データ活用の要、MDM実践事例
【事例】累計28億円のコスト削減効果、協和発酵キリンのマスターデータ管理
ビッグデータをキーワードにDWHやBIに注目が集まっているが、肝心の「データ」を企業はどのように管理すればいいのか。協和発酵キリンが実践し、累計28億円のコスト削減を実現したMDM手法を紹介する。
「30年データ管理をやってきて、データ管理に必須なのはツールではないと言い切れる。大切なのはマインドだ。きちっと管理していこうというマインドがなければ、どのようなツールを入れても駄目だ」
そう語るのはキリンビジネスシステム 経営企画部の中山嘉之氏だ。中山氏は情報システム部長を務めていた協和発酵キリン在職時代のマスターデータ管理(MDM)に関する取り組みを、「データウェアハウス&CRM EXPO」の特別講演で紹介した。本稿ではその内容をリポートする。
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データ中心の「ハブ(HUB)化」によるMDMで、各システムを疎結合
協和発酵キリンではデータを中心にする「ハブ(HUB)」の考え方で、各システムを構築している。中山氏は1997年に構築を開始したマスターデータを格納する「マスターハブ」とトランザクションデータを格納する「トランザクションハブ」を中心に据えた「エンタープライズハブ」が、全社内システムの要だと語る。
まず1997年、わずか社内SE2人で取引先マスターと製品マスターの2テーブルで、マスターハブを構築した。マスターデータは一度マスターハブに必ず集結し、そこから各システムへと配り直す。「よく築地の魚市場に例えて話すが、産地はいろいろあるけれど必ず築地に一度持ってくる。これは物流効率と同じ考え方だ。個別のシステムやパッケージに依存しない、独立したマスターデータエントリーシステムを手組みでこしらえている」。わずか2テーブルでスモールスタートしたマスターハブは、同じ仕組みを増幅することで現在では60種類のシステムを相手に200種類のテーブルをレプリケーションしているという。
一方、トランザクションハブはトランザクションデータを格納するDWHを持つ。各社内システムはあらかじめトランザクションハブを経由し、マスターハブへ接続するという。協和発酵キリンのシステムアーキテクチャポリシーは、このマスターハブとトランザクションハブを中心に据えた、エンタープライズハブが必ず中心となる。市販のERPではなく自社独自モデルに基づいた世界で唯一のコアシステムを手組みで構築し、ERP、業務パッケージ、Web、クラウドサービスと連携して全社システムを構築していく。「エンタープライズハブを中心に据え、疎結合するERPやパッケージ、スクラッチシステム、クラウドサービスは、それぞれが取り換え可能な周辺の処理コンポーネント。どこかを工事していても、周りはびくともしない」(中山氏)
MDM効果試算は累計28億円、年間1億4000万円のコスト削減を継続中
この他、データ品質維持のための運用体制や、マスターデータのメンテナンスシステムなど、本稿では紹介しきれないさまざまなMDMを協和発酵キリンでは実践してきた。中山氏はその効果を「累計で28億円、年間1億4000万円+αのコスト削減を継続中だ」と語る。
システム投資の概算は、1982年に実施した基幹システム全面構築時のデータモデル化の投資額が約1億円、1997年以降のマスターハブ累計投資額が約1億円だ。コスト削減効果の概算は、まずメタデータの再利用によりシステム開発期間は5%程度短縮が可能になったという。200人月の中規模開発プロジェクトが毎年平均2件と仮定すると、1人月140万円の計算で年間2800万円(10人月×年間2件×140万円)、30年間で延べ8億4000万円のコスト削減となる。また、マスターハブからマスターデータを再利用することによりシステム開発期間の10%短縮を実現。年間5600万円(20人月×年間2件×140万円)、16年間で延べ約9億円のコスト削減効果となる。「大きな開発になるほどマスターデータの一元管理は工数削減、コスト削減に効いてくる」(中山氏)。その他、持ち株会社化や分社化対応、M&Aなどの構造改革時における工数短縮で計1億2000万円を削減(延べ120人月×100万円)、運用管理費の削減効果は年間6000万円に上るという。
「シンプルで美しいデータモデルが最も持続性が高いので、目の前のシステム化は急務だが『急がば(少し)回れ』の考えが重要。また、データがシステム部品の中で最もライフサイクルが長いので、ツールではなくデータを中心に考える。変わらないものを重視しながら、新たな変化を積極的に取り入れる。それを両立することがITの世界で必要なこと。データの意味に徹底的にこだわり、マスターデータ運用をIT部門の重要な仕事にすべきだ」(中山氏)
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