中堅・中小企業向けグループウェアSaaS探究:日本IBM
「Notesにはできないことを」――「LotusLive Notes」はグループウェアSaaSの決定版となるか?
日本IBMが2010年10月に提供を開始した「LotusLive Notes」。しかし、Lotus Notesの名を冠するものの“Lotus Notes/DominoのSaaS版”ではないという。オンプレミスではできない、新たなコラボレーションを創出するサービスとは何か。
2009年1月に登場したIBMのSaaS(Software as a Service)型コラボレーションサービス「LotusLive」は、インターネットに接続されたWebブラウザから利用可能なメール、ファイル共有、共同作業、情報収集、インスタントメッセージ、ソーシャルネットワークなどの各種機能を提供するサービス基盤の総称であり、IBMのクラウド戦略の中核を成すものといえる。
そして、2010年10月21日に待望の「LotusLive Notes V1.3日本語版」(以下、LotusLive Notes)のサービスが開始された。しかしLotusLive Notesは、オンプレミスのLotus Notes/Dominoの単純なクラウド版ではない。それを理解するため、各サービスの概要を見てみよう。
Notes 8.5.2の基本機能をほぼ踏襲
高機能なメールを必要とする企業向けに、IBMがLotus Notes/DominoやLotus iNotes(旧Domino Web Access)で利用してきたメール環境とカレンダー機能を、ほぼそのままクラウドで提供するサービス。
IBMのクラウド側ではマルチテナントのLotus Dominoが動いており、メールファイル機能やWebアクセスのほか、Lotus Notesクライアントを利用することもでき、リッチテキストやレプリカの利用、メールやカレンダーの代理権限の設定、多言語(22カ国語)などにも対応している。
また、複数の新規メールを同時に作成したり別メールを参照したり、あるいは一緒にカレンダーを開いたりできるよう、新たにタブ形式による表示方法を採用した。さらに、メール内容のプレビュー、右クリックメニュー表示、ディレクトリからのクイック検索も可能で、大量のメールを参照、送信するユーザーに配慮した設計となっている。メール容量は25Gバイト、年間利用料は8580円/1ユーザー。
同時に、LotusLive Notesをモバイル端末から利用できるオプション「LotusLive Notes Traveler Services」も提供された(年間3440円/1ユーザー)。これはWebアクセスではなく同期型サービスであり、オフラインでもメールやスケジュールの参照が可能だ。2010年10月現在、アップルのiPhone/iPad、Windows Mobile、ノキアのSymbianに対応している。
LotusLive NotesはオンプレミスのLotus Notes/DominoおよびLotus iNotes 8.5.2の基本機能をほぼ踏襲しているが、グループスケジューラやDJX(ドミノディレクトリ日本語拡張機能)、Googleカレンダーとのオーバーレイ機能などが未対応になっているので、導入検討時はその違いを確認しておくとよいだろう。
似て非なるもう1つのメール&カレンダー
また、LotusLive Notesよりももっとシンプルなメールサービスもある。
必要最小限のメール機能を必要とする企業向き。普段、メールを使わない店舗や製造現場のスタッフでも操作できる簡単なアーキテクチャで、迅速に展開でき、低コストで運用できるのが特徴。多拠点でのメール展開や、POP/IMAPからのアクセス、各種メールクライアントを利用するユーザーのメールサーバとしても利用できる。メール容量は25Gバイトで、年間利用料は5150円/1ユーザー。
名称は「i」が1文字付くだけのわずかな違いだが、LotusLive iNotesはIBMが買収したベンチャー企業のWebメールシステムをベースに、クラウド用にブラッシュアップしたサービスであり、Lotus Dominoを利用するLotusLive Notesとはまったく異なるアーキテクチャを採用している。そのため、メールやカレンダーの画面デザインに共通性はほとんどない。
コラボレーションもクラウドで
これらメール/カレンダーとは別に、LotusLiveでは情報共有機能(コラボレーション)が用意されている。
ファイル共有、アクティビティー(共同作業空間)、コミュニティー、インスタントメッセージの機能で構成された、メールを含まない非リアルタイムのコラボレーションサービス。LotusLiveのアカウントを持っていないメンバーにゲストアカウント(無償)を発行し、参加してもらうこともできる。年間利用料は1万300円/1ユーザー。
Webブラウザ上で画面共有を実施するリアルタイムコラボレーションサービス。小規模のミーティング、Web会議などで活用できる。年間利用料は6万7000円/1ユーザー(同時参加者14ユーザー版の場合)。
LotusLive Meetingsの上位版。インフラなしで大規模なイベントやWebセミナーが開催でき、事前告知機能やアンケート収集機能などのイベント管理も備える。年間利用料は13万5600円/1ユーザー(同時参加者999ユーザー版)。
LotusLive Meetings、LotusLive Events共にライセンスは主催者だけが保有し、参加者は費用負担なく参加できる。
条件付きだがお得なライセンスオファリング
以上がサービスの基本製品群であるが、メールを切り離したコラボレーションオファリング(サービスセット)も用意されている。
LotusLive Connections、LotusLive Meetings、フォーム、チャートで構成したコラボレーションオファリング。既存のメール環境をそのまま利用しながら、海外拠点やグループ会社間、社外の取引先などのコラボレーションを最大限に活用したい企業向け。すべての機能がダッシュボード上から運用できるのが特徴だ。年間利用料は7万9000円/1ユーザー(Web会議同時参加者14ユーザー版の場合)。LotusLive Engageもゲストアカウントの発行が可能。
さらに、メールとコラボレーションを統合したLotusLive Plus(Collaboration Suite)というカテゴリでは、以下の2つのバンドルオファリングが設定されている。
- 「Collaboration plus Webmail suite」
LotusLive iNotes、LotusLive Connectionsで構成。シンプルなメールと非リアルタイムコラボレーションで、中小企業での利用に適している。年間利用料は1万2100円/1ユーザー。
- 「Complete collaboration suite」
LotusLive Notes、LotusLive Engage(LotusLive Connections+LotusLive Meetings)で構成した、多機能メールからリアルタイムコラボレーションまでLotusLiveのすべての機能を利用できるフルサービス。中小企業から大企業までの対応を想定している。
なお、このComplete collaboration suiteだけは、「Enterprise Deployment」と呼ばれるライセンスオファリングでのみ提供される。まともに組み合わせると年間利用料8万7560円になるところ、1万7200円/1ユーザーと安価に設定されている。ただし、企業内ユーザーはライセンスを購入することを条件に、ゲストアカウントの発行やWeb画面共有への参加といったライセンス不要のコラボレーションの相手は社外ユーザーに限定される。
一様のグループウェアが通用しない時代
グループウェアの先駆けとして登場し、オフィスワーカーの生産性改善を最大のミッションとしてきたLotus Notes/Domino。そのクラウド版がこのようなサービス提供形態になったことについて、日本アイ・ビー・エム(日本IBM)Lotus事業部 Lotus事業開発部 LotusLive担当の赤松宏佳氏は「多くの企業でワークスタイルに合わなくなったグループウェアを使っている現状がある」と語る。
1990年代のグループウェアは、業務でPCを使う人たちを対象にメール、カレンダー、文書共有ができる環境を提供していた。しかし現在、企業にはナレッジワーカーやバウンダリーワーカー(定型業務社員)、モバイルワーカーなどが混在し、自社内でビジネスが完結するよりも社外のパートナーと情報共有しながら業務を進める企業が多くなっている。ブログやTwitterといったソーシャルメディアも増えつつある。
これからのグループウェアについて、赤松氏は「ナレッジワーカーの生産性を高めつつ、高機能を必要としないユーザー層へのサービスをシンプルにしてコストを削減し、より多くの利用者への展開も図ることで、グループウェア全体のTCO(総保有コスト)を削減する施策が必要となっている」と述べる。
しかし、これまでのLotus Notes/Dominoには越えられない「壁」が存在していたと赤松氏は言う。1つはファイアウォールの壁。もう1つはユーザー登録の壁である。基本的に社内のディレクトリに登録したユーザー間で情報共有することが前提の設計となっている一方で、中小企業ほど企業内よりも企業間で使えるグループウェアを望む傾向が強い。それを解消できる切り札がクラウドというわけだ。
IBMが考える3つのクラウド戦略
IBMではLotusのクラウド戦略を、次の3つの方向性で考えている。1つは、Lotus Notes/Dominoの使い勝手を損なうことなくPaaS(Platform as a Service)やプライベートクラウド上に載せて利用できるようにすること。2つ目は、オンプレミス製品とは異なる価値をパブリッククラウド上で実現する新しいサービスの創出。そして3つ目が、それらを企業内で混在させるハイブリッド型運用である。
そのためLotusLiveでは、メールやコラボレーション環境を一気にクラウド化するのではなく、メールシステムもディレクトリも現状のものを使い、ファイアウォールを越えた相手とのコラボレーションはクラウドを利用することも想定し、製品を機能ごとにコンポーネント化して提供している。
また、「既存のLotus Notes/Dominoユーザーが、LotusLive Notesとのハイブリッド構成でメール/カレンダー機能をクラウド化する場合も、多くのメリットがある」と言うのは、日本IBM ソフトウェア事業Lotus事業部 Lotus第二クライアント・テクニカル・プロフェッショナル 主任ITスペシャリストの大川宗之氏だ。
「オンプレミスのLotus Dominoディレクトリに登録したユーザー情報を、クラウド上のDominoにレプリケーション(複製)できるので、システム管理の方法は変えずにメールサーバだけクラウド化することが可能」(大川氏)
オンプレミスとの混在も指向するLotusLive Notes
加えて、「LotusLive NotesをLotus Notesクライアントで利用する場合、一度ユーザー認証されると、クラウド上のメールサーバにもオンプレミスのアプリケーションサーバにもアクセスできるシングルサインオン(SSO)の環境が簡単に構築可能なのも大きなアドバンテージ」と大川氏は説明する。
通常、SSOを実現するには、専用のSAML(Security Assertion Markup Language:SSO実現のためのXMLプロトコル)サーバを社内に立てる必要があるが、LotusLive Notesの場合はそれが必要ない。
このように、「オンプレミスのLotus NotesかLotusLive Notesか」の二者択一ではなく、混在することを許すことで、それぞれのメリットの組み合わせが可能になる。現在、30日間試用のトライアルが可能なので、LotusLive Notesが現状のワークスタイルに合うかどうかを検証し、次なるコラボレーション環境の進むべき方向性を探ってみるのもいいだろう。
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