“幻滅期”のクラウド市場
「クラウドが何か」の議論はもういい――可用性99.9%のシステムは実践あるのみ(1/2 ページ)
「クラウドとは何か」が語られ続けて10年がたとうとしている。現在、国内企業のクラウド導入の実態はどうなっているのか。ガートナーの情報を基に、クラウド導入の現状、今後の議題をレポートする。
2006年に「クラウドコンピューティング」という言葉が浮上してから10年がたった。技術のライフサイクルでいえば、クラウドは現在、5年来の「幻滅期」だという。クラウドを導入しても思ったほどITのコストが下がらない、柔軟性が高まらない――ユーザーの膨らんだ期待がしぼんでしまったのだ。ガートナー ジャパンは2016年4月末に「ITインフラストラクチャ&データセンター サミット2016」を開催した。ガートナー リサーチ・バイス プレジデント兼最上級アナリストの亦賀忠明氏の講演をレポートする。
亦賀氏は「どんな技術も普及する過程で幻滅期はある。その技術がもたらす効能を冷静に見つめ、本物とニセモノを見極める上で健全なことだ。中長期的にはクラウドが普及していくのは間違いない。『クラウド化すべきか』という、10年も続く議論は早く終わらせ、次の議論に向かうべきだ」と主張する。
現実は、「クラウド化」は緒に就いたばかり
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ガートナーは、2つのモード(流儀)でITにアプローチする「バイモーダル」を提唱している。このアプローチはクラウド導入にも使える。既存システムをクラウドに移行し、従来通り堅く運用する「モード1」と、クラウドを含む先端ITを駆使してビジネスをまわし、変化に柔軟に対応する「モード2」に分けられる。亦賀氏の言わんとするのは、モード1は基本として実践し、早くモード2へ踏み出そうということだ。
ただ現実、多くの企業はモード1(既存システムのクラウド化)の緒に就いたばかりだ。ガートナーの年次調査によれば、国内企業のクラウド導入率(クラウド形態別導入率の平均)は2016年2月段階で16%である。2012年は10%だったので遅々とした伸びであることを考えると、5年来の幻滅期というのもうなずける。
企業の大勢は、情報収集や“疑似”クラウド(サーバ仮想化やアウトソーシングなど)の段階にあり、クラウド化したといっても単一システムの場合が多い。戦略的なクラウド展開を目指していたり、モード2でクラウドを活用していたりする企業は少数のようだ。いま一度、モード1の議論を整理してみる必要がある。
クラウドの本質を持つサービスを選ぶ
先の年次調査でクラウド形態別に導入率を見ると、プライベートの24%(2012年は20%)に対し、パブリックのIaaS( Infrastructure as a Service)が16%(9%)、PaaS(Platform as a Service)が17%(11%)である。現状ではプライベートが優勢だが、伸び率ではパブリックが高い。また、ハイブリッドが13%(5%)、パブリック上にプライベート空間を作るホスト型プライベートも15%(9%)あり、プライベートを運用するにもパブリックと連係する、基盤とするケースは増えている。
実際、数十社のベンダーが参入する(パブリック)IaaSは選択肢が豊富だ。もちろん、ガートナーの「マジック・クアドラント」(ベンダーの実力を4象限マトリクスで分析するもの)でも数年来、「Amazon Web Service」(AWS)がダントツの「リーダー」に位置付けられる。亦賀氏も「AWSのビジネスモデルはオンラインリテールのもの。他社はまねできない」と話す。それでも同調査のベンダーシェアを見ると、AWSが抜きん出ているわけではなく、他社も健闘していることが分かる。
同調査ではIaaS選択のポイントも訊ねている。2016年のトップは2012年と変わらず「プロバイダーによる本質理解」だった。コスト要因(「他社と比べて安い」)は8位と意外に優先順位が低い。サービスが乱立する中でユーザーは依然、「クラウドとは何か」と模索していることの証左だろう。「クラウドとは標準サービスで構成され、かつインタフェースのAPIを提供するもの。そして実体として、先進的な仕掛けのある潤沢なインフラ資源を持つ。この本質から外れるサービスは今後、淘汰されていくだろう」(亦賀氏)。やはり本質を突いたサービスを選びたいものだ。
既存システムのクラウド化は“梅”から
次にクラウド化の方法論を見ていこう。亦賀氏は既存システムの棚卸しが重要だと指摘する。ここでいう棚卸しとは、可用性の要件を基準に既存システムを「梅・竹・松」で仕分けするものだ。例えば、梅のシステムは可用性が99.9%(スリーナイン)、竹は99.99%(フォーナイン)、松は99.999%(ファイブナイン)と分ける。この場合、梅はすんなりクラウドに移行できるだろう。IaaSは通常、スリーナイン程度の可用性は確保しているからだ。代表的なAWSの「Amazon EC2」は99.95%の可用性を保証する。
棚卸しによって、クラウド化しやすいところから手を付ける。それもバラバラに移行するのではなく、梅のシステムをグループ化・最適化してから移行するのが、コスト削減には効果的だという。竹(フォーナイン)のシステムでも要件を見直して緩めれば、梅グループに加えられる。もちろん、可用性だけでなくセキュリティ要件なども加味し(IaaSでもユーザーレイヤーのセキュリティは自前で確保する必要がある)、総合的に判断する必要がある。
可用性を堅持する竹・松のシステムでは、別の方法を探らなければならない。カスタマイズ対応をうたうマネージドクラウドなら冗長化などの個別対応で要件を満たすかもしれないが、注意が必要だ。亦賀氏は「明確な標準サービスと個別対応の二階建てが望ましい。個別対応の中に標準サービスが埋もれ見えなくなるサービスは、従来のシステムインテグレーション(SI)やアウトソーシングと変わらず、コストが高くつく」と指摘する。また、プライベートやオンプレミスも選択肢の1つだが、統合システム(ハイパーコンパージドシステム)によって短期導入を図るといった工夫が求められるという。
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