重要なのはアプリケーションを含めたTCO
クラウドベンダーの値下げ競争に慣れてしまったユーザーが見失うもの
クラウドベンダー各社は料金の値下げを続けている。だが、ベンダーの選定に当たっては、コンピュータ処理能力やストレージ料金よりも、速度と機敏性が優先される。
パブリッククラウドの料金が日ごとに下がっている。だが顧客にとってはこれが当たり前になりつつあり、他の要素の方が優先されるようになってきた。
米Amazon Web Services(Amazon)、米Google、米Microsoftの3社は、コンピュート(コンピュータ処理能力)とストレージの価格は下がり続けるという前提の下、市場シェアを伸ばすためにクラウドサービス料金の値下げ競争を続けている。今後も料金は1つの要素であり続けるだろう。だが速度や機敏性(アジリティ)に比べると2次的な要素になるとアナリストは指摘する。
Googleは2014年、ムーアの法則に従って値下げを主導し、10月に「Google Compute Engine」(GCE)を一律10%値下げしたのに続いて、11月にも各種の値下げに踏み切った。Amazonは11月に開いたカンファレンス「re:Invent」では、「Amazon Web Services」(AWS)の値下げについて期待されたような後追いはしなかったものの、このほど各種データ転送料金の値下げを発表した。
クラウドの値下げは、ベンダーが暴利を得ていたり、広範に過剰請求を行っていたりするような場合にはもっと重視されるが、この3社にそれは当てはまらないと話すのは、米クラウドコンサルティング会社Cloud Technology Partnersのデービッド・リンシカム副社長だ。「料金が妥当である限り、一般的には企業がクラウド事業者を選ぶに当たって料金に焦点を絞ることはない」と話す。
クラウドの当初の魅力は消費モデルの違いにあり、料金が変わるという前提は常にあったと同氏は言う。それよりも重要なのは最善の製品であること、手早く稼働させたいという顧客のニーズに合った技術を見つけることにある。
「パブリッククラウドの経済性に関する論議がかなりの注目を集めることもある。だがそれは実際には全体的な価値提案の一部にすぎず、どんな場合であっても最も注目される部分ではない」。Cloud Technology Partnersのジョン・トレッドウェイ上級副社長はそう語る。
米調査会社Gartnerのアナリスト、カイル・ヒルゲンドルフ氏によれば、Amazonが値下げをするのは、自社のサービスを最適化できた場合、または競争によって年間を通じて料金が下がった場合だという。
米新興企業ClearSky Dataの共同創業者で、米Verizonのクラウド部門にいたこともあるエレン・ルービン氏によると、Googleの大幅値下げは、自社のサービスとAWSとを比較させる手段だという。
「値下げ競争を主導することにメリットはない。もうそれでは勝てなくなった。Amazonは競争に応じる必要があればそうするだろう。しかしいずれは、半年ごとの値下げよりも、サービスの累積的な価値の方が重要になるかもしれない」(ルービン氏)
米調査会社Forrester Researchのアナリスト、ジェームズ・スタテン氏は、実際にAmazonは新しい方針を伝えようとしているとの見方を示す。「値下げ競争は、中核である処理能力とストレージから、マネージド型のデータベースやアプリケーションサービスへとシフトしつつある」
基本料金の値下げよりも重要なこと
ほとんどの企業にとって、パブリッククラウドへの出費が全体の予算に占める割合は比較的小さい。ユーザーはGバイト当たりの料金や1分ごとの料金の変化に注目しがちだが、例えば、ネットワークトラフィックや帯域幅に関連した隠れたコストなど、単純な使用料以上に重要な要素があり、こうした要素をより全体的な展望に盛り込む必要がある。「クラウドの総コストよりも、TCO(総保有コスト)の方が重要だ」とリンシカム氏は指摘する。
米調査会社451 Researchのオーウェン・ロジャース氏は、いずれベンダーの選定においてこうしたサービスの基本料金は問題ではなくなるかもしれないと予想する。
「オブジェクトストレージと処理能力は汎用品化が進んでいる。将来的に底を打ってゼロになり、クラウド事業者は付加価値サービスで稼ぐようになっても驚かない」とロジャース氏は語る。
451 Researchでは、クラウドサービスのコストを広範に列挙し、変わり続ける料金の状況を把握するために、クラウドの料金設定指標を開発した。ロジャース氏によると、同指標は標準的なアプリケーションの使用コストをベンダーごとに計算し、時間の経過とともにそれがどう変化するかを計算するために使われる。
「仮想マシン(VM)とストレージの料金だけでは、標準的なアプリケーションのコスト変動額を公平に表すことはできない」(同氏)
実際に451 Researchは多数のクラウドベンダーに足を運び、料金設定指標の基となる理論上のアプリケーションに必要な全サービスを提供できない事業者や、顧客が払うことになる料金を十分に把握できるような実際的なやり方で料金設定を公表したがらないベンダーの存在に驚いたという。
そうした限界があったことから、451 Researchでは総コストに着目した指標「Cloud Price Index(CPI)」と、一部のベンダーからは限られた情報しか得られなかったことに対応して、仮想化に着目した指標「Virtualization Price Index(VPI)」の2種類の指標に行き着いた。2014年11月に初めて公開されたCPIを見ると、1時間ごとの料金は標準的なWebアプリケーションの平均が2.56ドル、ハイパースケールベンダー3社(AWS、Google、Microsoft)の平均は2.36ドルだった。また、3階層Webアプリケーション(クライアント、アプリケーションサーバ、データサーバ)の平均を示すVPIについては、全事業者の平均が0.73ドル、ハイパースケールベンダー3社の平均は0.78ドルだった。
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