Microsoftのクラウド戦略はまだまだ初期段階
Office 365の料金体系をめぐるIT管理者の不信感
Office 365の料金体系を見たIT管理者は不安を感じている。MicrosoftにはOffice 365の多様なライセンスオプションについての明確な説明が求められているようだ。
米Microsoftは4月18日にOffice 365の初のパブリックβを公開し、同製品のリリースに向けてわずかに前進した。しかし、オンプレミスおよびホステッドアプリケーションからSaaS(Software as a Service)およびOfficeのクラウド向けバージョンへの移行を同社がどのようにサポートしていくのか、さらに詳しい情報が提供されない限り、ITベンダーがOffice 365を適切に評価することは難しい。
IT管理者を不安にさせているのはOffice 365への移行だけではない。Microsoftはその他の主要なサーバ製品をSaaSおよびクラウドコンピューティングプラットフォームに移行することも計画しているが、これも不安要素となっている。クラウドベースのプログラムのみを提供する、小回りのきく競合からの圧力が強まっていることを考えると、Microsoftには失敗が許される余地は少ないと思われる。
「クラウドのオプション(プラン)を見ているが、ERP製品などに関してMicrosoftがこれまでしてきたことは、中途半端なように思える」と米大手小売業者のITディレクターは話す。「既存のインフラストラクチャからMicrosoftがOffice 365とWindows Azureによって語っているものへとどのように移行するか、全体像が見えない」
Microsoftは過去に、主要なアプリケーションやOSプラットフォーム間でのスムーズなシフトに失敗した際に大きなダメージを被らずにやり過ごしてきた。しかし、「サービスの時代」にそのような間違いを犯せばただでは済まないだろう。
「(Microsoftは)Windows XPからVistaへの移行など、移行に失敗しても大きな痛手を負わずに来た。しかし、オンラインの世界ではそのような間違いは許されない」と米Inter-Arbor Solutionsの主席アナリスト、ダナ・ガードナー氏は指摘する。「(Microsoftは)この移行を、手間、コスト、技術の面で落ち度なくこなす必要があるが、まだそれができていない」
Windows Vistaをめぐる問題
ガードナー氏や他のアナリストは、Microsoftがこの新時代へのシフトに失敗すれば、米Googleや米salesforce.comなどの競合は、元からSaaS向けに開発されている各社の既存のコア製品に、メッセージングやカレンダー、コラボレーションなどのコモディティ機能を悠々と追加していくだろうと話す。
「Microsoft製品のほとんどのアーキテクチャは、SaaSやマルチテナント向けではない。また、サービス指向アーキテクチャのような複数のサービスを配置できる共通のコードベースもない」とガードナー氏は指摘する。
米コンサルティング会社のDirections on Microsoftでサーバアプリケーションリサーチ担当副社長を務めるウェス・ミラー氏は、技術的なロードマップの有無にかかわらず、これはかなり骨の折れる移行になる可能性を示唆している。Exchangeだけを考えても、現在のほとんどのビジネスで「心臓」の役割を担う影響の大きい製品だ。
「クラウド間の移行であれ、オンプレミスからクラウドへの移行であれ、データセンターをクラウドに移すのであれ、組織が大きくなればなるほど、ExchangeやSharePointなどのコア製品の移行計画は重要だ。しかし、MicrosoftはBPOSから学んだことなど、幾つかのベストプラクティスがあるだけで、現在は移行の初歩的な手引きを整えている段階だ」とミラー氏は説明する。
Officeのライセンス料が二重払いに?
エンタープライズITベンダーに進言する立場のITプロやアナリストは、Office 365の多様なライセンスオプションについて、より明確な説明が必要だと話す。Microsoftは2011年の初めに、Office 365のライセンスオプションを発表した(下表)。しかし、4種類のオプションのうちの2種類でOffice Pro Plusがスタンダードコンポーネントとして提供されていることから、Officeのエンタープライズライセンスを既に保有しているIT管理者は、Officeのライセンス料を二重に支払うことになるのではないかと危惧している。
Office 365のライセンス関連記事
| プラン名 | 1ユーザー当たりの月額料金 | 主な機能 |
|---|---|---|
| E1 | 1000円 | IMおよびプレゼンス、会議、SharePointサイトによるコラボレーション、電子メール、カレンダー、アンチウイルス/アンチスパム、個人用アーカイブ |
| E2 | 1600円 | E1の機能+Webアプリケーション |
| E3 | 2540円 | E2の機能+Office Pro Plus、ボイスメールおよび高度なアーカイブ機能、Access、Excel、Visioサービス |
| E4 | 2860円 | E3の機能+PBXの代替となるボイス機能 |
訳注:日本での月額料金は、Office365のプランを参照。
「Pro Plusのライセンス料を払う必要があるのなら、(Office 365の)E3オプションを私が支持する可能性はほとんどない。また、ローエンドの2つのオプションには、特に魅力を感じない」と前出の小売企業のITディレクターは話す。
E3を選んだ場合、月額料金の割引があるかどうかをMicrosoftの広報担当者に尋ねたところ、この担当者自身は、上位の2オプションでOffice Pro Plusを必要としない既存のOfficeデスクトップユーザーに割引が適用されるプランの存在は認識していないという回答だった。
しかし、E3を選択した場合、小売り版なら499ドルするOfficeの最上位バージョンを月々24ドルで使用できる。
Office 365の最初のパブリックβでは、2種類のプログラムが発表された。1つは25ユーザーまでの小規模企業向けで、もう1つは中堅および大規模企業向けのプログラムだ。
小規模企業向けのβプログラムでは、Office Web Apps、Exchange Online、SharePoint Online、Lync Online、外部Webサイトを利用できる。一方、中堅および大規模企業向けのプログラムには、電子メール、ボイスメール、エンタープライズ向けソーシャルネットワーキング、音声およびビデオ会議機能、Webポータル、Office Professional Plusのサブスクリプション版が含まれる。
また、この2種類のβプログラムと併せて、Office 365 MarketPlaceも発表された。Office 365 MarketPlaceでは、100種類のアプリケーションと400のプロフェッショナルサービスが提供され、Office 365のカスタマイズに活用できる。
今回のパブリックβには目立った追加機能はなく、主に、Office 365全体の操作性、処理速度、パフォーマンスの向上に注力されている。
Microsoftによると、このβ1に登録したユーザーの70%強は小規模企業であり、さらに規模の大きい企業が残りの30%を占めるという。ただし、パブリックβの参加対象が拡大され、年末に予定されている最終リリースに近づくにつれて、この割合は変化していくと一部のアナリストは見ている。
Office 365導入の動き
「現時点では、Office 365に最も魅力を感じるのは、思い切ってクラウドへの移行に舵を切ることができる小規模企業や中堅企業だ。しかし、大規模企業では、パイロットプロジェクトや複雑な環境でのテスト、展開など、検討すべきことが多い。大規模企業こそMicrosoftが移行を望む相手だが、現時点でクラウドに乗り出すのは規模の小さい企業になる」とミラー氏は話す。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
この記事の著者
関連記事
新着ホワイトペーパー PR
-
製品資料
[株式会社ガラパゴス] 「AIっぽい広告」の山に埋もれさせない AIマーケで着実に成果をだす秘訣とは? -
製品資料
[株式会社ガラパゴス] 「広告投資」調査レポート2026:勝ち組企業は何に投資しているのか? -
製品資料
[株式会社Helpfeel] 「問い合わせの渋滞」を解消、情シスの負担を軽減する“次世代型AI”活用方法 -
製品資料
[株式会社Helpfeel] 対話型AIエージェント×RAGで社内情報の検索/問い合わせを効率化するには? -
技術文書・技術解説
[株式会社クレスコ] ソフトウェア開発の属人化と手戻りをどう防ぐ? 速さと品質を両立させる方法
こんなメディアも見られています
TechTargetジャパンに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
ベンダーコンテンツ PR
From Informa TechTarget
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
「Copilot」はなぜ放置される? “議事録要約止まり”を脱する処方箋
-
2
「ネットワークインフラの現状と課題」に関するアンケート
-
3
脱VMwareの前提が崩れる BroadcomのVDDK公開停止で確認すべき点
-
4
「データストレージの活用方法」に関するアンケート
-
5
AI全部入り「Microsoft 365 E7」に企業が二の足を踏む訳 移行意向はわずか4%
-
6
LLMの「過学習」、正しく説明している文章はどれ?
-
7
APIキー奪取から3時間でクラウド掌握 Anthropicが暴いた「バイブハッキング」の現実的な防御策
-
8
「AIならすぐできるはず」と言われるエンジニア 他職種とのずれを埋めるには
-
9
AIエージェントが自社を襲う 人間より危険な「非人間ID」の盲点
-
10
AIエージェントはどう作る? まず押さえておきたい重要技術
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
マンガで解説:「ゼロトラスト」「SASE」の必要性とメリット
-
2
5回聞くだけじゃ足りない? トヨタ式「なぜなぜ分析」の正しい実践方法
-
3
インシデント対応工数を約3割削減、東京ガスの事例に学ぶ監視体制刷新のコツ
-
4
AIエージェントで多様な日常業務を効率化するための入門ガイド
-
5
JR西日本ITソリューションズが「監視業務の属人化」を解消した方法とは?
-
6
国税庁の次世代基幹システム「KSK2」稼働開始に向けて、対応すべき変更点とは?
-
7
5分で分かる「セキュア大容量ファイル転送サービス」の機能とメリット
-
8
ドラマで分かる、標的型攻撃メールの被害を受ける企業と回避できる企業の分岐点
-
9
少額減価償却資産が40万円未満へ拡大、令和8年度税制改正で押さえるべき変更点
-
10
「脱Excel」か「Excel快適化」か? 現場にやさしい業務改善の進め方
TechTargetジャパン SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechTargetジャパンをフォロー