識者が語る「ERP製品選択の目」:ガートナー ジャパン 本好宏次氏
ERP検討企業が押さえるべき「3つのトレンド、3つの予測」
ガートナー ジャパンの本好宏次氏がERPを取り巻く現状と、今後の方向性を説明した。ERPを検討している企業が考えるべきは3つのトレンド、そして3つの予測だ。
「中堅・中小の企業でもグローバル化というキーワードを避けることはできない。M&Aで外資企業に買われるケースもあるし、外国人従業員の受け入れも増えている。日本に閉じている企業でもグローバルで通用するアプリケーションが必要になる」
ガートナー ジャパンのアナリスト 本好宏次氏は3月2日に開催された同社イベント「エンタープライズ・アプリケーション サミット 2012」で講演し、グローバル対応がERPの今後を考える上で重要になるとの考えを示した。さらに「グローバル対応では3つのキーワードが重要になる」と語った。
個別最適をいかに避けるか
1つ目のキーワードは「共通化、標準化」だ。具体的にはグループ会社共通のERP展開と、テンプレートを使った標準化を指す。本好氏は共通化、標準化の事例として花王やカシオ計算機のプロジェクトを紹介した。効率的な共通化、標準化に欠かせないのがテンプレート。海外拠点も含めてERPを共通化する場合は「グローバルテンプレート」が重要になる(参考記事:ERPグローバル展開のポイント「テンプレート」を極める)。
テンプレートは、ERPを構成するインフラからシステム構成、データ構造、ビジネスプロセス、ソフトウェアセット、アプリケーション設定などを定義した情報。海外拠点を新たに設置する場合、このテンプレートを適用すればERPを早期に立ち上げることができる。ビジネスプロセスが決まっているため、他の拠点との連携も容易になる。また、運用管理やサポート、ERPアップグレードの負荷も下げることができると本好氏は話した。
ERPは本来、業務とITシステムの共通化、標準化を得意にしている。しかし、実際のERP導入では部門ごとに異なる要求があり、カスタマイズ開発などで応えてきた歴史がある。結果的に個別最適システムの集合体となっている企業も多い。また、さまざまな業務や部門を抱える企業では共通化にも限界があるだろう。本好氏は「テンプレートによる取り組みは、どのような状況に対しても適切なわけではない」と話し、「企業は何をテンプレートに含めるかを定めたガイドラインを策定する必要がある」とした。
テンプレートの管理も重要だ。管理を怠ると各部門の個別要件が反映されてしまい、全体最適から遠くなる。本好氏は「ビジネス上の重要性と、位置付け、システムへのインパクトの3点に対する正当性をユーザー部門に出してもらうことで変更要求を少なくできる」とアドバイスした(参考記事:心当たりある? ERP選びの失敗事例から学べること)。
2層ERPのメリット
もう1つのキーワードは「適材適所」だ。これは組織や状況に応じて適切なERPを利用する考え方。オンプレミスとクラウドのERPを組み合わせて使う考えや、本社と拠点で異なるERPを利用する考えがある。本好氏は後者の本社と拠点で異なるERPを採用する考えを「2層ERP」と説明し、「評価し、採用しようとする企業が増えている」と話した。2層ERPでは一般的に1層目ではSAP ERP、Oracle E-Business Suiteなどの大規模向けERPを利用し、2層目では国産の身軽なERPやクラウドERPを採用する。これによって2層目のERPを構築するコストを削減し、導入期間も短くできるというメリットがある(参考記事:海外展開する中堅・中小企業が考えるべき「ERP導入 3つのステップ」)。
だが、「2層目は自由放任になるリスクがある」と本好氏は指摘した。拠点や部門の要件が過剰に反映されて2層目のERPが個別最適システムになる危険があるのだ。これでは1層目のERPとの連携が難しくなる。本好氏はこのような個別最適を避ける案として、財務や人事、調達などの共通プロセスについては、1層目のERPを全社で利用し、2層目のERPは販売や生産など子会社特有の業務に対応したプロセスだけで利用する案を紹介した。
非常にホットなタレントマネジメント
3つ目のキーワードは「人材活用」だ。日本国内、日本人を対象とした既存の人事システムでは多拠点、多国籍の人材を活用していくのは難しいと多くの企業が感じている。そのため採用、配置、評価、育成、後継者管理など、グローバルでの人材活用プロセスを実行するための基盤としてERPが注目されているのだ。本好氏は、その中で特に「タレントマネジメントが非常にホットだ」と話した。
タレントマネジメントは社内の人材を可視化し、スキルや経歴などから最適配置を行う。2011年12月にはSAPがSaaSでタレントマネジメントソリューションを提供するSuccessFactorsを買収(参考記事:「SuccessFactors」が実現する日本企業に最適なタレントマネジメント)。それに呼応するように2012年2月には、オラクルが同じくSaaSで人材管理アプリケーションを提供するTaleoを買収した。
ERPに波及するクラウド、モバイル、ソーシャル
本好氏は3つのトレンドを解説した上でガートナーの3つの予測を紹介した。1つは「2015年までに、クラウドによるERPのベストオブブリード指向が進む」。企業はオンプレミスERPの機能を補うためにクラウドの単体アプリケーションに注目している。上記のタレントマネジメントや経費精算アプリケーションなどだ(参考記事:マーク・ベニオフ氏が出資、経費精算を極めた「Concur」の機能を見る)。ユーザー企業はオンプレミスERPとクラウドのアプリケーションを適切に組み合わせて、それぞれのメリットを享受するようになるとガートナーは見ている。
もう1つは「2015年までにビジネスアプリケーション利用の50%がモバイルデバイス経由になる」だ。モバイルデバイス対応についてはSAPやオラクルなどの大手ベンダーが開発を急いでいる(参考記事:全26種、SAPのスマートフォン向け業務アプリの全貌)。また、新興アプリケーションでは標準機能でモバイルデバイス対応しているケースも多い。本好氏はBI(ビジネスインテリジェンス) やワークフローで特にモバイルデバイスの利用が増えると予想。これらの特定用途向けのアプリケーションを配布する「ERPアプリ・ストア」がベンダーなどによって開設される可能性についても指摘した。
3つ目の予測は、「2013年末までに新たなビジネスアプリケーションの75%には、ユーザー体験の向上のためにソーシャル機能が組み込まれる」だ。ガートナーの調査によると20%以上のユーザーはERPの操作性に不満を持っている。この欠点を補うためにベンダーはソーシャル機能を取り込み、操作性の向上を図っている。Facebookなど一般ユーザー向けサービスの使い勝手の良さを参考に、ビジネスアプリケーションのユーザーインタフェースを改良する動きも顕著だ(参考記事:「ソーシャルERP」は仕事に使えるTwitter、Facebook?)。
本好氏は最後にガートナーからの提言として「新興地域、中小組織、個人の力をいかに取り込むかという視点でグローバル(グループ)対応を考える必要がある」などと述べた。
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