提供する(図2)。
従来のアナリティクスでは、人が意思決定を行う際に、データ分析結果に基づいて考察することが多かった。IoT時代では、機械が最適な選択肢を導き出すような場面も増えるだろう。機械が自身でメンテナンスの時期を予測して通知したり、金融市場において統計的裁定取引を実行する「アルゴリズムトレード」などがその例となる。
3.IoTにより増大するリスク
IoT時代に増大が予想されるリスクは多岐にわたる。その中でも、特に大きな問題となるのが、セキュリティとプライバシーではないだろうか。
まず、IoTがもたらすセキュリティ面への変化には、次の3つが挙げられる。(1)従来、オフライン状態にあったモノがインターネット接続することで、ウイルスの侵入経路やサイバー攻撃の対象になり得る。(2)インターネットに接続するモノが増えるほど、セキュリティ対策が複雑化し、対応コストと難易度が上がる。(3)インシデント発生時に流出する情報量が増加する。
これらの問題に対応する革新的な方法を生み出すのは難しい。留意すべきは、デバイス単位や攻撃の種類など、個別の対応に捉われ、全体的な視点を見失わないようにすることである。そのためには、管理すべきデータの範囲やその価値を適切に把握し、日々変化する脅威を評価しつつ、全体視点で対応を設計・運用できる体制構築が肝要である。強固なセキュリティ管理体制と着実な運用体制の整備が、以前にも増して重要になると考えられる。
プライバシーの観点においては、パーソナルデータの活用と個人情報・プライバシー保護を両立すべく、制度設計と技術対応の両面から検討が始まっている。適切なデータ利用のために、制度や指針などの状況を注視していく必要があるだろう。
2013年12月には、内閣官房のIT総合戦略本部により「パーソナルデータの利活用に関する制度見直し方針」が決定され、ルールの明確化と制度の見直しに向けた動きが本格化している。関連するガイドラインなども活用することで、社会に受け入れられるビジネス開発が重要となる。ビジネス設計から運用に至るまで、ライフサイクル全体でプライバシーを考慮することが期待される。
4.終わりに
モノ同士がインターネットでつながるようになれば、利用可能なデータの量や種類は飛躍的に増加する。
社会基盤の充実や企業サービスの向上は、IoTの活用が期待される部分である。だが、データの量や種類が増えたとしても、データ活用のアプローチ自体が大きく変わるわけではない。解決すべき課題を明確にし、「対象となるデータをどのように取得・分析するか」「その結果から得られる効果は何か」を事前によく検討することが重要だといえる。
目的に沿ってデータの定義から収集、分析、活用までを設計しないと、期待する効果が得られないばかりか、結果として企業の競争力低下やビジネスチャンスを逃すことにもなりかねない。慎重で十分な議論を行った上で実効的な計画を策定し、有効なIoTの活用基盤を整備していく必要がある。
当該記事は執筆者の私見であり、有限責任監査法人トーマツの公式見解ではない。
※1 IDC Japan「国内ビッグデータにおけるビッグデータ市場予測を発表」(2014年1月)を参考とした
http://www.idcjapan.co.jp/Press/Current/20140123Apr.html
※2 Deloitteの「グローバル アナリティクス サーベイ」
http://www.tohmatsu.com/jp/da/
神津 友武(こうづ・ともたけ)
有限責任監査法人トーマツ シニアマネジャー。早稲田大学大学院理工学研究科物理学及応用物理学修了。デロイトアナリティクスの研究開発部門をリードし、データ分析を活用したコンサルティング業務に従事。
数原 麻衣(すはら・まい)
有限責任監査法人トーマツ。慶應義塾大学総合政策学部卒業。日系シンクタンク勤務を経て現職。現在はデロイトアナリティクスのサービス推進、およびグローバル企業の監査に従事。
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