「AWS Summit Tokyo 2016」レポート
内製によるAWS全面移行が証明した「レコチョクは技術の会社」(1/3 ページ)
音楽配信サービスのレコチョクが、2014年にAWS移行を開始してから2年弱。2017年3月のオンプレミス撤収を目標に、AWSへの全面移行を自前で実践している。想定外の課題への対処法にも注目だ。
「Amazon Web Services」(AWS)の東京リージョン開設から5年が過ぎ、国内企業の中にもAWSへの全面移行を実施する企業が徐々に出てきた。その代表的な事例の1つが有料音楽配信サイトを運営するレコチョクだ。本稿ではアマゾンウェブサービスジャパンが6月2日に開催したセミナー「AWS Summit Tokyo 2016」の中から、レコチョク 事業システム推進部 部長 松嶋陽太氏のセッションを基に、ユーザー企業が自ら主導したAWS全面移行の軌跡を紹介したい。なぜAWSだったのか、そしてAWS全面移行によって何がもたらされたのか、クラウド移行に際してユーザー企業が留意すべき点は何か。そうした検討課題を抱える企業にとって参考になる部分がきっとあるはずだ。
参考:2014年公開のレコチョク事例
2016年上半期「クラウド」記事ランキング(2016年1月1日~2016年6月20日)
1位 Appleの「iCloud」がGoogleクラウドを選んだ理由
2位 メールからチャットへ――「Slack」「LINE」が変える情報共有と開発手法
3位 やはり強いクラウド“ビッグスリー”、次のサービス停止はどこ?
AWSに出合って“あるべき姿”が見つかった
松嶋氏はセッションの冒頭で、AWSへの全面移行を決めた理由について「そこにAWSがあったから」と端的に言い切っている。パブリッククラウドへの全面移行を検討している過程でAWSを選んだのではなく、「AWSがあったから全面移行を考えた。AWSがなかったら抱えていた課題を課題として描けなかった」(松嶋氏)と言う。まさに“はじめにAWSありき”の姿勢だ。
ではレコチョクはどんなビジネス課題を抱えていたのだろうか。2011年に創業し、2002年12月に「レコード会社直営」というWebサイトで最初のサービス「着うた」を提供開始したとき、世の中はまだフィーチャーフォンの全盛期だった。サービスの通信容量は最大30Mbps程度、データ容量も10TBほどで十分で、サーバ台数は50台前後だった。だがそれから10年以上が経過した2013年、レコチョクを取り巻く事業環境は大きく変遷していた。Webサイト名は「レコチョク」に変わり、フィーチャーフォンに代わってスマートフォンがモバイル時代の主役となり、さらにマルチデバイス化が急激に進んでいる。それに伴い、レコチョクが提供する配信サービスは多様化し、扱うデータ量は肥大化していく。通信容量は2Gbps、データ容量は700TBまで膨れ上がり、仮想サーバ台数(VM)も1000台に到達していた。にもかかわらず、配信サービスを支えるインフラは、ハードウェアの更改時期に合わせて数年ごとにリプレースする繰り返しで、このままでは事業環境の劇的な変化に追い付くことは難しくなっていた。
「これらの課題を一気に解決するにはAWSへの全面移行しかない」――2012年に米ラスベガスで行われたAWSの最初のグローバルカンファレンス「AWS re:Invent 2012」に参加し、そのあまりの強烈な技術インパクトに打ちのめされた松嶋氏は直感的にこう思ったという。「今まで自分がやっていたことは何だったんだ、オンプレミスとは一体何だったんだとエモーショナルに訴えてきた」(松嶋氏)。AWSをもってすれば、レコチョクの硬直したインフラを変えられると判断したのだ。
もっとも「そこにAWSがあったから」だけでは周囲を納得させることはできない。松嶋氏はAWSへの全面移行を選択する理由を、以下の5つの課題に細分化し、それぞれの“あるべき姿”に落とし込んだ。
- コストの最適化……ビジネス環境に合わせた投資(不確定なニーズに対する投資)の最適化
- コストの明確化……システム単位/サービス単位でのインフラ維持コストの把握
- サービスリリースの短縮化……インフラ調達期間の短縮
- 事業継続計画(BCP)対策……薄利多売のビジネスモデルのため冗長構成を取れないからこそセキュリティを重視
- 最新技術を採用できる環境……AWSの新技術がもたらすインフラの変化への対応とモチベーションの向上への寄与
音楽配信サービスという性格上、レコチョクが提供するサービスは時代のニーズに合ったものが求められるため、変化の度合いが激しい。音源や映像のハイスペック化に加え、増曲のタイミングに合わせた時期や量が不透明なシステム投資が求められる。一方でオンプレミス環境では数年ごとにインフラのリプレースが発生するが、その投資のタイミングが必ずしもビジネスのニーズにマッチするとは限らない。また、レコチョクのサービスは時期によってピークの通信量が大きく変化する。「年末の音楽特番などがあるとピーク通信量は跳ね上がる一方で、深夜の時間帯はほとんど使われないなど上下の差が激しい」(松嶋氏)という状況を柔軟にカバーし、ビジネス環境に合わせた投資を可能にする必要があった。
また、既存のインフラでは「サーバ、ネットワーク、ストレージを一度にまとめて購入するため、つい共通の資産と思いがち。サービスごとに止める/止めない、の判断がしにくくなる」という問題があった。システム単位、あるいはサービス単位でインフラ維持コストを明確化し、事業担当者とシステム担当者の双方がコスト管理できている健全な状態にもっていくことは、事業の継続判断を下すためにも欠かせなかった。
創業から15年以上にわたり、ほとんど変化がなかったレコチョクのインフラを、AWSという世界最先端のテクノロジーに全面的に変えていく。その劇的な変化は、松嶋氏にとってもスタッフにとっても、技術者としてのモチベーションを高めていく原動力となった。
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