エキスパートに聞く情報系システム導入の現状:DWH編
大量データの高速処理化が進むDWH、積極化するユーザー企業の投資意欲
先の見えない現在は、過去データの分析だけでは対処できない想定外の要素によって事業の推進が不可能になる場合がある。「今何が起こっているか」をいち早くとらえるために、DWH導入意識が高まっている。
企業の投資意欲が高い「データ分析」ソリューション
データウェアハウス(以下、DWH)というITソリューションは、かつては非常に専門的でニッチな領域だとみられがちだった。システムを構築するためには高度な専門知識と膨大なコストを要し、運用も非常に手間が掛かると考えられていた。また、構築したDWHを利用するにも、情報に応じた複数のツールを使い、ツール自体の操作経験と統計分析の専門的な知識が求められるため、専門家しか利用できないものだと思われがちだった。こうした見方には一部偏見も含まれているだろうが、少なくとも多くの人々にとってDWHの利用は、かつては「導入のハードルが高い」ソリューションだとみられていたのは確かだろう。
しかしこうした風潮は、2004年あたりから徐々に風向きが変わってきたようだ。その背景にあるのは、1993年にリレーショナルデータベースの父といわれるエドガー・F・コッド博士によるOLAP(Online Analytical Processing)の提唱以降のBI(ビジネスインテリジェンス)に対する認知度の向上にあると考えられる。2004年前後から多くの主要ITベンダーがBIソリューションに力を入れ始め、ユーザー企業もBIが自社のビジネスにもたらすメリットに注目するようになった。そうなると、自ずとBIシステムのデータ基盤としてのDWHにも注目が集まることになる。
こうした傾向は、2010年現在もまだ続いている。IT専門調査会社のアイ・ティ・アールが毎年実施している、企業のIT投資動向に関する調査でも、そうした傾向が見て取れる。下図は同社が2009年秋に実施した調査の分析リポートの一部だが、調査対象企業がどのようなアプリケーション分野への投資に注力しているかを表している。
上記の調査結果の中には「DWH」という分野は設けられていないが、「データ分析」に対する企業の注力度合いが、ほかの分野に比べて相対的に高いことが分かる。また、「経営管理」「マーケティング(Eメール、Web)」といったDWHに関連する分野に関しても、ユーザー企業は投資に比較的積極的であることがうかがえる。さらに、2010年9月にアイ・ティ・アールが実施した最新の「IT投資動向調査2011」の速報値を見ても、2011年度に向けて「データ分析」の重要度指数は上昇しており、上位3位の分野に挙がっている。
活況を呈するDWH市場
こうしたユーザー企業の動向について、アイ・ティ・アール リサーチ統括ディレクター/シニア・アナリストの生熊清司氏は次のように考察する。
「長引く不況やビジネスのグローバル化の流れを受けて、企業はこれまでより少ない投資でより効率的に収益を上げるための方法を模索しています。BIやDWHのソリューションは、こうした企業の期待を受けて伸びているものと考えられます」
こうしたニーズを背景に、DWH製品の市場は近年、活況を呈している。日本市場ではまださほどではないが、ワールドワイドで見るとDWH製品の売り上げは好調に推移している。例えば、DWH専業ベンダーとして世界最大手のテラデータは、この不況のご時世、2010年度上期の業績が過去最高であったことを発表している。
もともとDWHの市場は、5年ほど前まではこのテラデータの独壇場であった。しかし、新興ベンダーのネティーザの登場が市場の状況を変えたと生熊氏は述べる。
「ネティーザの市場参入と積極的なプロモーション戦略が、DWH市場が活気付いた一因だと思います。その後、ネティーザに続けとばかりに、次から次へと大手ベンダーがDWH市場に参入を果たしています」
例えば、オラクルは同社初のハードウェア製品となるDWHアプライアンス「Oracle Exadata」を2009年にリリース、その後新バージョンや派生バージョンの製品も投入している。マイクロソフトもそれに続くように、2008年に買収したDWHアプライアンスベンダーDATAllegroの技術を取り込んだ「SQL Server 2008 R2 Parallel Data Warehouse Edition」を2010年12月にリリースしようとしている。EMCもDWHベンダーGreenplumを買収し、EMCブランドのDWHアプライアンス製品の提供を開始している。さらに2010年11月には、IBMが前述のネティーザの買収が完了したことを発表した。このように、市場の活性化に呼応するように、DWH業界のベンダー再編も急ピッチで進んでいる。
大容量・高速の分析ニーズに応えるアプライアンス製品
このように今日、主要ベンダーはこぞってDWH市場に対する取り組みを強化しているが、各ベンダーの製品・ソリューションに共通するトレンドの1つが「アプライアンス化」だ。
「分散並列処理技術とデータ圧縮技術を搭載したアプライアンス製品で、大量データを高速に検索処理するというソリューションが、現在のトレンドになっています。その背景には、これまでにはなかったレベルの大容量データを対象にした分析ニーズが出てきていることがあります」
生熊氏によれば、近年経済全体の動向が変わってきたため、それに伴い企業側でのデータ分析のニーズも変化しつつあるという。
「一言で言えば、市場動向や消費者トレンドを予測できなくなってきたということです。市場の変化のスピードがあまりにも速く急激なため、かつてのように実績データの分析結果を基に3年後、5年後の計画を立てるようなやり方は、あまり意味を成さなくなってきました。現在必要とされているのは、『今起きていること』をできるだけ速く、かつ正確に把握し、素早く分析した上で即座に行動に移すことなのです。そのためシステムには、従来よりも粒度の細かいデータをリアルタイムに近いスピードで集め、高速処理できる能力が求められます」
そのためにこそ、大容量データを超高速で処理できるアプライアンス製品が必要とされているのだという。また、現在ではトランザクションデータやWebのログデータがそうしたリアルタイム分析の対象になっているが、今後はソーシャルメディアのデータや、センサー、ICチップから収集したデータ、さらに音声・画像の自動認識データなどが対象に加わってくることが予想される。そのため、ますます大量・高速処理のニーズは高まってくるだろうと生熊氏は予想する。
その一方で同氏は、今後は中規模・小規模の分析ニーズに適した低価格なアプライアンス製品も登場してくるのではないかとみる。
「現在は各ベンダーとも、主にハイスペックな製品で市場における認知度を高めようとしています。今後は中堅企業でも十分に導入可能な低価格帯の製品が出てくる可能性は高いとみています」
また同氏は、もう1つのトレンドとして、オープンソース系の技術がDWH分野でも台頭しつつある点に注目する。
「大量データの検索を効率的に行う技術として、HadoopやKVS(Key-Value Store)といった新しい技術が注目を集めています。現に今、これら新技術の導入事例は急速に増えてきています。また欧米では早くもその次の世代のデータベース技術の開発も進んでいます。今日の企業のおける大量データの分析ニーズが、データベース技術の革新をも後押ししている状況だといえるでしょう」
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