「for BUSINESS」のススメ
「Dropbox」「Evernote」の業務導入、IT部門が真剣に考えるべき“真っ当なプロセス”
「BYOD」から「BYOA」へ。従業員が使い慣れたアプリを業務でも利用してもらうため、ビジネス版の導入を検討してみてはどうだろうか?
個人で所有するスマートフォンなどの端末の業務利用を許可する「BYOD」は、採用率はともかく、コンセプト自体はすっかり浸透した感がある。だがBYODをルール化できないまま、IT部門の目が届かないところで個人所有端末が勝手に利用されることも多く、これが「シャドーIT」として、多くの企業でIT担当者の頭痛の種になっている。
一方で、個人所有端末の業務利用を認めない企業の割合は低下しつつあるというデータもある。IDC Japanが2014年5月に発表した「国内クライアント仮想化市場 ユーザー動向分析調査」の結果を見ると、2014年3月の段階で、BYODとシャドーITを合算した導入率はスマートフォン42.3%、タブレット30.5%などとなっている。これは2013年と比較して増加傾向にあり、一方で「個人所有端末の業務利用は認めない」と回答した割合は2013年よりも2014年の方が低くなっているという。
使い慣れたアプリが使えてこそ意味がある
企業がBYODを受け入れる背景には、デスクトップ仮想化やモバイルデバイス管理(MDM)などの利用が浸透し、端末の管理や機能制限の実施などが容易になってきたという事情もあるだろう。だが従業員としては、使い慣れたアプリを用いて普段通りに使えてこそ、BYODの意味があると感じるのではないだろうか。
会議のメモやスマートフォンのカメラで撮影したホワイトボードの写真を「Evernote」で管理する。社外関係者とのデータの受け渡しに「Dropbox」や「宅ふぁいる便」を使う。ミーティングを「Skype」で済ませる。こうしたコンシューマー向けアプリの利用がオフィスからなくならない理由は明白だ。従業員にとっては、使い慣れたツールを活用するのが最も楽で業務の効率も上がるからだ。
一方で、IT担当者からすれば、業務データが目の届かない社外に蓄積され、誰に共有されたかも分からない状況は看過できない。そこで、IT部門が認めていないアプリやサービスの利用について社内ルールを策定したり、MDMでアプリのインストールや起動に制限を掛けることになる。
しかし、コンシューマー向けアプリの利用を単純に否定するのも考えものだ。使い慣れた個人所有の端末を業務に持ち込むことを許すなら、使い慣れたアプリの利用も認めるべきではないか。つまりは「BYOA(Bring Your Own Apps)」である。
「for Business」のススメ
もちろん、無条件にBYOAを許していいというわけではない。従業員が使いたいアプリを利用させるにしても、IT部門で利用状況やデータの流れを把握し、必要に応じて制限を掛けるなど、きちんと管理できることが望ましいのは言うまでもない。
コンシューマー向けアプリを提供するベンダーの側でも、当然のことながらこうしたニーズは把握している。そこで最近では、コンシューマー向けで人気のアプリの多くで、「ビジネス版」「エンタープライズ版」といった形で、企業導入に適したバージョンが充実しつつあるのだ。
例えばDropbox。ユーザー数は3億人以上に上る、大きなファイルの共有には欠かせないおなじみのこのツールも、2014年4月より企業向けサービスとして「Dropbox for Business」を開始している。現在では世界中の8万社以上の企業がこれを利用しているという。
Dropbox for Businessの大きな特徴が、専用のツールを使った高度な管理機能だ。管理者は監査ログ機能により共有されたファイルの操作履歴を見ることができる。誰がどのファイルにどのような変更を加え、いつコピーしたかといった情報がガラス張りになるわけだ。また、機密性の高いファイルについてはアクセス制限を掛けたり、デバイスを紛失した場合に遠隔削除でデータを保護することなども可能だ。
従業員は個人用アカウントとビジネス用アカウントを同じ端末で同時に利用できるが、双方のファイルの格納場所は明確に区別している。必要なファイルに簡単にアクセスでき、プライバシーも守られるため、従業員は利便性を損なうことなく、安心して使えるというわけだ。また、シングルサインオン(SSO)や2段階認証といった機能も用意し、セキュリティへの不安を払拭している。
シャドーITが話題になるとき、Dropboxと同じくらいよく名前が挙がるのがEvernoteだ。「デジタルのワークスペース」をうたい、あらゆる情報をクラウドに集約する情報整理ツールとして、世界で1億人を超えるユーザーを擁する大人気のアプリだ。こちらも2012年12月より法人向けに「Evernote Business」を提供している。
Evernote Businessのアカウントを付与された従業員は、同じアプリで個人用のアカウントを利用しながら、その上で、隔離された専用の領域で仕事用のファイルを社内の他のメンバーと共有できるようなる。
Evernote Businessでもまた、専用の管理コンソールを用意する。管理者はこれを使ってユーザーの追加や削除が簡単にできる。従業員は、退職などの理由でアカウントを削除されると、個人用の領域に保存したファイルはそれまで通り利用できるが、一方で仕事用の領域に保存したファイルへはアクセスできなくなる。
今後は、ディレクトリサービスとの連係も予定しているという。現在Active DirectoryやLDAPなどを運用していれば、管理者はそこにEvernote Businessを接続して、ディレクトリサービスに登録済みのユーザーをアカウントへ招待したり、退職に伴ってアカウントを自動的に削除することもできるようになるだろう。
Evernote Businessは既に世界で1万6000社以上が導入し、日本においても中堅・中小企業を中心に利用が広がっている。
いつものツールに管理者機能
コンシューマー向けアプリに企業向けバージョンがあるとき、それを導入していいかどうか見極めるポイントの1つになるのが、管理機能の有無だろう。利用できるデータ容量が大きいといったスペック面でのアップグレードだけでなく、ユーザー管理やデータの共有/送受信の管理といった機能があれば、従業員の使いたいものをIT担当者が拒む理由は少なくなる。
アプリの内容自体は同じであり、ユーザーインタフェース(UI)にもあまり大きな変化は生じないのだから、もともと個人的に使っていたユーザーにとっては、わざわざ使い方を習得する必要がない。これは企業側にとっては教育コストの削減を意味するといえる。
運用ポリシーに合意できてさえいれば、従業員側が企業向けバージョンの利用に抵抗感を示すことはないだろう。同じ作業をするにしても使い慣れたツールの方が生産性が高まるし、チーム単位の情報共有などがしやすくなる分、単にコンシューマー向けアプリの利用を認めるより、企業として正式に企業向けバージョンを導入した方が、むしろ歓迎されるかもしれない。
IT部門が許可しようとしまいと、従業員は使いたいアプリを使って仕事をする。
Dropboxを提供する米Dropboxは2014年11月に米Microsoftと提携し、「Microsoft Office」からDropboxにあるOfficeファイルを直接編集できるようにしたが、Dropboxに存在するOfficeドキュメント、スプレッドシート、プレゼンテーションのファイルは既に350億件に上るという。もはや「どうすれば使わせないことができるか」を考えるより「どうすれば使わせても大丈夫か」を考えなければいけないのは明白だ。
BYOAで使われるアプリには、ファイル共有から文書管理、コミュニケーションなどさまざまな種類がある。次回は個別の製品を取り上げて、そのビジネス版の実力がどれほどのものであるか、具体的に紹介していく。
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