ユーザー企業、クラウド事業者に聞いた移行ツールの今
結局は手作業か? クラウド間移行ツールに語られる不満
プライベートクラウドからパブリッククラウドへの移行や、異なるパブリッククラウド間のワークロードの移行を支援するクラウド移行ツールが次々に登場している。だが、現実にはまだ課題が多い。
プライベートクラウドからパブリッククラウドへのアプリケーションの移行は、一筋縄ではいかない場合がある。しかし、多くのクラウドユーザーは、クラウド移行ツールの支援なしに移行を行っている。
クラウド移行ツールは、プライベートクラウドからパブリッククラウドへの移行や、異なるパブリッククラウド間のワークロードの移行を支援するが、幾つか制限がある。これらのツールはクラウド移行プロセスの初期段階の管理で必要になる場合もある。一方で、カスタムアプリケーションなど、各環境に固有の条件もある中で全てに市販のツールが対応できるかどうか、ユーザーが疑問の目を向ける場合もある。
無料のモバイル音声およびビデオ通話サービスを提供する米Tango.meで、運用担当シニアディレクターを務めるブライアン・ハンセン氏は、「ツールは、弊社の要件のごく一部にしか対応しないし、ツールの使い方を習得するのに要する労力を考えると、エンジニアリングを主要業務とする弊社では、自分たちでツールを作った方が簡単だ」と話す。Tango.meのインフラは、Amazon Web Services(以下、AWS)と米VMwareのVMware vSphereを使って仮想化したプライベートクラウドで構成されている。
ハンセン氏は、社内開発したツールよりも「驚くほど優れている」ものでなければ、サードパーティーのツールを採用しないと話す。
米Amazonは仮想マシン(VM)のインポートツールを提供しているが、プライベートクラウドからAWSへの移行では、アプリケーションを再度、手作業で配備するケースが多い。
レンタカー業務システムプロバイダー、米Bluebird Auto Rental Systemsのフィル・ジョーンズ副社長によると、同社では、最近、レンタカーユーザー情報を保持する200のデータベースを米Equinixが運営するプライベートクラウドからAWSパブリッククラウドへと移行した。
移行した中で最大のデータベースは、合計320ユーザーを保持している英Thriftyのデータベースだ。ジョーンズ氏によれば、移行に要した期間は約1カ月で、環境の状態が正しく、全てのソフトウェアが読み込まれていることを検証するために手作業でチェックを行ったという。
「データベースのバックアップを使って、2、3回ドライラン(予行演習)を実施した。負荷テストを行い、AWSでパフォーマンスの問題がないことを確認した上で、(本番環境への)切り替え日を決めた。つまり、2度データベースを移行したことになる」とジョーンズ氏は説明する。
この方法は、BluebirdのIT担当者にとっては簡単だったが、万人向けではない。米TechTargetで最近実施したアンケートでは、半数以上の回答者が、手作業で移行しなければならないことをクラウド導入の大きな障壁の1つとしている。
パブリッククラウド導入の最大の課題がアプリケーションの安定性であると回答したのは、全回答者1297人のうち52%に上る。アプリケーションの安定性を確保するには、ワークロードの書き直しや変換が必要になる。また、回答者の32%がクラウドプロバイダーとの相互運用性や統合性がないことを課題に挙げている。
実際、プライベート/パブリッククラウドの間の移行には現実的な課題があると、クラウド事業者大手、米Rackspaceの戦略担当ディレクター、スコット・サンチェス氏は言う。Rackspaceでは今、OpenStackベースのプライベートクラウドとパブリッククラウドの間でワークロードの移植性を確保するために、ソフトウェア側の処理に取り組んでいる。
「企業では、ある程度柔軟にネットワークを構成できる必要がある。企業ごとに好みが異なるので、購入するハードウェアをある程度自由に選択できる必要がある」とサンチェス氏は話す。
例えば、企業向けデータセンターとクラウドプロバイダーの間では、使っているストレージが異なる場合がある。また、IPとネットワークインフラの構成が異なることも考えられる。このような違いは移行上の問題となるため、OpenStackに特定のソフトウェアモジュールを書き込み、インフラのストレージ層とネットワーク層を抽象化する。
「弊社のクラウドゾーンとパブリッククラウドの間で構成を統一できたことで、両環境間の移植性は確保できた。しかし、プライベートクラウドを構成する際には、何をユーザーが変更でき、何を弊社では変更できないかの線引きを、バランスを考えて決める必要がある」とサンチェス氏は説明する。
クラウド移行ツールによる支援は限定的
VMware vCloud DirectorやVMware vCloud ConnectorなどのVMwareのツールは、VMwareベースのプライベートクラウドとパブリッククラウド間のワークロードの移行に使用できるが、現時点では、他のハイパーバイザーとの互換性はない。
独Siemens傘下で、電気やガスの計器データ管理ソフトウェアを提供する米eMeterで上級システム管理者を務めるブライアン・ボンズ氏によると、eMeterは最近、vCloudサービスを提供する米Bluelockと契約を結び、vCloud DirectorとvCloud Connectorを使ってプライベートクラウドからBluelockのパブリッククラウドサービスにワークロードを移行したという。
移行手順は、まず、vCloud Directorから移行対象のシステムをシャットダウンし、vCloud Directorの操作コントロールパネルで移行先としてリスト化されているeMeterの仮想データセンターの1つを選択する。vCloud Connectorが配備されていれば、Bluelockの環境がvCloud Connectorのリストに表示される。
「恐らく、実働30分ほどでシステムを国の端から端に移行できる。移行が済んでシステムを稼働したら完了だ」とボンズ氏は話す。
つまり、システムが大き過ぎなければ、WANリンクを介して楽に移行できる。ボンズ氏によると、100Gバイト以上のシステムは通常、外部HDDにコピーして、Bluelockに送り、Bluelockのスタッフが手動でVMをインポートするということだ。
米CloudSwitchなどのツールも、プライベートクラウドからパブリッククラウドへの移行や異なるパブリッククラウド間の移行の自動化に使える。CloudSwitchの親会社の米Verizon-Terremarkによると、これまで、金融サービスや医療業界の企業ユーザーが、CloudSwitchを利用して、プライベートかパブリックかを問わず、クラウド間でワークロードを移行しているという。
米RightScale(関連記事:RightScaleが実現するクラウドマネジメントの世界 ~Amazon Web Servicesとの違いは?)と米Racemiの2社もクラウド移行ツールを提供しているベンダーだ。RightScaleを使うと、VMをクラウドに短時間で配備できる他、クラウドからクラウドに移行するVMの下にマルチクラウドイメージを適用することもできる。
Racemiは、基本的にクラウドサービスプロバイダー向けのサブスクリプションサービスで、4回までは299ドル、5回目以降は249ドルで移行を実行できる。なお、VMwareのvCloud Suite(vSphere Enterprise Plus、vCloud Director、vCloud Connectorを含む)は1CPU当たりのライセンス料は4995ドルから、またCloudSwitchの年間ライセンス料は2万5000ドルからとなっている。
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