企業向けモバイル市場で提携戦略
Apple―IBM連合に対抗、Samsungと手を組んだ意外なパートナーの名前
韓国Samsung Electronicsはエンタープライズ市場で米Appleに対抗すべく、多数の企業と提携した。これらの提携は企業ユーザーにどう影響するのだろうか。
Samsungはエンタープライズ市場での取り組みをさらに強化するために、数社の大手企業とモバイル関連の提携を結んだ。提携先には、独SAP、カナダのBlackBerry、米Centrify、米Good Technologyといったビッグネームが名を連ねている。
Appleと同様、Samsungのモバイル端末も当初は一般消費者をターゲットにしていたが、私物端末の業務利用(BYOD)が盛んになってきたことで状況が変化した。Samsungはここにきて、エンタープライズ市場への進出に本腰を入れ始めた。同社は今回も先行するAppleを追いかける形になったが、十分に対抗可能なポジションにいる。
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提携戦略1. SamsungとSAP
Samsungはエンタープライズ市場での攻勢に向けた第一弾として、「Samsung for Enterprise」「Samsung Knox EMM(Enterprise Mobility Management)」「Samsung Enterprise Alliance Program」などのプログラムを発表した。同社は現在、広範なパートナーシップを通じてモバイル分野での取り組みを拡大し、エンド・ツー・エンドのセキュリティからmPOS(モバイル決済)製品に至るあらゆる分野に注力しようとしている。
Appleと米IBMの提携に対抗すべく、SamsungとSAPは、Samsungのモバイル端末をベースにした各種のエンタープライズモビリティサービスを提供するために協力するという計画を発表した。AppleとIBMの提携では、既に新しいビジネスアプリが登場している。
開発者にとってSamsungとSAPの共同事業は、Samsungのモバイル機能と「SAP HANA Cloud Platform」および「SAP Mobile Platform」を組み合わせた製品を開発する新たなチャンスとなるだろう。ユーザーにとっては、SAPのプラットフォームとSamsungのモバイル端末製品(「Gear S」などのウェアラブル端末も含む)との間でセキュアかつシームレスな連係が可能になるというメリットがある。
SamsungとSAPは当初、モバイル化の推進が求められている市場をターゲットにする方針だが、両社の提携はIoT(モノのインターネット)とビジネスプロセスを連係する可能性も生み出すと思われる。両社は、モバイルバンキングの推進、医療アナリティクスの改善、小売店での製品/在庫データへの効率的アクセスなどを可能にするサービスなども提供する計画だ。
提携戦略2. SamsungとOracle
Samsungが米Oracleと提携してクラウドベースのサービスを提供するという臆測も流れているが、両社ともそのような事実はないとしている。
もしSamsungとOracleの提携話が進むことになれば、Samsungはこの提携以外の手段では参入することが不可能なエンタープライズ市場の分野に進出できる可能性がある。さらにOracleは、コンシューマー市場を含む広範なユーザーにクラウドベースのサービスを提供できるかもしれない。
話題にはなっていないが、両社が提携した場合、SamsungとSAPとの共同事業に何らかの影響が出る可能性もある。OracleとSAPは、BI(ビジネスインテリジェンス)やERP(企業資源計画)、CRM(顧客関係管理)など幾つかの分野で競合関係にある。モバイル分野におけるSamsungと両社との提携は相互に排他的なものではないが、利害の衝突が生じる可能性も否定できない。
提携戦略3. SamsungとBlackBerry
Oracleとの提携が実現しなかったとしても、Samsungはそこで立ち止まらないだろう。同社は最近、BlackBerryとの提携を発表した。Samsungの「Galaxy」端末向けのセキュリティ/管理システムを共同開発するのが目的だ。Samsungはモバイル管理ソフトウェアの「BlackBerry Enterprise Service(BES)12」をSamsung Knoxに統合して、エンタープライズレベルの端末セキュリティと管理を実現する予定だ。
SamsungはBES12の統合により、エンタープライズ市場における最大のハードルをクリアできるかもしれない。そのハードルとは、Appleの端末と比べてAndroid端末はセキュリティのリスクが高いと考えられていることだ。BlackBerryはスマートフォン市場でシェアを失ったが、モバイル端末のセキュリティと管理に関しては、今でも業界のリーダーとして認められている。
Samsungがモバイル端末の管理とセキュリティを改善しようとしていること自体も大きなニュースだが、それよりも驚かされるのは、SamsungがBlackBerryの買収を計画しているといううわさだ。SamsungがBlackBerryの買収を提案したという報道を両社とも否定しているが、両社が合併すればどうなるのかという臆測が依然として飛び交っている。BlackBerryが保有する各種の特許をSamsungが手に入れれば、現在進行中のAppleとの勢力争いを有利に展開できるかもしれないが、苦難にあえぐビジネス向け端末企業の買収がコストに見合わない恐れもある。
いずれにせよ、両社は協力分野を模索する作業を続けており、「Samsung Galaxy Tab S」のセキュリティを大幅に高めた改良版の開発で協力すると発表した。この製品は「SecuTABLET」という名前で宣伝されており、独Secusmartが開発したセキュリティカードおよびIBMが提供するセキュアなアプリラッピング技術を採用する。SecusmartはBlackBerryが最近買収した。
提携戦略4. SamsungとGood Technology
SamsungとGood Technologyは、新しいエンタープライズモビリティプラットフォーム「Good for Samsung Knox」を共同で開発する。この提携の狙いは、企業がAndroid端末のセキュリティに関して抱いているマイナスイメージを払拭することにある。
Samsungは端末のセキュリティをさらに強化するために、セキュリティエコシステムであるKnoxに、Good Technologyのアプリケーションコンテナおよび管理プラットフォームを直接組み込む計画だ。Good for Samsung Knoxは、企業から支給された端末をユーザーがルート化(訳注:管理者権限を取得すること)するのを防ぐとともに、ルート化されたBYOD端末から社内リソースにアクセスできないようにする。この新プラットフォームは、マルウェアがカーネルを書き換えるのを防止する機能や、メモリ上あるいは送受信中のアプリケーションやデータのセキュリティを保護する機能なども備える。
Samsungは自社端末のセキュリティの強化を積極的に進めているが、Good Technologyとの提携戦略とBlackBerryとの提携戦略がどう結び付くのかという疑問もある。企業ユーザーは、BlackBerryあるいはGood Technologyの管理機能とセキュリティ機能に基づいてSamsungの端末を受け入れるのだろうか。企業ユーザーが必要なサービスを得るためには、特定のベンダーに依存しなくてはならないのだろうか。また、Samsungは他のベンダーの製品をサポートするために異なるバージョンの端末をリリースするのだろうか。
提携戦略5. SamsungとCentrify
モバイル分野におけるSamsungと各社との提携の中には、利害の衝突が起きそうなものもあるが、Centrifyとの提携にはそういった心配はなさそうだ。この提携は、SamsungのクラウドベースのKnox EMMサービスを軸として、CentrifyがSamsungのIAM(アイデンティティー/アクセス管理)プロバイダーとしての役割を果たすという内容だ。
CentrifyがIAMをサポートすることにより、Knox EMMはクラウドベースのデバイス管理とアイデンティティーフェデレーション(ID連携)機能をモバイルアプリとモバイルサービスに提供できるようになる。Knox EMMはAppleのiOSを含む複数のモバイルプラットフォームをサポートするため、特に企業にとって魅力的だ。Appleも、ITプロフェッショナルの間でKnox EMMの人気が高まるのかどうか、今後の状況を注視するに違いない。
エンタープライズ市場への影響
これらの提携はいずれも、注目を集めているAppleとIBMの提携およびエンタープライズ市場におけるAppleの全般的地位にSamsungが対抗することを狙ったものだ。Centrify、BlackBerry、Good Technologyといった名前はIT分野で訴求力が高いため、Samsungの動きは向こう2年間で業界に波乱を巻き起こしそうだ。
モバイル分野でのSamsungの提携攻勢はこれだけにとどまらない。SamsungはAndroidベースのmPOS製品を提供するために米Verifoneと提携した。さらに同社は米LoopPayとも提携を結んだ。これは「Apple Pay」に対抗するモバイル決済システムを提供するのが狙いだ。また、仮想現実用ヘッドセットを開発するために米Facebookと提携したほか、スイスのMontblancとは「Galaxy Note」用のカスタムスタイラスを共同で開発する。
Samsungの積極的な提携戦略の結果がはっきりするまでには、もう少し時間がかかりそうだが、1つだけ確実ことがある。それは、Samsungは今後もじっとしてはいないということだ。Apple、米Google、米Microsoftが勢力争いを繰り広げているエンタープライズ市場に、Samsungは参戦したのだ。Samsungの提携攻勢からどのような製品が登場するのか実に興味深い。
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