再考:流通業のBCP【最終回】
「BCPの高度化は流通業の差別化策につながる」中央物産に聞く3.11以降のBCP
東日本大震災の直後から復旧作業に取り組んだ中央物産だが、その道のりは決して平たんではなかった。システムトラブルが続く小売店も少なくなく、せっかく届けた商品の引き取りを拒まれるケースもあったという。
せっかく配送しても受け取り拒否される事態も
前回「大手卸 中央物産に聞く、東日本大震災の被害状況」で述べたように、中央物産では顧客の注文にできる限り対応するために商品確保に懸命に取り組んだ。併せて同社が進めたのが、各物流センター(LC)から小売店へ配送するための物流網の復旧作業である。夜間に本社スタッフや営業担当をLCに派遣し、夜を徹して作業を行ったという。また、燃料を節約することで日々の配送を正常に行えるよう、通常ルート以外の特別配送を基本的に見合わせた。
こうした方策を採りながらも、復旧への道のりは苦労の連続だったという。その理由としてまず挙げられるのが、LCに派遣された本社スタッフが作業に不慣れであったことだ。中央物産 管理本部 システム部長 河守 修氏は「同じ時間にピッキングできる商品数は本来のスタッフには及ばない。計画停電は最悪の場合、1日に二度、各3時間発生し、6時間の遅れを夜間で取り戻すのは並大抵なことではなかった。しかも、一時的な注文の急増により発送量も大幅に増え、24時間稼働させて対応に当たってやっと処理できた」と震災直後の状況を振り返る。
ピッキング作業を完了し、いざ配送に取り掛かった後も、思わぬトラブルに幾つも見舞われた。震災によって納品先のセンターが被害に遭っていたり、システムにトラブルが発生していた取引先も多かったからだ。
もちろん、同社は取引先と連絡を取り、商品の受け入れの可否について事前確認を行っていた。だが、大地震による混乱の中、取引先がセンターやシステムの被害にまで考えが及ばず、店舗が健在であることから商品の受け入れが可能と誤認するケースも多かったのである。また、ネットワークのダウンにより中央物産から送信される事前出荷データによる検品が行えないなどの理由で、せっかくセンターまで届けた商品の荷受けを拒まれることもあった。さらには、受け入れてもらえた場合でも2~3時間ほど待たされることもあったという。
「同一の発注データが何度も客先から送られてきたり、通常なら納品した後に客先から送られる確定データを受信できず、イレギュラーな作業が多数発生したことも業務効率を低下させた。当初はトラックや燃料が足らず、納品する方法ばかりを考えていたが、いざ納品の段になり受け取ってもらえない事態がこれほど発生するとは考えもしなかった」
なお、同社が配送した商品は個包装単位でピッキングしているため、LCでそれらを再利用することが極めて難しいことも頭痛の種だったという。
計画停電に備え自家発電装置も既に導入
こうした混乱の中で、中央物産では物流機能を回復させるためにシステムに手を加え、連続稼働時間が最も長かった伊勢原LCで扱う荷物を他のセンターで分散処理できる仕組み作りに取り組んだ。また、計画停電や燃料不足などの問題も4月には解消したことでセンターの処理能力は大幅に底上げされ、顧客のシステムトラブルなどの解消により、現在では震災前と同程度のリードタイムで商品を配送できるまでに物流機能は回復を遂げている。
今回の大地震を機に、同社では既に事業継続計画(BCP)の見直しに着手しており、早速伊勢原LCに自家発電装置を導入。8時間以上連続して給電できる環境を整えた。
「卸のセンターでは自家発電装置まで設置しているところは少ない。だが、今回の経験で計画停電の苦労を身にしみて思い知らされた。2011年の夏には計画停電の実施が再び予定されており、まずは搬送コンベアーや重量物を産業用ロボットで運ぶパレタイザーといったマテハン機器の多い伊勢原LCで対応を図った。社内決済が迅速に下りたのも、停電による苦労を全社で味わったからこそだろう」
河守氏はさまざまな対策を講じる過程で、卸と小売各社を結ぶシステムを見直す必要を痛切に感じたという。現在、メーカー各社と同社とは統一のフォーマットで受発注データをやりとりしているが、こと小売各社とのデータのやりとりはそれぞれ異なるシステムで行われ、「取引先ごとにフォーマットがバラバラ」(河守氏)なのが実情だ。
流通BMSを流通プラットフォームに
データフォーマットが異なれば、基幹システムで扱うために変換作業が必要となり、それだけ業務効率が低下するリスクも大きくなる。また、顧客ごとに最適化されたシステムは、業務を見直すに当たって壁にもなりかねない。上述したように、同社では伊勢原LCの荷物を他のセンターで分散処理できるようシステムに手を加えているが、一部の顧客の荷物に関してはシステムの問題で同センターでしか扱うことができなかったことからもそのことが伺えよう。
「特定の顧客に対しては、納品物などの情報がひも付けられたラベルを発行し、箱に添付して納品している。実はこのラベル印刷の仕組みは伊勢原LCの末端のシステムに実装されており、他のセンターでは実施することができなかった。他のセンターで行おうとすれば、システム開発のために少なからぬコストを負担する必要もある」
こうした卸の負担を軽減する上で河守氏が注目しているのが、拡張性に優れたXML(eXtensible Markup Lungage)をデータフォーマットに採用したEDIの新メッセージ標準「流通BMS」である。流通BMSは通信速度の向上による発注処理時間の短縮やペーパーレス化など、目に見える効果が出やすいとされる。今では食料品や生活雑貨の他、生鮮食品や衣料品などにも商材が拡大され、ドラッグストアやホームセンター、百貨店業界での共同実証も完了している。
「対象となる商品の拡大に伴ってフォーマットの項目が非常に多くなったため、流通BMSであっても小売店ごとにシステムに手を加える必要があるのは否めないだろう。だが、従来の個別開発と比べれば、データの標準化の点で流通BMSの意義は極めて大きい。電話回線を前提としたアナログ通信仕様のEOS用モデムの製造も打ち切られており、今後流通各社が流通BMSを相次いで採用する可能性も小さくないはず」と河守氏は期待を寄せる。
メーカー、卸、小売の受発注情報の可視化を推進
「流通BMSが小売と卸を結ぶ共通プラットフォームとなることで、メーカーと卸との受発注を含めてサプライチェーンのあらゆるデータが全て標準化される」というのが、河守氏が描く理想のシステムの将来像である。ひいては、流通各社における過去の商品の売れ行きとメーカーの販促策などの情報を踏まえて売れ行きの予測精度を高められ、それを基にLCに必要な人員をより正確に割り出すことで、LCの運営コストをさらに削減することもできる。
「どんな情報をどう分析すれば、どのように生かすことが可能なのか。サプライチェーンを高度化するためには、この点が重点課題となる。今後、そのことを踏まえた情報活用のための新たな施策も積極的に展開する方針だ」
中央物産はBCPの高度化に向けたデータの標準化の切り口から、新たな差別化策の模索までをも見据えた活動を続けている。
BCPに万全はない
天災やその影響による被害を正確に予測することは不可能に近い。だからこそ、考え得る限りの範囲でそれらを予想し、その対応に必要とされるコストを踏まえ、優先度の高い順に対策を実施する活動が企業に強く求められている。その対象はITに限らないことは本連載「再考:流通業のBCP」で見てきた通りだ。そのため、経営者や現場社員を活動に巻き込むことも忘れてはならない。しかも、「継続的に」である。BCPに“万全”はないのだ。
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