何ができる? ストレージ仮想化【第1回】
ストレージを仮想化する仕組みとメリットを知る
昨今、サーバ仮想化技術が大きな注目を集めているが、一方でストレージ仮想化となるとまだ耳慣れない感が否めない。そもそもストレージの仮想化とは何をどうするもので、どのようなメリットがあるのだろう?
広く適用される仮想化技術
仮想化技術は今日、企業のITシステムにおいて重要なポジションを占めつつある。従来は、メインフレームを中心に構成されたレガシーシステムの刷新に伴い、「分散化」によるオープン環境への移行が大きなトレンドになっていた。しかし昨今では、サーバ統合やインフラ統合といったキーワードが多く聞かれるようになり、分散化とは逆の「集約化」が見直されつつある。そうした中、既存の物理サーバ環境を仮想マシン上に移行して集約する「サーバ仮想化技術」が大きな注目を集めており、製品化や実際の導入も進んでいる。
さらに仮想化技術は、サーバ以外にもインフラ分野を中心に多岐にわたって応用されている。例えば、「ネットワークの仮想化」や「ストレージの仮想化」がこれに該当する。本稿では、これらのうちストレージ仮想化について取り上げ、その仕組みや導入効果などについて考察していく。
第1回では、まず今日のストレージ領域を取り巻く環境について解説し、続いてストレージ仮想化の概要とメリットについて述べる。
企業のストレージ環境を取り巻く状況
今日の企業システムにおけるストレージ基盤は、以下のような状況に直面している。
爆発的に増加するデータ量
情報システムの浸透と高度化に伴い、企業が抱えるデータ量は飛躍的に増加している。プラットフォームのオープン化の進行とともにサーバ台数も増加し続け、ERPやBIの導入によって経営情報管理の高度化も進んでいる。このような、情報システムの規模と適用範囲の拡大によって、システムで処理・管理するデータ量は年々増え続けている。情報システム上でやりとりされるコンテンツも、今やテキストデータだけではなく画像、音声、動画と多様化しており、個々のデータの容量も増大している。
また、情報漏えい防止や災害対策、法令順守(コンプライアンス)などのビジネス要件に対応するため、ITシステムでは「アクセスログの取得」「バックアップの強化」「メールのアーカイブ」など、データの長期保存を伴う施策を打つ必要が出てきた。こうしたトレンドも、企業システムにおけるデータ量増加の一因となっている。
加えて、新しい技術の普及も背景にある。2次元バーコードやRFIDなど、ICチップを応用したデータ管理技術の普及に伴い、より細かな商品データが収集されるようになっている。米Wal-Martが大々的に導入し、取引先への展開も積極的に推し進めているICタグによる商品管理が代表例である。物流などの業種では、ICタグの利用は今後さらに進むことが予想される。
以上のような要因により、企業システムで処理・管理するデータの量は爆発的に増加してきているのである。
多様なストレージ製品と複合化する利用環境
ストレージ製品には多くの種類があり、それぞれ利用する記憶媒体やシステムへの接続形態に違いがある。オンラインを前提としたディスク装置には、サーバ筐体に内蔵されるHDDや、サーバと直接接続するDAS(Direct Attached Storage)、ネットワーク上で用いられる専用のストレージデバイスやファイルサーバ機能を搭載したNAS(Network Attached Storage)がある。
ディスク以外では、磁気テープを利用したテープライブラリがあり、バックアップ用途の記憶媒体として最も広く普及している。また、DVD-R(RW)などの光ディスクを利用したバックアップ装置も存在する。
このようにストレージ製品には実に多様な形態があり、また各ベンダーによって個別に製品化されていることから、今日の市場には非常に多くの種類の製品が存在している。
今日の企業では、これら多種多様なストレージ製品を複合的に利用しているケースが多い。しかも多くの企業では、部門ごとの縦割り型のシステム構築・運用が依然として一般的であり、またストレージ基盤は各プロジェクト単位で設計されることから、全社的かつ長期的な視点に立ってストレージ環境の構築・維持・改善が行われることはめったにない。
企業によっては、調達元のベンダーを一本化することで企業システム環境の煩雑化を防ごうとしているところもある。しかし、逆に特定ベンダーへのロックインにより生じる弊害を懸念し、プロジェクトを立ち上げるごとにベンダーを新たに選定し直すという企業も少なくない。そのような場合、全社的に見ると異なるベンダーの多種多様なストレージ製品が混在しており、システムの規模が拡大するにつれて管理が難しくなってくる。
こうした背景から、今日の企業システムにおけるストレージ基盤では、TCOの削減、あるいはストレージリソースの最適な配分が重要なテーマとなる。このような課題を解決する技術として、ストレージ仮想化が今注目を集めているのだ。
ストレージの仮想化とは
ネットワーク上でストレージを共有
前述の通り、仮想化技術の中でもサーバ分野には、今日多くの注目が集まっている。サーバ仮想化に関する情報はメディアなどで多く提供されていることから、ユーザーの理解度はかなり高まってきているものとみられる。
一方、ストレージの仮想化となると、その注目度や理解度はサーバ仮想化と比較すると依然低いと考えられる。ストレージの仮想化は、サーバの仮想化とは基本的な概念に違いがあるため、注意が必要だ。単純なモデルで概念を説明すると、サーバ仮想化とは、1つの物理マシン上で複数のサーバを仮想的に構築することを指すのが一般的である。これに対してストレージ仮想化は、複数の物理ストレージ(ディスクアレイ)を仮想的に統合し、1つの論理ストレージ(ストレージプール)を構築することを指す。
なお、HDDの分割(パーティショニング)やRAIDといった古くからある技術も、ストレージの物理的な構成とは異なる論理構成を作り出すという点では、仮想化技術と呼べなくもない。しかし、今日一般的にストレージの仮想化と呼ばれるものは、ストレージのネットワーク化を前提としている。ストレージのネットワーク化とは、DASのようにサーバマシンにストレージデバイスを物理的に1対1で接続するのではなく、ネットワーク上にストレージデバイスを設置し、複数のサーバで共有することを可能にする仕組みのことである。
パーティショニングやRAIDといった従来の仮想化技術が、ディスクコントローラーやRAIDコントローラーが制御できる範囲内でしか仮想化を行うことができなかったのに対して、現代のストレージ仮想化技術はネットワークを介して多種多様なストレージを包括的に仮想化することができるのである。
ネットワークには、ストレージ専用のネットワークを構築する方式や、既存のネットワークを利用する方式が存在する。ストレージ専用のネットワークを構築する仕組みは、SAN(Storage Area Network)と呼ばれている。SANではファイバーチャネルや、既存のイーサネットLANを用いるiSCSIなどの方式によりストレージ専用のネットワークを構築し、そこにストレージデバイスを接続する。本来、SANという言葉はこのストレージ専用ネットワークのことを指すが、SAN上に接続されるストレージデバイスを含めたストレージシステム全体をSANと総称することもある。
一方、既存のネットワークを利用する方式では、NAS(Network Attached Storage)と呼ばれるストレージデバイスが用いられる。NASではストレージデバイスにファイルシステムが搭載されているが、SANで用いられるストレージデバイスには通常搭載されない。
ブロックレベルとファイルレベル
ストレージ仮想化の方式を「ブロックレベルの仮想化」と「ファイルレベルの仮想化」の2種類に分類することがあるが、前者がSAN、後者はNASにおける仮想化の仕組みを指している。
ブロックレベルの“ブロック”とは、HDD上の物理的な位置に相当する。ブロックレベルの仮想化では、複数のストレージデバイス上に散在するブロックをまとめて単一の論理ボリュームとし、サーバやアプリケーションから利用可能にする。この論理ボリュームのことを「仮想ボリューム」と呼ぶ。各サーバからは、通常のファイルシステムを通じて仮想ボリュームにアクセスすることができる。ただし、ブロックレベルの仮想化では、特定の仮想ボリュームを利用できるサーバは1台だけである。
一方、ファイルレベルの仮想化では、単一のストレージ領域を複数のサーバやアプリケーションで共有することができる。そのために、ファイルレベルの仮想化を実現する製品は、各種サーバOSのファイルシステムの違いを吸収する仕組みや、同時アクセスの排他制御などの仕組みを備えている。
ストレージ仮想化技術が実用化される以前は、SANを構築してストレージデバイスを専用ネットワーク上に集約したとしても、各サーバやアプリケーションと各ボリュームは1対1の関係のままであり、複数のストレージデバイスにまたがったストレージ容量の割り当てはできなかった。ストレージ仮想化とは、こうした物理的な制約を解消する手段であるともいえる。言い換えると、ストレージリソースを一元的に管理する上では、ネットワーク化による物理的な統合と仮想化による論理的な統合の両方を行う必要があるということだ。
ストレージ仮想化のメリット
では、実際にストレージ仮想化を導入することにより、どんなメリットが得られるのだろうか。
ダイナミックなリソース配分
ストレージ仮想化のメリットと目的を一言で表現するなら、「ストレージ環境の“柔軟”かつ“効率的”な管理」といえる。前述の通り、企業のITシステムが肥大化・複雑化していくに従い、各システム(あるいはサーバ)間でストレージ容量の過不足が発生する。例えば、あるアプリケーションでは常にストレージ容量不足に悩まされている一方、別のアプリケーションでは未使用のストレージ領域が大量に存在している、といった具合だ。
さらに、サーバ仮想化技術が普及するに従い、仮想サーバ間でのストレージリソースの過不足という事態も発生しつつある。物理サーバ間、あるいは仮想サーバ間で柔軟かつダイナミック(必要に応じて都度調整が可能)にストレージリソースを配分できる仕組みが必要とされており、ストレージ仮想化はまさにその役割を担うものなのである。
ILMの実現によるTCO削減
また、ストレージ環境の効率化という面でいえば、「ILM」(Information Lifecycle Management)というキーワードがポイントになる。企業によっては、ストレージ仮想化導入の目的がILMの実現というケースもあるだろう。
ILMとは、情報(データ)の作成から廃棄(削除)までのライフサイクルを、それぞれのデータの価値に応じて段階的かつ最適な手法で管理するという概念を指す。増え続けるデータを、最小限のコストで最適なストレージに確実に格納することを目的としている。例えば、重要かつ頻繁に利用され、高い処理能力が必要となるシステムのデータは高性能なオンラインストレージに保存し、利用頻度が低く重要性がさほど高くないシステムのデータについては安価なストレージ上に保管するといった具合だ。このように、データの利用方法や重要度に応じて保管先のストレージを変えることで、ストレージ基盤におけるTCOを削減することができる。
事業継続やグリーンITへの貢献
ストレージ仮想化を実現する製品の中には、スナップショットなどのバックアップ機能を搭載しているものも存在する。複数ベンダーのストレージデバイスが混在する環境であっても、それらを仮想化して一元管理しておけば、バックアップも一元的に実行・制御することができる。バックアップの効率が上がる点は、昨今企業において本格化している事業継続や災害対策の面からもメリットがあると考えられる。
また、昨今では環境問題が大きく取りざたされており、「グリーンIT」というキーワードを頻繁に耳にするようになった。ストレージ仮想化は、ストレージ統合によるデバイスの台数削減や、仮想化によるストレージリソースの有効活用で消費電力量や放熱量の削減を見込めるため、グリーンITの観点からもメリットを見いだすことができるだろう。
次回は、ストレージ仮想化を実現する方式や各関連ベンダーの動向など、具体的な仕組みや製品について触れる予定だ。
<筆者紹介>
雪嶋貴大
株式会社アイ・ティ・アール アナリスト
南山大学経済学部卒業。
ユーザー企業にて情報システム部門の業務に携わった後、2005年にアイ・ティ・アール入社。幅広い分野にわたってリサーチおよびコンサルティング業務に従事する。
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