AWSからSoftLayerに乗り換えた企業の事例
サポートと転送量で徹底比較、AWS vs. IBM SoftLayer
米IBMが提供するIaaSである「IBM SoftLayer」は、低価格のネットワーク使用料と無料のサポートで「Amazon Web Services」(AWS)の顧客を取り込んでいる。
米IBMがクラウドコンピューティング戦略を見直すために再編しているという報告もあるが、本稿ではIBMが現在提供しているクラウドサービス「IBM SoftLayer」が、最大の競合相手である「Amazon Web Services」(AWS)のサービスにどのように対抗しているかを詳しく比較してみたい。
「IBMもクラウド時代に合わせて戦略を刷新すべく奮闘している巨大テクノロジー企業の1つだ」と語るのは、クラウドコンサルティング企業の米Cloud Technology Partnersで上級副社長を務めるデイビッド・リンチカム氏だ。
「IBMが抱える最大の障害は同社の商品だ。同社はハードウェアとソフトウェアを販売している。同社が販売する全てのクラウドサービスは、実質的に既存の販売基盤の売り上げを減らすことになる」(リンチカム氏)
米Oracleと米Hewlett Packard(HP)も同じ問題に直面している。HPは、クラウドコンピューティングの分野における競争力を上げるため、最近2社に分社化している。「凝り固まった古い企業文化を変えるために、IBMがHPと同様の思い切った行動を取っても不思議はない」とリンチカム氏は語る。
それでも、SoftLayerのIaaSは検討しておくべきだ。
「SoftLayerには良い機能や安価な機能もある。「『SoftLayerについても検討した方がよいか』と聞かれることがあれば、『もちろん検討すべきだ』と答える。ベアメタルクラウドが必要で、ネットワークトラフィックなどにお金をかけたくないといった場合に、SoftLayerは選ばれているようだ」(リンチカム氏)
ベアメタルのパフォーマンスと無料のサポート/データ転送でAWSに対抗
米CloudHarmonyが実施したベンチマークテストによると、ベアメタルクラウドへのアクセスを提供するSoftLayerのIaaSは、パフォーマンスが高く、ネットワーク利用とサポートオプションの価格もAWSに勝っている。CloudHarmonyは、クラウドサービスプロバイダーのサーバインスタンスについて独自のベンチマークテストを実施している。
CloudHarmonyは、8基のCPUコアと32Gバイトのメモリを搭載したIBMのE3-1270ベアメタルクラウドが、同社の主張通り、各ポートにつき1Gbpsという速度のネットワークスループットを達成し、平均スループットが1088.60Mbpsであることを複数のテストで確認した。これはAWSが提供する同等のm3.2xlargeサーバよりもわずかに速い値だ。m3.2xlargeサーバは8基の仮想CPUと30Gバイトのメモリを搭載し、その平均スループットは1028.15Mbpsである。また、E3-1270サーバは僅差だが読み込みのIOPSでもm3.2xlargeサーバに勝っている。E3-1270のIOPSは読み込みが4万8230、書き込みが2万6891だが、m3.2xlargeは読み込みが2万6913、書き込みが3万347だ。
データ分析会社の米Flowは、IBMが提供するベアメタルクラウドのパフォーマンスの高さに魅了され、2013年にAWSからSoftLayerのIaaSに乗り換えた。
同社で最高技術責任者(CTO)を務めるトム・ルクザック氏は、次のように話す。「当社はリアルタイムプラットフォームを取り扱っていた。非常に高性能なネットワーク層とストレージ層が必要だが、当時のAWSのパフォーマンスでは不十分だった」
Flowは、IBM製品の顧客であると同時に、ソフトウェアの売り上げ向上を支援するビジネスパートナーでもある。同社は無料のデータ容量が提供されるIBMのスタートアップインキュベータープログラムを利用してSoftLayerを導入した。現在、同社のデータ規模は拡大し、インキュベータープログラムの範囲を超えため、IaaSの使用料を支払っている。
FlowとIBMの関係は、数十億ドル規模の医療用ソフトウェアメーカーである米IMS HealthとAWSの関係と似ている。IMS Healthは米Microsoftの「Microsoft Azure」から鞍替えする形で、専属のIaaSプロバイダーとしてAWSと契約を結んだ。このパートナーシップはエンタープライズ市場における競争で成功している。
SoftLayerは、リージョン間の無料データ転送と24時間365日の無料電話サポートというサービスでもAWSを窮地に追い込んでいる。このサービスは、問題が診断されてから2時間以内に破損したハードウェアを交換するというものだ。AWSの基本サポートパッケージにも24時間365日のカスタマーサービスは含まれている。だが、12時間以内の応対が保証されるには少なくとも月額49ドルの開発者レベルのサポートを契約する必要がある。
SoftLayerのベアメタルクラウドの幾つかでは、月単位で契約すると、20Tバイトの送信のインターネット通信が無料で利用できる。また、リージョン間のデータ転送も無料で行える。一方、AWSの多くのサービスでは、アベイラビリティゾーン間でデータを転送するには1Gバイトごとに1セントの使用料が加算される。また、リージョン間のトラフィックには1Gバイトごとに2セントの使用料が必要になる。
ただし、AWSはSoftLayerより多くのストレージ容量を無料で提供し、無料の計算処理時間も提供する。また、最初の1年間は、データ転送の最初の1Gバイトが無料だ。これに対してSoftLayerは、無料のネットワークトラフィックと24時間365日のサポートを除けば、インキュベータープログラムに参加していない顧客に無料のリソースは提供していない。
AWSはリザーブドインスタンスを提供しているが、IBMは月単位でベアメタルクラウドを借りるというオプションを提供している。時間単位でも利用できるが、月単位より割高になる。例えば、シングルプロセッサのベアメタルサーバの月額使用料は159ドルだとIBMは主張している。だが、オンデマンドで使用すると1時間当たり0.465ドルで、月額334.80ドルにも上る。
AWSの方が幅広い価格設定を用意しているが、SoftLayerはAWSと低価格競争を繰り広げるつもりはないとSoftLayerの最高経営責任者(CEO)であるランス・クロスビー氏は話す。
同氏は、2014年5月の「Modern Infrastructure」のインタビューで次のように述べている。「当社の売りはコスト効率の高さだが、低価格のリーダーになることをミッションとして掲げているわけではない」
それからSoftLayerは、パブリックネットワーク、プライベートネットワーク、カスタマーポータル、データセンターの空調設備について、サービスレベル契約(SLA)で100%の稼働時間を保証している。これはAWSがSLAで保証している月間99.95%の稼働時間よりも高い値だが、AWSは「Amazon Elastic Compute Cloud」(Amazon EC2)と「Amazon Elastic Block Store」(Amazon EBS)の稼働時間に関するSLAも提供している。一方、SoftLayerは、インスタンスの稼働時間に関しては何も保証していない。
SoftLayerの欠点はプロビジョニングにかかる時間とDNSのオプション
SoftLayerのIaaSにも欠点がないわけではない。SoftLayerのベアメタルクラウドのプロビジョニング時間は、同社が主張している2~4時間を大幅に上回る場合がある。
ソーシャルメディア分析プラットフォームプロバイダーの米MutualMindで製品戦略部門のディレクターを務めるエリック・スウェイン氏は、プロビジョニングに7時間を要したことがあったという。
「当社ではまだ大きな問題になったことはないが、SoftLayerは警戒している」(スウェイン氏)
スウェイン氏の体験について聞かれた際、SoftLayerのCTOであるマーク・ジョーンズ氏は次のように述べた。「そのような異常事態が発生することはある。だが、それは決して当社のサービスの標準ではない」
「AWSに後れを取らないためには、SoftLayerはDNS周りで工夫すべきだろう」とFlow Corpのルクザック氏は指摘する。
「AWSの『Amazon Route 53』が提供する柔軟なヘルスチェックや、その使いやすさと堅牢性がSoftLayerにも備わればと思う。SoftLayerは、いつか必ず実現すると確信している。そうなれば、DevOpsを担当することがある私にとって、SoftLayerは最高のサービスになるだろう」(ルクザック氏)
スウェイン氏やルクザック氏のような顧客はSoftLayerのベアメタルクラウドのパフォーマンスを絶賛している。だが、SoftLayerを評価した1人のAWSユーザーは異なる印象を持っている。
Amazon EC2インスタンスにおけるCPUパフォーマンスの低下は、実際のところはかなり少ない。そう語るのは、米BuildFaxの創設者兼CTOのジョー・エミソン氏だ。同社は、保険会社向けに1億5千万の建築許可証に関する全米のデータをAWSベースのデータベースで維持管理している。エミソン氏は、数値計算向けに最適化されたAWSのC3系列のインスタンスが、BuildFaxで必要なパフォーマンスにぴったりだと感じているという。「さらにAWSは、このサーバをものの2分で提供してくれる」と同氏は話す。
SoftLayerは「OpenStack」との統合とハイブリッドクラウドへの注力についても主張しているが、エミソン氏は、この点を受け入れていない。それは、BuildFaxがAWS環境とOpenStackのプライベートクラウドを米RightScaleのソフトウェアで接続して利用していることが物語っている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
この記事の著者
関連記事
新着ホワイトペーパー PR
-
製品資料
[株式会社キーエンス] なぜRPA導入は頓挫する? シナリオ作成の壁を乗り越える解決策とは -
製品資料
[株式会社セールスフォース・ジャパン] 「CRMは設計と無関係」は本当か? PLMとの融合で実現する高速開発 -
事例
[日本ヒューレット・パッカード合同会社] AIエージェントの時代にどう備える? 「新たな働き手」を支える3要素とは -
製品資料
[日本ヒューレット・パッカード合同会社] “横並びの自動化”から脱却、AI活用で生産性と競争力を高める秘訣 -
製品資料
[サイボウズ株式会社] AIが「わざわざ使うツール」になっていない? 業務で自然に使う導線にする秘訣
こんなメディアも見られています
TechTargetジャパンに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
ベンダーコンテンツ PR
From Informa TechTarget
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
なぜ「全社配布Copilot」は使われないのか? 失敗に学ぶAI定着
-
2
法務と開発者で「言葉が通じない」問題 トヨタやソニーが語るOSS管理の真実
-
3
ChatGPTは“検索しまくり”でGeminiは“淡泊”? データが明かすAIの裏側
-
4
なぜ「Gemini 4 Argon」は出遅れたのか? Googleが狙う“逆転のシナリオ”
-
5
「中堅・中小企業のネットワーク・セキュリティ運用実態」に関するアンケート
-
6
損保ジャパンはなぜ「COBOL」を捨てなかったのか? 脱メインフレームの真相
-
7
「Wi-Fi 7」経由でWindowsが乗っ取られる? 最高権限奪取の恐怖
-
8
情報漏えいはなぜ繰り返されるのか 今すぐ見直すべき「境界」
-
9
情シスの約8割が転職や退職を意識 調査で分かった“辞めたくなる最大の理由”
-
10
【漫画付き】ひとり情シス協会が明かす、RAG導入でしくじる企業「2つの共通点」
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
不審メールの経路や見せ方に変化? 2026年夏の3事例から見えた動向と対処方法
-
2
家庭用Wi-Fiルーターの業務利用は危険? 避けるべき理由と具体的な対策
-
3
Microsoft 365を安全に運用 うっかりミスやサイバー攻撃に備えるデータ保護術
-
4
財務部門がAIを最大限に活用する方法 無駄のない戦略的リーダーシップへの道
-
5
LLMが兵器化? 元FBI高官が鳴らす警鐘とセキュリティツール統合のポイント
-
6
「オンプレミス回帰」せざるを得ない“合理的な理由”
-
7
なぜRPA導入は頓挫する? シナリオ作成の壁を乗り越える解決策とは
-
8
生成AIを開発に導入しても効果が見えない? 実証実験で分かった成果と課題
-
9
経産省DX指針から読み解く、受発注業務デジタル化ロードマップ
-
10
HDDを使わない「SSDオンリー」が無謀なのはなぜ?
TechTargetジャパン SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechTargetジャパンをフォロー