目的別に選ぶシンクライアント【第3回】
シンクライアントが抱える課題と来るべき姿
シンクライアント導入を検討する際には、シンクライアントが現状抱えている課題やほかのソリューションも考慮に入れる必要がある。また、将来を考える上では、仮想化技術との融合が鍵を握ることになりそうだ。
本連載の最終回となる今回は、シンクライアントが抱える課題とその将来像について述べていくことにする。
シンクライアントが抱える課題
クライアントPCの管理コスト軽減や情報漏えい防止など、さまざまなメリットを持つシンクライアントだが、導入や運用に際しては下記のような課題も存在する。
導入コスト
前回「シンクライアントの導入検討、これだけは知っておきたい」で述べたように、シンクライアント導入に際しては、既存のクライアントPCの置き換えやサーバ側リソースの増強が必要になる場合がある。そのため、初期導入コストがネックとなることが多い。
しかし、既存のクライアントPCを置き換えることなく、そのままシンクライアント化できるソリューションも登場しており、今後も導入コストを削減できる技術やソリューションの登場が期待される。
既存アプリケーションの動作保証
特に画面転送型シンクライアントの場合には、利用するアプリケーションがマルチユーザー対応になっている必要がある。最近では、主要なアプリケーションはおおむねマルチユーザー対応になっているので大きな問題にはならないが、独自開発したアプリケーションや業務特化型の特殊なアプリケーションを利用している場合には注意が必要である。
大量リソースやリアルタイム性が必要なアプリケーション
大量のCPUパワーやメモリリソースを必要とするCADや、リアルタイム性を必要とするIP電話などは、サーバ側に処理を集中させるシンクライアントではサーバに掛かる負荷が非常に大きくなるため、苦手とする分野である。ただし、一時的なキャッシュメモリをクライアント端末側に持たせたり、NECのシンクライアント端末「US100/110」のようにIP電話用のモジュールを端末に搭載するなどの手法で、ある程度は対処することが可能だ。
自社のアプリケーション利用状況を正しく把握し、もし上記のようなタイプのアプリケーションを使用している場合は、適切な対処方法を持ったシンクライアントソリューションを選択する必要がある。
オフラインとマルチデバイスへの対応
多くのシンクライアントソリューションは、クライアントとサーバのネットワーク接続が維持された状態を前提としている。しかし最近では、モバイル環境で利用可能なシンクライアントも登場しており、シンクライアント活用の場は社内だけでなく社外へと広がりつつある。そのときに重要となるのが、サーバとの接続が切れた状態、すなわちオフライン時の対応である。この点については、今後の解決すべき課題として残されている。
また、オフラインと並んでモバイルでのシンクライアント活用に欠かせないのが、マルチデバイス対応である。モバイル環境で利用する機器はノートPCだけではなく、今後はスマートフォンなどの携帯端末も普及していくと予想される。しかし現時点(2008年11月)では、PC以外の端末を含むマルチデバイスでの利用を前提としたシンクライアントソリューションは、まだ登場していない。
ほかのソリューションとの比較
クライアントPCの管理コスト軽減や情報漏えい防止といった効果は、何もシンクライアントの専売特許というわけではない。それらを実現するソリューションは、ほかにも存在する。ここでは、昨今注目を集めているほかのソリューションとシンクライアントを比較検討してみることにする。
UTMアプライアンスとの比較
中堅・中小企業を中心に、「UTM(Unified Threat Management)アプライアンス」のニーズが高まっている。社内で利用するクライアントPCのみを情報漏えい対策の対象とするのであれば、外部ネットワークとの出入り口にUTMアプライアンスを設置し、セキュリティを強化する方法が有効である場合も少なくない。特に、社内システムの規模が小さい場合は、シンクライアントと比較して大幅に導入コストを抑えられる可能性がある。
Windows Steady Stateとの比較
UTMアプライアンスだけでは、メールの誤送信や不正なWebアクセスに起因する情報漏えいは防止できるものの、USBメモリによってクライアントPC内のデータが社外に持ち出されることに起因する情報漏えいなどには対応できない。また、クライアントPC管理コストの削減効果は期待できない。
そこで有用なのが、マイクロソフトから無償で提供されている「Windows Steady State」だ。本来は、学校などで複数ユーザーが共有するクライアントPCを初期化するためのツールであるが、これを利用してクライアントPCのローカルHDDへのデータ保存に制限をかけることが可能だ。Windows環境の場合、本来はそうした細かい制御はActive Directoryを利用して行うものだが、Windowsドメイン管理が負担となる中堅・中小企業や部門内のワークグループ利用では、Windows Steady Stateの導入を検討してみる価値があるだろう。
ほかのソリューションと併せて検討
このように、シンクライアントと似たようなソリューションを実現するツールや機器も登場してきている。少々逆説的ではあるが、シンクライアントの導入を検討する際には、クライアントPCの管理コスト削減や情報漏えい防止といった本来の目的と、自社のクライアントPCの運用状況を踏まえ、シンクライアント以外の対策も併せて検討することが重要である。
シンクライアントの将来
以上で見てきたように、シンクライアントは大企業を中心に本格導入が始まり、ユーザーの期待も高まっているが、同時に課題も少なくないといったところが現状である。では、シンクライアントは今後どうなっていくのであろうか?
BCP対策としてのシンクライアント
まず、ビジネスニーズの観点ではBCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)対策の訴求が有効であると考えられる。クライアントPCのHDD故障によるデータ喪失は、ユーザー企業の業務効率を低下させる大きな要因となっている。サーバ側のデータはバックアップしていても、クライアントPC内のデータは個々の社員の管理に任せてしまっている企業が多い。シンクライアントの導入によりこうしたデータ喪失を防ぐことができると同時に、クライアントPC管理のコスト削減にも大きく寄与することは言うまでもない。
仮想化技術が秘める大きな可能性
製品面においては、仮想PC型のシンクライアントソリューションと仮想化技術との融合が注目すべき動きである。ヴイエムウェアが2009年中に提供を開始する予定の「VMware View」がそれである。
VMware Viewでは、クライアント端末上に仮想化ハイパーバイザーを搭載する。サーバとネットワーク接続された状態では仮想PC型シンクライアントとほぼ同じ動作をするが、必要に応じてOSとアプリケーションによる仮想デスクトップ環境をサーバ上からクライアント側のハイパーバイザー上に取り出すことができる。オフライン時にはそのような状態で仮想デスクトップ環境をスタンドアロンで利用し、次にオンラインになった時点で仮想デスクトップ環境を再びサーバ側へ戻すのである(図1)。
仮想化技術を導入することで、既存のクライアント環境をさまざまな種類のシンクライアント端末上で利用することも可能となる。ハードウェアの違いを、ハイパーバイザーが吸収してくれるのである。
つまり、現在のシンクライアントが抱えている導入コスト、オフラインへの対応、マルチデバイスへの対応といったさまざまな課題を、まとめて解決できる可能性を秘めているのである。
仮想化技術によるITリソース管理の未来
このように、シンクライアントは仮想化技術と融合することによって次の世代へと進化しようとしている。仮想化技術はサーバ、ネットワーク、ストレージといったほかのITリソースにおいても重要なトピックとなっている。今後は仮想化の観点で、ITリソース全体の管理をトータルに見つめ直す機会が増えることは間違いない。その一環としてシンクライアント導入を検討するという一段高い視点を持つことが、将来を見据えたシンクライアント導入成功の秘訣であるといえるだろう。
以上、本連載では全3回にわたってシンクライアントの最新動向と将来について解説をしてきた。本連載が今後のシンクライアント活用の一助となれば幸いである。
<筆者紹介>
岩上由高
株式会社ノークリサーチ シニアアナリスト
早稲田大学大学院理工学研究科数理科学専攻修了。
ソフトウェアベンダー数社でソフトウェア製品の企画、設計、開発、コンサルティング、トレーニングなどに携わった後、ノークリサーチに入社。シニアアナリストとしてITのさまざまな領域の調査・分析に従事し、その成果を記事執筆やコンサルティング活動を通じて積極的に発信している。
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