エキスパートに聞く情報系システム導入の現状:BI/OLAP編
BI普及のポイントは「使い勝手」、現場に根付くツール選びを
分析環境整備のためにBI導入を検討する企業が増えている。BIツールの最近の方向性や導入状況から、真にユーザーが求めるBIツールを考える。
効率的に収益を上げる手段としてのBIに注目が集まる
2008年のリーマンショック以降しばらくの間、企業のIT投資意欲は低下の一途をたどっていたが、その中でも比較的好調といえる分野が「ビジネスインテリジェンス(BI)」や「OLAP」「データウェアハウス(DWH)」などのデータ分析ソリューションだ。調査会社アイ・ティ・アールが毎年実施している「IT投資動向調査」でも、多くの企業がこの不況の中、データ分析のためのITソリューションに対しては積極的な投資を行う姿勢が見られた。
本連載のDWH編「大量データの高速処理化が進むDWH、積極化するユーザー企業の投資意欲」では、2009年の調査結果を紹介したが、以下の図は2010年秋に実施した最新調査の結果の一部だ。見て分かる通り、「データ分析」は2010年度の注力度も高いものであったが、2011年度に向けてはさらに伸び、上位2項目に肉薄している状況がうかがえる。
なぜ今日、BIやOLAPが企業の注目を集めているのだろうか? アイ・ティ・アール リサーチ統括ディレクター/シニア・アナリストの生熊清司氏は、次のように考察する。
「リーマンショック後しばらくの間は、企業はとにかくコストを削減するためにIT投資を大幅に削減、もしくは凍結しました。コスト削減は今後とも重要な課題であることに変わりはありませんが、コスト削減だけでは安価な労働力を背景とした海外企業の低価格製品や、目まぐるしく変化する顧客ニーズなどへの対応は不十分です。競争力を向上させるためには、収益を向上させることが重要となっています。それにはこれまで以上に市場の変化をいち早く感知し、迅速なアクションを取るためのソリューションが必要となり、BIが再び注目されているわけです」
例えば、従来の相関分析やバスケット分析などに加え、データマイニングなどの今まで試したことがない新しい分析手法を導入することで、新たな購買層の発見や既存顧客に対する売り上げ向上を果たせるのではないかとBIを試行し始める企業が出てきているという。また、これまでも何らかの方法で経営分析を行ってきた企業にしても、市場環境が変化するスピードが日に日に速さを増す今日では、従来の分析手法では変化に付いていけなくなってきている。そのため、そうした企業からも最新のBIソリューションが注目を集めているという。
日本におけるBI普及のポイントは「使い勝手」
生熊氏によれば、企業の現場レベルでもBIに対する認識は徐々に変わりつつあるという。欧米企業では現場の従業員が積極的にBIシステムを活用するケースが多い。一方、日本の現場は昔ながらの「経験と勘」を重要視する企業文化が依然として存在し、BIは経営層のための情報の見える化といった利用にとどまっていることがほとんどだという。しかし、こうした状況も徐々に変わりつつある。
「市場の変化が激しさを増し、これまでの“経験と勘”が通用しなくなってくると、さすがに現場レベルでも『やり方を変えなければいけないのでは?』という問題意識が芽生えてきています。そうした背景があり、現場でもBIを試してみようという機運は徐々に高まっていると感じています」
また、これまではBI製品というと「IBM Cognos」や「SAP BusinessObjects(SAP BO)」「Oracle Business Intelligence」などの欧米パッケージ製品が主流だった。しかし、これらの製品は高機能を誇る半面、日本企業の現場における使い勝手という意味ではハードルが高かった。そのため近年では、日本企業の現場での使い勝手を重視したBI製品が徐々に普及しつつある。特にウィングアーク テクノロジーズの「Dr.Sum EA」は、日本のユーザーにとっての使いやすさを重視したBIツールとして、現場レベルでの利用社数を着実に伸ばしている。
粒度の細かいデータをリアルタイムで分析したいというニーズ
OLAP製品に関しては、近年では「リアルタイム性」がより重要視されるようになってきていると生熊氏は言う。
「ビジネス環境の変化を的確に把握するために、データソースからよりリアルタイムに近い形で分析データを取り込みたいというニーズが出てきています。そのため、多次元データベースを経由するMOLAP(Multidimensional OLAP)とリレーショナルデータベースなどに格納されている情報ソースに直接アクセスするROLAP(Relational OLAP)を組み合わせたハイブリッド型の製品や、分散処理技術によって処理性能を高めた新世代のMOLAP製品が注目を集めています」
また、データの粒度という点でも、従来のMOLAPツールには限界があるという。MOLAPでは分析用のキューブを作成する際、どうしても性能面での制限からサマリーデータが対象となっていた。そのため、分析データの粒度が荒くなってしまい、結果として「分析しても、新たな発見が得られない」ということにもなりかねない。そうした意味でも、より高性能な製品を導入して、リアルタイムかつ粒度の細かいデータを直接分析したいというニーズが増えてきているという。
もちろん、粒度の細かいデータは大容量となり、それをリアルタイムで処理するとなると、当然システムには高い処理能力が要求される。そのため近年では、各製品とも高速処理をうたった機能をこぞって実装している。分散処理に続いて、昨今注目を集めているのが、インメモリ処理技術だ。メモリ価格が下落し、ハードウェアに大量のメモリを搭載することが可能になったため、メモリ上にデータを置き、ディスクアクセスを極力少なくして高速にデータ処理を行う技術がアプリケーションやミドルウェアに実装されるようになってきている。
新興BIベンダーの登場とオープンソースやSaaSへの流れも
生熊氏が最近注目しているBIベンダーの1社が、クリックテックだという。同社は1993年にスウェーデンで設立された新興ベンダーで、BI製品「QlikView」を擁する。2010年9月には日本法人も設立し、日本国内のBI市場でも今後キープレーヤーとなる可能性がある。
「QlikViewの特徴は、使い方が簡単で、かつ処理が高速なことだと同社では説明しています。確かに、インメモリ処理や64ビット処理が可能で、かつマルチスレッドのプログラミングモデルを採用しているため、近年のメモリ価格の下落やIntel CPUのマルチコア化の恩恵を受けやすいアーキテクチャではあるといえます」
また今後は、オープンソースやSaaS(Software as a Service)型のBI製品も日本で徐々に認知されてくるだろうと生熊氏は予想する。現に2010年10月、野村総合研究所(NRI)は米Jaspersoftが開発するオープンソースBIソフトウェア「Jaspersoft」の日本語サポートを開始すると発表しているほか、既存BIベンダーもSaaS型の製品の強化を図っている。今後、日本企業の現場でBI製品の利用が浸透すると、利用者増に伴いソフトウェアライセンスコストの増加が課題となる。そのため、ライセンスコストを抑えるためにオープンソース製品の導入を検討する企業も出てくるだろうと生熊氏はみる。
「これまでは大手ベンダー数社が市場を独占してきたBI市場ですが、最近こうした新興ベンダーも台頭してきており、その動向が注目されます。ビジネスの変化が前提となった現在では、BIツールによる分析に対する重要度は増しており、ユーザー活用の向上とベンダー競争の激化によって、今後BIの市場はより活性化していくのではないかとみています」
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