ビッグデータ活用のためのBIシナリオ【後編】
【事例】「意思決定に貢献する」データ活用法とビッグデータ活用に必要なスキル
ビッグデータブームに惑わされることなく、自社のデータ分析を成功に導くためにはどうすればいいか。求められるデータ活用手法の視点とスキルをガートナーの講演を基に紹介する。
前編「【市場動向】企業システムの変遷に見るビッグデータ潮流の背景」では、現在のビッグデータブームの背景を、「ガートナー ビジネス・インテリジェンス&情報活用 サミット 2012」(2012年7月)でガートナー リサーチ バイスプレジデント 堀内秀明氏が語った内容を基にまとめた。企業内システム構築の変遷から浮かび上がったRDBMSのパフォーマンス問題と、Googleの躍進による速くて安いテクノロジーへの注目。この2つの要素が現在のビッグデータブームに火を付けたと堀内氏は考察している。
しかし、ビッグデータと一口に言っても、そのデータの種類はさまざまだ。企業は一体どのような種類のデータを、どのような指針に基づいて活用すればいいのだろうか。そして社内のデータを活用・分析する部門にはどのようなスキルが求められるのだろうか。「砂金探し」ともいわれるビッグデータ活用(関連記事:高まるDWHへの投資意欲、「砂金探し」のビッグデータ活用を成功させるには)を成功に導くための手掛かりとして、後編ではそれらをまとめる。
データはあくまで素材。意思決定者のニーズにフォーカスせよ
まず、前編でも紹介したガートナーのビッグデータの定義をあらためて紹介する。ビッグデータの定義は、「高度な洞察や意思決定を行うために、コスト効果が高く革新的な情報処理プロセスを必要とする大量・高速・多様な情報資産」である。
新たなテクノロジーの登場により、これまで利用することができなかったデータを分析できるようになった。しかし、「データを使えばすなわち良質なインテリジェンスが得られるわけではない」と堀内氏は指摘する。
「データはあくまで素材。素材からインフォメーション(情報)に変えていくために、テクノロジーは存在する。そして、この情報をインテリジェンスにするためには、意思決定者のニーズに合致している必要がある」(堀内氏)
人間が1つのデータをそのまま参照しても、意思決定に貢献できることはまれである。一般的には、大量のデータに対して検索処理や集計処理を施すことによって初めて、そのデータは一定の意味を持つ情報となる。しかし、どれほど手間を掛けて作成された情報であっても、意思決定者が必要としていない、あるいは必要性を見いだせないのであれば、重要な意思決定に貢献することはできない。「『どんなデータを使ったら意思決定に貢献できるのか』。これを一気通貫で考えていく必要がある」と堀内氏は指摘する。
データからインテリジェンスを生んだビッグデータ活用事例
では、「インテリジェンスを生み、意思決定に貢献するデータ」とは何か。堀内氏はそれを示すために、ビッグデータ活用事例を幾つか紹介した。
意思決定のために原価計算処理時間を大幅に短縮
1つ目はベーカリー事業を営むアンデルセングループのシステム企業アンデルセンサービスの事例だ。原価計算の仕組みにHadoopを適応することで、4時間かかっていたバッチ処理を20分まで短縮している。
ご覧の通りこの事例はBIではなく、基幹系のバッチ処理を高速化した事例である(関連記事:決算報告作業の劇的な効率化を目指した中外製薬のBI活用)。BIツールは登場しないし、DWHという名前は出てきてない。確かにそうだが、ではこの事例の中でインテリジェンスは生まれていないだろうか?
「ビジネスを進める上で、どれだけの原価が掛かるのか、それを踏まえて幾らで販売するか、ということはビジネス上の重要な意思決定だ。同社は意思決定のためのインテリジェンスにつながるデータを作る時間を短縮した。もっと早く、もっと多くの計算をしたいという意思決定者のニーズを基に、それができる環境を作った」(堀内氏)
現場の意思決定のために複数ソースのデータをモバイルデバイスで活用
2つ目は、ファッションブランド米GUESSの事例だ。BIのプラットフォームとしてiPadを採用することを決定した同社は、画面設計を手書きのスケッチからスタートし、エンドユーザーのフィードバックを得ながら細かく調整していった。
「BIとビジュアルを連携させている。実際の商品写真と売り上げを連携させて見られる。あるいは、今あらゆる店舗で売れている商品が写真で分かる。例えば店舗に行って商談をしているときに、今の売れ筋の説明を担当者がその場でできる。インテリジェンスにつながるデータにアクセスするまでの時間を短縮した事例だ」(堀内氏)
なお、このGUESSの事例については「アパレルブランド米GUESSのモバイルBIとFacebook分析先行事例」に詳しいので併せて参照してほしい。
顧客関係を強化する上で活用すべきデータは何か
一方で、現在企業がビッグデータ活用による効果として「顧客関係の強化による収益性向上」に期待していることは前編でも紹介した。しかし一口にデータの分析といっても、どのデータをどのような角度から分析すれば収益性の向上に寄与するかは見いだしにくい。とにかく集められるデータを集めて、その中から有意な情報を見いだすのは現実的ではないだろう。そこで、ガートナーでは顧客関係を強化するためにフォーカスすべきデータを、活用の難易度順に以下3つに整理している。
| 活用難易度 | データ | 特徴 |
|---|---|---|
| 高 | ブログやソーシャルメディアなど社外から得られるデータ | ・自社と直接のかかわりがない一般消費者の動向なども知ることが可能 ・どのようなデータを誰が入力するかは未知 |
| 中 | 顧客接点で得られるデータ | ・EC(電子商取引)サイトやコールセンターで得られる、顧客や見込み客の行動に関する情報 ・さまざまなインタラクションにより自動的に取得されることが多い |
| 低 | 社内の基幹系システムで得られるデータ | ・会計、販売管理、生産管理といったシステムより得られる情報 ・社員、取引先、顧客などが、一定の決まりに従い入力 |
「市場で注目されているブログやソーシャルメディアのデータを分析してマーケティングに活用するというサービスもある。自社と全く接点のない人の趣味趣向を取ることができる。ただ誰が何を入力するかは分からないので、活用の難易度は非常に高い。一方で自社の基幹系システムのデータは何がどのような形で入っているのか分かっているが、できることも限られている」(堀内氏)
そのような状況を踏まえた上で、現在のビッグデータブームの中で注目されている取り組みの多くは「顧客接点で得られるデータ」の活用だと堀内氏は説明する。Webサイトにおけるクリックストリームや、コールセンターに入ってくる情報など、もともとはログとして取得していた情報を処理するためのテクノロジーが登場してきた。そのため、これら顧客接点で得られるデータをうまく使って、基幹系のプロセスの付加価値にしていく取り組みが増えてきているという。
「隠れた事実を発見する」ために必要なスキル
堀内氏はこうしたデータを活用するために求められるスキルを説明する上で、まず1つの調査資料を示した。それはBIツールの適用分野の実績と計画だ。
2010年までの実績を見ると、「販売系での実績確認」が最も多い。いつ、どこで、何が、どれだけ売れたのかという実績確認のためにBIが多く使われている。一方で、2014年までの計画を見ると、「販売系での実績確認」が多いのは変わらないが、「将来の予測」「資源の最適化」「隠された事実の発見」分野でのBI活用需要が増えていることが分かる。
「予測や最適化、隠された事実の発見は、実績確認より当然難易度が高い。大量データの中にどのようなデータがあるのか、相関があるのか、どのような解析手法を適用するか、どのデータを排除するのか、排除してはいけないのか、これを考えるのは大変だ。世界中でも8割の企業がリポーティングのためだけにBIを使っているといわれている中で、『隠された事実の発見』まで分析担当者のスキルを持っていくのはなかなか骨が折れる」(堀内氏)
自社での育成には時間がかかる。ベンダーへの協力依頼も視野に
これを踏まえた上で、堀内氏は分析担当者(データサイエンティスト)に求められるスキルや経験として以下の3つを挙げる。
| 求められるスキル | 詳細 |
|---|---|
| 分析/意思決定モデリングスキル | データ内部の関係を発見し、考えられるパターンを提示する能力 |
| データ管理スキル | 分析に使用する関連データセットを構成する能力 |
| ビジネス部門とのコラボレーション能力 | ビジネス部門の利害関係者と共同作業を行い、ビジネス上の問題とコンテキストを理解する能力 |
ビッグデータから良質なインテリジェンスを取り出すスキルを持った人材を自社で育成するには、相応の時間がかかる。うまくいくかどうかも分からないビッグデータのプロジェクトにそのような投資はできないかもしれない。そのため、新たなテクノロジーの利用や高度なデータ分析を実施するスキルがない場合は、短期的には外部からスキルを調達することも念頭に置くことを堀内氏は推奨する。
「ビッグデータ分析の世界を見ると、ベンダー各社も今はユーザー企業と似たような状況にある。どこでどのテクノロジーを使ったらいいのかと、ユーザー企業に聞き返すこともある。今ビッグデータでビジネスをやっていきたいと考えているベンダーは、実証実験には協力的だ。交渉事にはなるが、短期的に外の力を借りて実証実験を行い、そしてうまくいきそうだと確信が持てれば、本番プロジェクトに入る。こういうアプローチを取ってみてはどうだろうか」(堀内氏)
以上、ビッグデータの潮流の背景とその活用法、今後求められるデータ活用者のスキルについて、前後編に分けてまとめた。ガートナーが示す「日本におけるBIのパイプ・サイクル:2011年」では、モバイルBIやHadoop、インメモリDBMSといったテクノロジーは現在「『過度な期待』のピーク期」に位置付けられている。ユーザー企業のビッグデータテクノロジーに対する期待は大きいようだ。しかし、そもそもデータ分析は自社の差別化を図る上での施策であって、固有の要件が複雑に絡み合う。だからこそ成功した暁には企業にとって機密事項ともいえる重要な資産となる。そのため、具体的な数値や詳細なシステム構成、分析ノウハウを全て公開するような事例は、今後もなかなか目にする機会は少ないだろう。ベンダー主導の華々しいビッグデータ活用手法は確かに魅力的に映るが、冷めた目で現在のブームを見つめている企業のIT部門は少なくないだろう。堀内氏の示すように、常に「意思決定につながるデータ」に寄り添うことこそが、ビッグデータに限らずあらゆるデータ活用を成功に導くのではないだろうか。
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