EDIは流通業全体のインフラを目指せ【第1回】
小売業・卸売業のIT部門が流通BMSの導入前に考えるべきこと
小売・卸間に潜む課題を解決する流通BMS。使いようによっては業界全体のインフラとなり得るまで進化したEDIだが、流通BMSを導入するためには幾つか壁も存在する。
業界全体のインフラとなり得るまで成長したEDI
データ通信はもはや当たり前の時代となった。個人同士の情報交換でさえPCを使ったメール交換が盛んに行われるようになり、流通業でも企業間取引に必要なデータのやりとりは、コンピュータ対コンピュータで行うことが通例となっている。時代の進化とともに、データ交換の技術も、使用する通信回線・通信手順なども、より高度化しているのが昨今の状況である。
こうした環境をビジネスに生かさない手はない。EDI(Electronic Data Interchange)をはじめとする情報ネットワークを業界全体のインフラとして活用し、各社の競争力強化や業務効率化に役立ててほしい。そんな思いで当コラムの執筆に当たっている。
今やEDIは単なるデータ交換のためのシステムではなく、業界全体のインフラとなり得るまでに成長した。近年、流通業界では次世代EDI標準といわれる「流通BMS」(流通ビジネスメッセージ標準)が誕生し、本稼働に向けて動き始めている。こうした流れの中で流通業界の各企業はどのように対応し、何を目指していくべきか? 業界におけるEDIの実態を把握しながら、その答えを探してみよう。
第1回目となる今回は、小売業・卸売業間の現状に焦点を当て、そこに潜む問題点や課題を洗い出してみたい。
EOSはもはや遺物。一刻も早い脱却を!
小売業におけるオンライン発注(EOS:Electronic Ordering System)は、日本チェーンストア協会(JCA)が1980年に制定したJCA手順によって行われている。JCA手順はアナログ電話回線を前提としてデータ交換を行うもので、これにより小売から卸に向けて発注データの送信が始まった。
以来30年もたっているのに、その後は何の進展もない。依然として発注データのみが片方向通信で送り続けられているのが現状だ。しかも、伝送フォーマットは各社各様で統一されておらず、それを受け取った卸側でフォーマット変換しないと受注処理ができない。その上、通信速度も処理速度も遅い、使い勝手が悪いなど、時代にそぐわない遅れたシステムとなっている。
インターネットが普及した現在、通信プロトコルはTCP/IPが一般的となり、通信速度も以前の200倍へと高速化した。そんな中、JCA手順はもはや過去の遺物と見なされ、通信機器メーカーでは次々と専用モデムの製造やメンテナンスを停止している。つまり、小売や卸は一刻も早くEOSから脱却しなければならないところまで追い込まれているのである。
次世代EDI標準「流通BMS」の特徴とメリット
こうした状況を踏まえ、経済産業省では2003年から流通業界における次世代EDIの検討を開始した。同省の外郭団体である流通システム開発センターが中心となり、EDI標準化に向けた数々の実証実験が行われるなど、さまざまな検討が重ねられた。そして2007年、次世代EDI標準「流通BMS」が立案・提唱された。
流通BMSはインターネットを利用したEDI標準で、通信プロトコルにはTCP/IPをベースとした国際標準のebXML MSとEDIINT AS2、日本独自であるJX手順の3方式を、またビジネスメッセージの表現形式としてXMLを採用している。特にビジネスメッセージについては項目が標準として定義されており、これは大きな前進といえよう。
時代のニーズや業界の商慣習を踏まえて開発された流通BMSは、
- 通信速度が速い
- 漢字が使える
- 文字以外のデータも送れる
- データフォーマットが標準化されているため、接続先ごとに個別の変換プログラムを作る必要がない
- 受発注から物流・決済までカバーできる
など、従来型EDIではかなわなかったことを可能にした。大容量、多機能、しかも通信コストが安いとなれば、企業としては注目しないわけにはいかない。経済産業省でも、新たなEDI標準として、流通BMSの本稼働と普及促進に力を入れ始めている。
流通BMS導入の壁
しかし、企業が流通BMSを導入するためには、幾つかの問題がある。
1つは技術的にハードルが高いことだ。例えばセキュリティについて考えてみると、インターネットを使ってビジネスを行う場合、情報漏えいを防ぐための暗号化や、相手を確認するための電子認証の仕組みが必要になる。電子認証を行う第三者サービスもあるが、コストが掛かることがネックである。
もう1つの問題は、環境変化への対応が遅れているということだ。特に中堅クラスの小売業・卸売業においてこの傾向が強く見られるが、JCAモデムやホストコンピュータに代表される、いわゆる「レガシー」的な機器類がいまだにシステムの中核としてフル稼働を続けている。これらの仕組みをインターネットに対応させるためには相応のコストが必要になるが、昨今の景気状況により満足なIT投資ができない、という事情もある。
流通BMSは非常に先進的な仕組みではあるが、技術的・環境的ハードルを乗り越える必要があり、残念ながら導入できる企業はごく一部に限られているというのが現状だ。
壁を突破するために
では、どうすればよいのか?
まずは自社の置かれている環境を再度整理し、何がハードルとなっているのか(人? システム? コスト?)を見極めてほしい。もし、技術的な知識が不足しているのであれば、まずは流通システム標準普及推進協議会などが開催する流通BMS導入セミナーや、付き合いのあるシステムベンダーに話を聞いてみるのがよいだろう。
また、システムの老朽化やブラックボックス化がハードルとなっているのであれば、流通BMS導入をトリガーとして社内システムの刷新を図るチャンスととらえたり(余裕があれば、の話だが……)、ASPやクラウドコンピューティング、サーバ仮想化といった多種多様な最新の品ぞろえの中から、自社の事情に合いそうなサービスをうまく活用することを検討してみるのがよいだろう(ただし、「流通BMS標準を守る」ことを必ず意識してほしい)。
普及促進のカギは環境整備とサポート体制
実用に当たっての課題はまだまだ多いものの、流通BMSは次世代EDIとして大いに評価できる。体制作りも少しずつ進展しており、2009年に設置された流通システム標準普及推進協議会の下で、業界各社の要望を踏まえて標準化についての検討がなされていく予定だ。この組織が有効に機能すれば、さらなる前進が期待できるだろう。
後は普及の仕方など、今後の展開の具体化や透明性が望まれる。せっかく苦労して良いものを作っても、導入する企業が増えなければ意味を成さないからだ。流通業界の企業規模はまちまちで、大企業から中小・零細企業までと幅広い。システム環境や技術レベルも1社ごと異なる中で、普及を促進するためには個々のレベルに応じたサポートが必要になる。
以上のことを念頭に置き、各社の情報システム担当者は将来的な視野に立ち、自社の方向性を見極めていかねばならない。同時に社会性も考慮し、業界全体の中で自社はどうあるべきかを選択していく必要もあるだろう。
筆者紹介
玉生弘昌
株式会社プラネット 代表取締役社長兼執行役員社長
1968年にライオン油脂(現在のライオン)入社後、マーケティング部、総合管理部、システム開発部勤務を経て、1985年にプラネットの常務取締役に就任。1993年より現職。社団法人流通問題研究協会 副会長、日本チェーンドラッグストア協会 EDI推進委員会 顧問会議 座長。
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