IT変革力【第41回】
大衆普及に難があるセカンドライフ、それでも進出する企業の方向
今、新しい3次元仮想コミュニティとして注目されているセカンドライフですが、まだまだ一般には普及が進んでいないようです。一方で、企業の進出があちこちで見かけられます。一体、企業はセカンドライフに何を求めて進出するのでしょうか。
セカンドライフと呼ばれる3次元仮想コミュニティの参加者数が増加し、現在は登録者数が約430万人になりました。過去2カ月に150万人がログインし、常時、約2万人がオンライン状態にある中、セカンドライフ内では1日に150万ドルが使われています。セカンドライフを運営しているリンデンラボは、アマゾンやGoogleに追随する会社として、現在、世界中から最も注目されるIT企業です。また、セカンドライフ内に島を18個も購入しているIBMを始めとしてナイキ、アディダス、ゼネラルモーターズなど、多くの企業がセカンドライフに進出しています。フランスのクリスチャン・ディオールは新作のジュエリーを何とセカンドライフで先行発表し、世界中をあっと言わせました。日本企業の中でも、ブックオフコーポレーションなど、セカンドライフに進出する企業が増えています。
確かに、毎月50万人ずつ増加するセカンドライフの参加者ですが、本格的な普及には、幾つかの欠点が明らかになって来ました。例えば、携帯電話やPDA、モバイルパソコンなどではうまく動きませんし、快適にコミュニティを展開するには大きなメモリを積んだ、高速フルスペックのデスクトップパソコンが必要となります。Windows Vistaを搭載した新しいパソコンを買うにしても、お金がかかってしまいます。そうなれば、学生など若者には容易に手が出せません。また、操作がブログやSNS、YouTubeのように簡単ではない点も普及のネックになるでしょう。
これまで大流行したITサービスは、老若男女が誰でも安く手軽に、簡単にできるという共通点がありました。現在のセカンドライフを取り巻く環境にはこれが欠けています。セカンドライフがスムースに動くWindows Vistaが普及すれば別ですが、筆者は本格的な大衆普及には、多少時間がかかると見ています。
また、いろいろなネットイベントがセカンドライフの大きな魅力と言われ始めていますが、昨年、米NBCが主催した仮想ロックフェラーセンターでのクリスマスツリー点灯式で明らかになったように、イベントには一度にせいぜい1000人程度しか参加できません。口コミを巻き起こすにしても限度があるわけですね。
それでも、世界中の企業がセカンドライフに進出し始めています。理由の1つはテストマーケティングのコストが高くない点です。大ざっぱに言えば、セカンドライフの中の島を約20万円で買って、後は数万円の運営費を払えばいいのですから。
それでは一体、企業は何を求めてセカンドライフに進出するのでしょうか。
Web2.0の流れに沿ったマーケティング実験の始まり
Web2.0と言われる比較的穏やかな環境がインターネット上に出現し、大勢による情報発信や社交が始まり、さらに、企業がそれをマーケティングに活用する時代が訪れています。例としては、ブログ・オン・ブログやYouTubeのような動画サイトにおけるCGCM(消費者作成広告)、物語性の強いプロモーションビデオの投稿などですね。また、マイスペースなどのSNSも盛んにマーケティングに活用され始めています。セカンドライフへの企業の進出もこの流れに沿っています。
(1)ブランド経験の向上
米国のマーケティング企業の主張や、欧米企業の動きを見ていますと、セカンドライフ上でも同様のマーケティングの試みが始まっています。まず、セカンドライフにお店を出すことによる生活者のブランド経験の向上が上げられます。確かに、セカンドライフに事務所を構えていれば、先進企業というメッセージを若者層に送ることができます。これが企業イメージを向上させ、ブランドを浸透させるわけですね。
(2)プロダクトプレースメント
また、カナダの携帯電話企業が自社の携帯電話を生活者のアバターに配布したり、日本の自動車メーカーが車をセカンドライフで配布、あるいは格安で販売したりしています。もちろん、セカンドライフ内だけのイメージの品ですから、本物ではありませんが。
このようなマーケティングの手法は「プロダクト・プレースメント」と呼ばれています。テレビドラマの主役にさり気なくスポンサー企業のファッションをまとわせるのと同じですね。そして、導線コントロールにより実店舗に誘導するのです。
(3)プロダクトデザインの共同開発が巻き起こすバイラルアド
これから本格化すると考えられているのが、プロダクトや店舗デザインのセンスの良い生活者との共同開発です。物理的な店舗や物理的商品のデザインを、イメージの段階で生活者とともに考えていくプロセスに「巻き込み効果」が発揮され、バイラルアド(口コミ広告)を巻き起こすと考えられるわけです。例えば、既にスターウッドホテルは、2008年にオープンするホテルのデザインを提示し、セカンドライフ参加者の投票で採用デザインを決定しています。
(4)ブランドコミュニティの立ち上げ
SNSのマイスペースやmixiでは、企業が消費者とのブランドコミュニティを立ち上げていますが、同じことがセカンドライフでも行われると考えられ始めています。
(5)ネットイベントによるイベントマーケティング
SNSや動画サイトに対して、セカンドライフの強みはネットイベントであると考えられます。日記を書いてコメントを書いて終わりというSNSに比べて、「今夜、X時からフットサルをやるよ」という展開が可能なセカンドライフのネットイベントは、マーケティング上も魅力があります。既に、IBMやクリスチャン・ディオールなどは新商品や新サービスの発表をセカンドライフ上で行っています。
筆者は、いずれ日本のアニメや米国のスター・ウォーズなど、キャラクター色の強い映画、ドラマはセカンドライフで撮影される可能性が高まったと考えています。そうなれば撮影のプロセス自体がネットイベントとしてバイラルアドを巻き起こすでしょう。
メディアミックスが重要
しかし、セカンドライフの欠点は、まだまだブログやSNS、動画サイトのように大量の生活者に普及する条件が整っていないことです。そこで、セカンドライフのイベントをビデオでYouTubeに流す、SNSと組み合わせるなど、メディア・ミックスの方式を取る傾向が強まるだろうと考えられます。若者が群れる傾向が強い日本では、mixiなどの中で形成される仲間の「群れ」が、セカンドライフに一緒に参加する動きも見えます。
セカンドライフの普及はブログやSNSに比べて時間がかかると思われます。ですから、進出を目指す企業はメディア・ミックスを考えて気長に活用することが肝要です。
(野村総合研究所 社会ITマネジメントコンサルティング部 上席研究員 山崎秀夫)
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