CIOの知恵袋:SAP ERP運用編
SAP ERPで実現する連結経営の勘所
企業の実態は今や連結ベースで見られることが多くなった。激化する競争環境の中で、リアルタイムな予実管理も求められる。SAP ERPによる高度な連結経営管理の構築方法を解説する。
連結経営管理の必要性
連結決算が義務付けられ、連結財務諸表が企業の業績を評価する主体となってから、はや10年が経過した。企業は、グループレベル、グローバルレベルで、連結ベースの業績を評価し、財務状況を管理することが求められている。それも従来の四半期、年次といったサイクルから、月次、週次、あるいは日次といったスピードが求められることもある。
さらに近年大きな話題となっているIFRS(International Financial Reporting Standards、国際財務報告基準、国際会計基準)は財務報告に関する基準で、開示要請に応えるための連結上の対応が必要な項目も多い。加えて、IFRSの根幹思想であるマネジメントアプローチについては、先行して日本基準にも導入され、企業はこれまで以上に、連結ベースでの制度開示と管理会計、またはこれに基づく経営管理に重点を置く必要が出てきた。
このような時代の要請に応えつつ、企業が継続的、効果的に経営管理のサイクルを回し、成長していくためには、拡張性、柔軟性に富んだ連結システムが欠かせない。今回は連結経営管理の効率化、高度化を実現するためのSAPソリューションと、その関連においてERP導入における要所となる論点について考えてみたい。
SAPが提供する連結経営管理ソリューション
SAPが提供する経営管理(Enterprise Performance Management、以下EPM)ソリューションの1つとして、「SAP Business Objects Financial Consolidation(以下BOFC)」が挙げられる。BOFCは主に欧州での導入実績が豊富な連結システムであり、IFRSの制度会計処理に対応する「IFRS Starter Kit」を利用することで、企業はスピーディにIFRSに対応できる。さらに、日本の会計基準および連結実務に合わせ機能を補完するソリューションも用意されている。
制度連結に対応できることは当然だが、BOFCは管理連結にも強みを持つ。データを管理する軸(切り口:製品別・顧客別など)は最大22軸を追加可能であり、経営管理の要望に応えるデータを収集し、蓄積できる。さらに、同一の元データを利用して、開示用と管理用の異なる集計を同時に行い、実績データを予算策定に引き継ぐなど、柔軟なデータ構造を利用した制管一致ベースの仕組みを構築していくことも可能である。
もう1つ今回取り上げたいのは、「SAP Business Objects Financial Information Management(以下、FIM)」である。これを利用することでERPから各種データを自動連携させることが可能となる。FIMを使ってSAP ERPとBOFCをつなげれば、制度連結に必要な財務諸表データはもちろん、各種業績管理情報についても効率的に収集し、これをグループ経営管理に活用していくことが可能となる。
次にBOFC、FIMそしてERP導入に置いて留意すべき点を、筆者の経験を交えながら紹介しよう。
SAPのIFRSソリューションについての記事
BOFC側で意識すべきこと
BOFCは貸借対照表(以下B/S)を中心にその増減を「フロー」としてとらえる「資産負債アプローチ」に基づいて作られているため、B/Sの増減項目である「フロー」の定義が重要である。キャッシュ・フロー計算書や固定資産増減明細の開示などに必要なフローと勘定の組み合わせを早い段階で洗い出し、連結各社へ報告を要請する必要がある。各社がSAP ERPを利用するのであれば、ERP上に、当該フロー情報を保持するように設計を進めていくのが良いだろう。
IFRSと日本の会計基準(以下JGAAP)の両基準連結をどのように実現するかについてもBOFC導入時の論点となる。ERP側のIFRS数値の持ち方として、単一元帳と複数元帳の議論があるが、BOFCにおけるデータの持ち方は、JGAAPを基軸に、IFRSを差額で把握する方式が一般的である。差額方式で保持することで、両基準共通の数値に対して二重持ちを避けるメリットがある。
管理連結の要件をどのように整理するかについても重要な要素となる。業績管理の軸として、どのレベルで評価を行うのか(製品軸、事業単位軸)など、データの切り口をあらかじめ定義しておく必要がある。また、予算や見込みの連結をどのようなサイクル、レベルで行うか、実績からのデータの引き継ぎをどうするかなども検討する必要がある。
ERP側で意識すべきこと
SAP ERPからは、いかにシンプルにデータをBOFCに提供するかが連結経営管理の効率化に当たっての欠かせないテーマとなる。連結処理にかかわる膨大な親会社への報告データのうち、自動で連携できる項目が増えれば、決算スピードの向上、精度の向上、管理レベルの向上といったメリットが大きくなるからだ。
効率的に進めるためには、できればSAP ERPの構築(およびIFRS導入のための改修)と、BOFC導入は並行して進めたい。むしろ、BOFC導入の要件定義部分を先行して行い、開示およびマネジメントからの要件をERPの構築に反映させるというのが最も効率的な進め方であろう。
IFRSとJGAAPの両基準のデータをどのように保持するかについては、ERP側の論点として、複数元帳機能を利用するか、単一元帳で差額を把握する方式とするかが判断のポイントとなる。JGAAPのIFRSへのコンバージェンスが進んでいる現状を考えると、単一元帳+差額方式でも運用に耐えられるという判断をする企業も少なくない。
グループ全体で連結経営管理のスピードと質の向上を実現していくためには、グループ統合基盤としてERPを導入し、グループ各社が統一されたプロセスとデータにてオペレーションを行うことが最も効果的なアプローチであると考える。当然、勘定コードの統一や得意先コードの統一など、連結へのデータ連携において必要な正規化が行われるべきである。
ERPとEPMが一体となった取り組み
ERP導入に当たっては、連結経営管理で求められる要件をマスターデータ設計のインプット項目として確実に認識し、消化すべきだ。そうすることで、ERP構築後のステージにおいて、将来のIFRS強制適用などで生じるシステムへの要求事項に対して柔軟に対応できる。
IFRSの動向はいまだ不透明な部分が大きく、強制適用時期の延期に伴い、IFRS適用だけを目的としたシステム導入・刷新は「様子見」とする考え方も出てきている。だが連結経営管理の効率化、高度化は待ったなしで遂行すべき経営のテーマでもある。連結経営管理の目指すべき姿を描きつつ、EPMおよびERP導入を「一体の取り組み」として推進していくことが求められる。双方の仕組みと役割を理解し、企業が求める経営管理のモデルに合わせたシステム導入を進め、かつ柔軟性・拡張性を確保する必要もある。適切なパートナーとともに、このチャレンジングな取り組みを推進されることを検討してほしい。
伊藤武晴
アクセンチュア株式会社
テクノロジー コンサルティング本部 SAPビジネスインテグレーショングループ シニア・マネジャー
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