Webアプリケーション「管理できる化」のススメ【第1回】
トラフィック調査で分かったP2Pソフトの企業ネットワーク利用状況
日本法人のネットワークの使用状況から、ファイル共有アプリケーションの利用が業務トラフィックに与える影響をランキング形式で読み取る。
子どもができてから趣味となった写真撮影とハイビジョン動画だが、保存容量が500Gバイト近くになり、バックアップに困っていた。データは全て外付けHDDに保管してあるのだが、Blu-rayでは時間がかかるし、複数枚に分ける作業が面倒だ。そこで最近は、トレンドマイクロのオンラインストレージ「SafeSync」(※)を使っている。
(※)SafeSyncは、年額4980円で容量無制限と、太っ腹な価格設定だ。500Gバイトのバックアップを考えた場合、(執筆時では)最もコストパフォーマンスが良い。
SafeSyncへのバックアップ(約500Gバイト)は、半月程で完了した。これは、1日当たり30Gバイトほどのバックアップ容量であり、プロバイダーから警告が来てもおかしくないボリュームである。筆者はこれを自宅のインターネット回線から行ったが、もしもこんなことを法人ネットワークで勝手に行う者がいては大変である。業務トラフィックに影響を与えるばかりか、セキュリティ上の懸念もある。
近年ではTwitterやYouTubeの普及により、そうしたアプリケーションを業務で活用する企業が増えている。では、あなたが所属する組織で、どのぐらいファイル共有アプリケーションが使用されているかご存じだろうか? P2Pとブラウザベースでどちらがより多く使われているだろうか? YouTubeは組織内ネットワークでどれぐらい視聴されているのか? そして、それらのアプリケーションが使用する帯域はどれぐらいだろうか?
これらの質問に、データを基に答えられるユーザーは多くない。感覚的には大体分かると答えるユーザーもいるだろう。しかしその「感覚」は本当に正しいだろうか?
まずは法人ネットワークの実態を知ろう
具体的な数値は、あなたが所属する組織のネットワーク使用状況を実際に調査しないと分からないが、今回は、パロアルトネットワークスが国内60の法人のトラフィックを調査した集計結果を基に、日本法人のネットワーク使用状況をお知らせしたい。この調査はアンケート形式ではなく、実際にパロアルトネットワークスの次世代ファイアウォールをユーザー環境に設置し、トラフィックを調査したものである。その結果、驚くべき実態が見えてきた。
P2Pベースファイル共有で使用率、使用帯域ともにBitTorrentが1位
P2Pベースのファイル共有では、「BitTorrent」が32%の使用率で一番高かった。使用率2位は「FlashGet」で、3位以降「Gunutella」「Emule」「Xunlei」と続く。Xunleiは中国のP2Pで日本語化されていないにもかかわらず、使用率が5位と高い。BitTorrentは利用法人の1週間の平均容量は3.4Gバイトで、帯域使用率も1位だった。なお今回の調査では、P2Pベースのファイル共有は23種類のアプリケーションが発見されている。
BitTorrentのビジネス上のメリットとデメリットについて考えてみたい。BitTorrentは優れたコンテンツ配信の仕組みである。クライアント/サーバ型では、サーバからクライアントに配信するため、人気の高いコンテンツのダウンロードは低速になることが多い。サーバ側の帯域がボトルネックになるためだ。しかしBitTorrentは、ネットワーク上の多数のPeerノードから配信されるため、人気のあるコンテンツほどダウンロードが速くなる。この優れた仕組みから、ビジネスコンテンツやビジネスアプリケーションの配信のための技術としてもBitTorrentは注目されている。
しかし残念なことに、実際はビジネス用途よりも違法コンテンツの配信に使われるケースが多い。BitTorrentはWinnyとは違い、匿名性が低くダウンロードやアップロードを行う際にIPアドレスをさらす。法人ネットワークから違法コンテンツがやりとりされてしまった場合、それは法人の責任となってしまう。今回の調査では、32%の法人でBitTorrentが利用されていたことが明らかになった。1週間に1組織当たりでやりとりされた容量3.4Gバイトは、全てビジネスコンテンツであったと思いたい。
ちなみに今回の調査ではWinnyの使用は発見されなかった。Winnyを組織内で使用しないようにという教育と、物理的な制限が功を奏していると思われる。
P2Pの10倍使われているブラウザベースのファイル共有
ブラウザベースのファイル共有で一番使われているのは、「WebDAV」という汎用のプロトコルである。主にWebサーバの更新などに使われる。使用率2位は、国産ブラウザベースファイル共有の老舗であり、高い使用率を誇る「宅ふぁいる便」である。使用率3位はマイクロソフトが提供する「SkyDrive」。使用率4位は「4shared」、5位は「MEGAUPLOAD」である。全部で39のブラウザベースのアプリケーションが検知された。
使用帯域で見ると、1位は4sharedで1週間当たり10Gバイトである。2位は「MEGAUPLOAD」で6Gバイト。3位以降は、「Hotfile」「Megafire」「Rapidshare」と続く。使用率の高い宅ふぁいる便が使用帯域でトップ5に入らないのは、会員登録なしで使用できるのは50Mバイトまでと、容量制限があるからだろう。
ブラウザベースのファイル共有の一週間当たりの使用容量は49Gバイトで、P2Pベースのファイル共有(5Gバイト)のほぼ10倍である。使用の容易さが使用量を高めている理由だろう。筆者の場合も5Mバイトを超えるようなファイルのやりとりの際、宅ふぁいる便で送られることが多い。
SkyDriveはオンライン上の25Gバイトの容量を無料で使えるサービスだ。仕事のファイルを自宅でも見られるようにとビジネス利用しているユーザーも多いだろう。しかし宅ふぁいる便やSkyDriveなどの無料のサービス上でビジネスコンテンツを扱うのは、あくまでAt Your Own Risk(自己責任)である。この場合の自己とは法人であり、法人内個人の責任を取るのは法人となる点に注意したい。
ブラウザベースとP2Pベースの共通のアウトバウンドリスクとしては、法人内のファイルをP2Pファイル共有ネットワークに流してしまうことによる情報漏えいが考えられる。インバウンドリスクでは、ダウンロードコンテンツからのマルウェア侵入が主なものである。
このように法人内でもよく利用されているファイル共有であるが、IT部門の管理化や指示で利用されているケースは少ないと思われる。エンドユーザー主導のボトムアップによるアプリケーションの利用で法人のリスクを高めているのが現状である。
「では、全て利用を止めればよいではないか」という結論はいささか乱暴だ。ビジネス上便利な物を軒並み禁止すると利便性は損なわれ、企業の競争力低下にもつながりかねない。ビジネス上のメリットが大きいものはリスクをコントロールして使うべきである。
そのためにはまず現状を知ることが必要だ。問題点を知らずして、的を射た改善案は出てこない。問題点が分かったら、次はそれをどうコントロールするかだ。「誰がまたはどのグループが何を使用してもよいのか?」「その場合に帯域制限を行うか?」「どこまでログを取得するか」を決めていけばよい。このあたりの実態の把握とコントロールは「次世代ファイアウォール」の存在意義でもあり、得意中の得意分野だ。
次回はYouTubeやYahoo!動画、ニコニコ動画など、動画コンテンツの利用状況を見ていく。
※本調査は、2010年4月から10月の半年間にわたり60の国内法人のトラフィックを調査したものである。ワールドワイドでは日本の60法人を含む723法人を調査した。前回の調査(2009年11月から2010年3月実施)での調査対象は347法人であり、今回は倍以上のサンプルが採れた。検知されたアプリケーションは931、調査容量は1.3ペタバイトに及ぶ。
菅原継顕(すがわら つぐのり)
パロアルトネットワークス マーケティング部長
セキュリティ業界に10年以上従事。2005年から2010年は、UTM製品を提供する外資系ベンダーでマーケティングを担当。現在はアプリケーションの可視化とコントロール機能を備えた次世代ファイアウォール「PAシリーズ」を提供するパロアルトネットワークスに従事している。
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